第10話

ビシイッ!


「!?」


 破裂音のような音と共に、弾き飛ばされるコントローラー。


「危ない!」


 剛迫(ごうさこ)はゲームで鍛えた反射神経を活かし、コントローラーを空中キャッチ。


「何者!」


 四十八願(よいなら)は素早い動きで戦闘態勢を取る。


「……」


 不死川は誰よりも速く部屋の隅に移動し、隠れてしまう。

 そんな面々の反応を見た、『相手』は――


「ハッハッハアーーーーーーー!」


 猛々しい笑い声を上げた。


「何だ何だお前えええ! そんなヌルいクソゲーで最底辺を獲ろうってのか! 甘いんだよおお!」


 そう言って、手に持ったムチをビシッと伸ばし、見せつけるように前に掲げる。

 それは――この学校では見ない顔。派手な黒と金に彩られた私服を纏った細身で筋肉質な、大学生くらいの男――

 部外者の侵入である。


「何だお前……! 部外者か! 下がってろみんな!」


 武器を持った不審者の乱入。

 ここはまず、俺が前に出て、みんなを助けないと――男が廃る!

 俺はソファから立ち上がるが、


「てりゃあーーーー!」

「モグゴ!?」


 俺よりも後ろに居たはずの四十八願の膝蹴りが、不審者の腹にクリーンヒットした。

 後ろから飛び出したというのに、膝蹴りが直撃する瞬間まで視認が出来なかった、異常な瞬発力。

 爛々と闘争本能に輝く双眸の残す残光は、不吉な蝋燭の蒼い光を思わせる。


「ッフイ! テリャア、フウッ! ホウッ!」

「ぐぼ!? ぐはっ! あべ! ッヅダ!」


 四十八願の手足が男の持つムチよりも柔軟にしなり、しなり、不審者を痛めつける武器と化す。しなやかでありながら重い一撃一撃は相手のガードを無視し、着実で無慈悲にダメージを与えていく。


「だあ!」

「ぐわああああああ!」


 そしてトドメは、ナイト直伝のアッパーカットである。

 吹き飛ばされた男はガラクタの山に背中を打ち付け、そのまま沈黙。四十八願は目元の不穏な炎をかき消すように目を拭うと、スピード感溢れる動作で指を天井に向ける。


「よしっ! 一丁上がりぃ!」

「女流社会ってマジ怖い」


 男の株上げチャンスを見事に奪われた瞬間である。

 かくして不審者は、四十八願によって物理的には戦闘不能にされたわけだ。ここはさっさと警備のおじさんにでもしょっぴくべきなわけであるが、


「待って」


 制したのは、剛迫。

 剛迫は男に近づくと、武器だった鞭を手にし、その柄を確認する。


「やっぱり……間違いない! 起きなさい、貴方!」


 無慈悲なビンタ一閃。

 それが気付けとなって、男は覚醒する。


「な、なにやってんだよ!? 何でそいつを起こしてんだ!」


 俺は叫ぶが、他の2人は事情を呑み込んでいるのか、押し黙って部屋の端へと避ける。そう、それはちょうど、男と剛拍のゲーム・フロンティアへの接近を妨げないように。

 満身創痍の男を引きずり起こした剛迫は「何故って……!?」とあくまで神妙な表情で、俺に向き直る。


「この男が……クソゲーバトルをしに来たからよ!」


 そして、理由を言い切った。

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