第4話
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「おい、剛迫?」
『何かしら』
「始まらないんだけど。ずっと NOW LOADINGが止まらないんだけど」
『あと一分は待つわよ』
……おかしいな。データをインストールするという特性上、そこまで膨大なデータを読み込むことってあんまり無いんだけどなあ、ゲーム・フロンティアのゲームって。
俺はひたすら、黒画面の中に表示され続けるこの英文を読み続けることを強いられる。
そして一分後に表示されたタイトル画面だが、どこか古めかしい塔のイラスト、PUSH ANY の文字。そしてデカデカとしたギガンテスタワーのタイトル名。
Aボタンを押して、さてゲームスタート……
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「またロード入ったぞ!? 何だこのゲーム、そんなに容量多いのか!?」
『そんなに多くないわ。せいぜい1ギガってとこじゃない?』
「じゃあ何でこんなロード入るんだよ!」
このロードだけで30秒は待たされた。
さて、合計3分30秒にも及ぶロードを終えて出てくる画面は、これまた時代めいたドット絵の世界だった。一つ目の巨人(ギガンテス)が王女を握りつぶすようにさらい、主人公であるナイトが巨大な塔を前に謎のガッツポーズを決めて、いざ王女を助けに行くというストーリー。
ぶっちゃけて言えば。手あかが付きすぎて本体が見えないレベルのテンプレストーリーである。
そして始まる本編。ナイトがぽつんと一人草原の真ん中に立ち、向こうからは草に足が生えたようなコミカルかつ手抜き極まりない敵がのこのこと歩いてくる。
「……このゲーム、操作説明とかはないのか?」
『無いけど?』
当然のように言い切ったな。
まあ、つまり簡単な操作っていうことか?
いつの間にか草状の敵は主人公3人分くらいの距離にまで迫っている。地味に足が速く、操作確認の猶予なんて誇張でなく3秒くらいしかない。
「お、おい! 攻撃ってどうすんだ、ポーズは!? スタートボタン押してもポーズになんねーぞ!」
『ポーズなんか無いわよ。攻撃はね。方向キー上を押したタイミングでBボタンでパンチが出せるわ』
「はあ!?」
何か格闘ゲームコマンドめいたことを言われた気がする。
しかもそれで出せるのがただのパンチ?
敵の距離はもうすぐそこまで――
「でりゃ!」
俺は起死回生の一撃を草状の敵に放つ。
ナイトは騎士道精神などかなぐり捨てた腰の入ったガチパンチを、のこのこと歩いてくる草に放つ。
直撃をした――はずなのに。
わずかにノックバックしただけで、またこっちに向けて歩いてきた。
「死なねえの!? 一撃で死なねえのこいつ!?」
『ああ、デッドリープラントは体力が10あるわ。10回パンチしないと倒せないわ』
「こいつナイトのくせに剣使わないのかよ! 何か他に武装ねえのかこいつ!」
『ABボタン同時に押せばパンチより強力な前蹴り出来るけど、そのたびに体力減るわ』
「こいつナイトの資格ねえな!」
ABボタンを押すと、さっきの本格的なパンチにも匹敵する年季の入った前蹴りがデッドリープラントに向けて繰り出された。
これが高威力で、『もきゅ』と迫力の無い音を立てて、デッドリープラントは消え去り、得点アイテムに変化する。
肝心の体力はというと。
100分の1くらいしか減ってない。
「……これ、パンチの意味あんのか?」
『無いわ』
「意味ねえ攻撃手段だな! 無駄に出しにくいだけで!」
デメリットとメリットが余りにも釣り合わない。
進むと、またデッドリープラントが出てくる。今度もキックで撃破だ。また得点アイテムに変化し、俺は先に進む。
また出てくるのはデッドリープラント。
今度は二匹。
「このゲーム、デッドリープラントしか出ないのか?」
