第6話
見学会とは気軽に言われたが、一つ困ったことがある。
そもそも場所、どこなんだ、と。
――ちょっと見学のために準備するから、4時くらいになったらその場所まで来なさい!
と言われて地図を渡されたはいいのだが、『その場所』というのがなんとも奇妙な場所だった。
部室塔の、空き部屋の一つなのである。
「……何も、ねえよなあ?」
俺はドアの窓から、中を改めて覗き見た。
この学校にはかつて様々な部活が存在していたらしい。なんでも初代校長が『生徒たちの自由な行動を後押ししたい』という理由で部活を大量に作ることを目的とし、部室塔の部屋数を充実させたのだ。
しかし、顧問の先生が不足。
生徒たちの自治に任せるという発想に至っていくつか顧問が兼任になるという暴挙にまで及んだが、そうなった部活は単なる生徒達のたまり場になってしまうという当然の結果が生まれた。
結果、次の世代の校長はそうなっている部活の間引きをし、適正な数にされた部活達。部室塔には結構な数の空き部屋が出来る。
今ではそこはただの空き部屋になるか、二度と使わない物達が放棄される万年物置部屋と化したのである。
目の前にあるこの部屋は、前者。恐らく初代校長の頃は『忍術部』とか何かだったのだろう、先輩たちの残した水蜘蛛やカギ縄、掛け軸などが壁に掛けられたままで放置されている。両隣は物置部屋で、片方に至ってはとても開けられないほどに荷物で溢れかえっている部屋だ。ずさんな空き部屋の管理体制が伺える。
「場所合ってるよな……?」
「ええ、合ってるわ」
自然に俺の呟きに返したのは、いつの間にか出現していた剛迫その人だった。相も変わらずに優雅で大人っぽい空気を纏ってはいるが、『準備』をしていたせいだろう、埃が制服の隅にふうわりと乗っているのを見逃さない。
しかし剛迫は制服の埃よりも周りの様子を伺うことに注意力を振っているようで、鋭く周囲に視線を巡らせながら、俺の隣に立つ。
「お前も今来たのか? 準備するって言ってなかったか」
「ええ、準備してきたわ」
「?」
つまりこことは別の場所ってことか?
ここをあくまで集合場所にして今から移動、ということなのだろうか。推測が頭を巡るも、そんな無駄なことしなくていい、とばかりに剛迫は壁に手を付く。
「何やってんだ? おま……」
「開けるから、すぐに入ってね」
「?」
どういうことか、と訊く前に。
剛迫は壁を押し込み――
どんでん返しの仕掛けを、起動させた。
「!?」
「早く、場所がバレる!」
急かされて急いで中に入りつつ、頭の中で納得する。
ここは元・忍術部の部室。
活動の一つとして、自分の部室を忍者屋敷のように改造していたのだろう。
その一つがこのどんでん返し――というわけだ。
「私のお父さんがOBで、忍術部だったの。それで、仕掛けの位置と起動方法を教えてもらったわ……。クソゲーは機密なの、誰にも場所を悟られるわけにはいかない」
剛迫は慣れた手つきでどんでん返しの仕掛けを元に戻すと、今度は掛け軸の方へと移動した。
ここが忍者屋敷なら――俺はここで察する。
「そういうことよ」
掛け軸の裏に隠し通路。お約束のようなものだ。
隠し通路は人一人が通れるくらいの横幅で、最初に剛迫が、続いて俺が中に這入り込む。
そしてついに辿り着いたのが――
秘密の、クソゲーラボだ。
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