『城門の敵は、ボス以外は全部デッドリープラントよ』
まあ、チュートリアルだと思えばいいだろう。死ぬほど単調で退屈ではあるけど、操作説明も無いのだ、ここで覚えるという設計なのだろう。そうあるはずだ。
向かってくる二匹のデッドリープラントを剣でなぎ倒し、少し歩くと。今度は小さな穴に直面する。
「ジャンプは?」
『方向キー上、B』
「は? それ、パンチと同じ……」
『同時じゃないわ。上を押した後にBよ』
嫌な予感がじくじくと湧き出してくる。
穴の前に立って方向キー上、B。少しずらして入力をしたはずなのに。
案の定、パンチに化けた。
「……」
何か、分かってきた。
このギガンテスタワーってゲームを評するのにぴったりな言葉が、一つだけある。しかし俺の中に残っているほんの僅かな理性が、その言葉を叫ぶことを食い止めていた。
コントローラーを握る手が震えてくる。パンチに化けること数回、ようやくもっさりとしたモーションでこのナイト様は飛翔し、穴を飛び越してくれる。
しかしそこで――
正面から、砲弾のような黒い塊が飛んできた。
「あ!」
咄嗟にぎりぎりまで引き付けてジャンプしようとするが――そこはシビアな判定、ナイトは砲弾を相手に果敢に拳を突き立てた。
しかし蛮勇が文明の利器に勝るはずもなく、砲弾は無慈悲にナイトに直撃・炸裂。『ぱおーん』と情けないSEと共に、ナイトは一撃死した。
「一発かこれ!? 一発で死ぬのか!?」
『蹴りで減る分と、中盤に出てくるトラップ以外は全て一撃で死ぬと思っていいわよ』
「……!」
そして移行するゲームオーバー画面。
ナイトが膝を付いて自分の腹を剣でかっさばくという、騎士道ならぬ武士道精神に溢れた最期を遂げるまでがねっぷりと描かれ、血の海に沈むまでの時間・約40秒。
その後に表示された文章、
『OMAEHA SINDA。HIMEHA IKENIENI SASAGERARE、SEKAIHA YAMINI TOZASARETA』
お前は死んだ。姫は生贄に捧げられ、世界は闇に閉ざされた。
救いの無い文章がローマ字で流れた後、陰鬱で絶望的なBGM、そして人々のブーイングのような声で、GAME OVER。
そしてまた、ロードが始まる。
「……」
俺はまた、さっきの砲弾の前まで来ていた。
今度のジャンプは成功して、砲弾を回避。当然のように二発目、三発目が飛んできて、しかもデッドリープラントの攻勢まで挟まり、さあ、忌まわしきボスの面を拝――
ぷーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
止まるBGM。
止まる主人公。止まる制限時間。止まる背景。
フリーズした。
『あ、その音、フリーズしたみたいね。ホームに戻ってリセットしないと……』
「あ、いい。もういいや。評価終わった」
時間を確認すると、午後10時50分。電話の向こうにいらっしゃる作者様がご就寝なさる時間が近い。最後までやりきっていないで評価するというのは例外中の例外、下手をすればゲーマーの沽券にも関わるが、もう分かってしまったものは仕方がない。
相手を傷つけてしまうかもしれない。
もしかしたらもう二度と、ゲームを作りたくなくなってしまうかも知れない。
でも、こちらとて――譲れないものはある。
ゲームをひたすらに愛する者として、ゲームと称されたものを正しく、自分が思ったままに評価する。そんな自由への渇望、思想の自由、表現の自由。
全てプレイしていない分、創作物への敬意は欠けてしまっていることは否めない。
だが、多くゲームをプレイしていると既視感というものは出てしまう。ある種の未来予知が出来てしまう。
だからこそ俺は、このゲームに。
クリアこそしていないが――最も相応しい、この言葉を贈ろう。
「クソゲーじゃねーかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
粉体一粒も残さずに感情をフルバーストした咆哮は、ご近所迷惑になってもおかしくないレベルの咆哮だった。
電話の向こうの相手も耳にダメージを負ったのは間違いないだろう。しかしこのクソゲーを作りやがった奴は、『どんなところが?』なんてのたまいやがる。
そんなに知りてえか、なら言ってやるよ。
「ほぼ全部だ! 何だあの異常に長いロード時間、わざと作ってんのか!? 攻撃方法やジャンプのやり方、俺はお前から聞いたからいいが普通あんなの分かるかボケ! そして体力ゲージも何の意味があるんだよ、100回も蹴り入れなきゃいけねえ機会でもあんのか!? あったとしてもサブウエポンのパンチの火力低すぎるだろ、草一本刈り取るのに10発なのによお! キャラ設定もおかしい、何で剣が自決用になってんだよ、何で格闘戦に特化してんだこの騎士!」
『……』
「パンチとジャンプのコマンドほぼ一緒にしてるのも意味分かんねえんだよ! 入力シビア過ぎて咄嗟の時なんかほぼパンチに化けるだろうが、分けろ! 大体何故AとB単体で押して何も起きねえんだよ、あのボタンは何の意味がある! そして死ぬ頻度に対してペナルティのゲームオーバー画面がイライラすんだよ、何で死ぬたびにあそこまで待たせられる! リアルな時間にダメージ与えるデスペナルティ設けてんじゃねえ!」
『……』
「とにかく操作性は悪い、コマンドは分からない、体力ゲージ意味無い、ロードは長い、ゲームオーバーも長い、SEは安い! おまけにフリーズときたな! 擁護できるとこがねえよ、コレは紛れもねえ死角のねえクソゲーだ!」
俺は一切の遠慮無く、このゲームをプレイした感想を作者に純度100パーセントで直撃させた。
罪悪感などまるで無い。むしろこんな問題点の塊を大会に出すというテロ紛いの暴挙を食い止めることが、テスターとして出来る最大の仕事だろう。道を行く友に必要なのは甘言ではなく、諫言であるはずなのだ。
電話の向こうの作者は黙り込んでいた。ギシギシ、と妙に艶っぽいベッドの軋みを立てて、身じろぎしている。
言い過ぎた、なんて謝りはしない。それは誤りで過ちでしかない。
『……やっぱり、貴方を選んで良かった』
と。
銀婚式を迎えた妻が夫にかけるような言葉を、剛迫は紡ぐ。
『クソゲーをクソゲーと言い切れる、その思い切り。一切の慈悲もかけずに問題点を直接本人にぶつけられるその心がけ。それこそまさに、私が貴方に求めていたものよ』
「クソゲーを……クソゲーと言い切れる……?」
クソゲーだと、自覚があった?
いや、むしろ無い方がおかしいレベルの出来だが――あれ?
これって確か、『大会に出す』ためのゲームじゃなかったのか?
「お、おい、何かおかしくないか? お前これ、大会に出すためのゲームなんだろ?」
『そうよ。これ、大会に出すわ。でも安心して、『この程度』のクソさで出すつもりはないわ』
剛迫の声に、闇がちらついた。
俺の背筋がぞわりと冷え込む。
ゲーマーとしての本能が、危険を察知し、最大限のアラートを鳴らしている。
『進化し続けるのよ、クソゲーは。ライバルのクソゲー達に打ち勝つには、まだまだこんなものでは足りないの。こんな程度で済ますものですか』
ライバル?
俺は人骨の浮いた魔女の大釜の中身を見たような気分になる。
まさか、大会って。
大会の、『ジャンル』っていうのは、もしかして――
「おい、剛迫……教えろ。お前が出そうとしてる大会のジャンルは、何だ!?」
『ジャンル? ジャンルは、アクションよ。――ああ、そうか。そういえば言ってなかったわね』
ギシ。
向こう側から一層大きなベッドの軋みが聞こえてきて、剛迫が立ち上がったのが分かった。
全世界に向けて宣言するかのように雄大に手を広げているかのような力強さと、強大で確固たる意志を以て。剛迫は、ついにその正体を明かす。
『クソゲーの大会よ、私が出すのは』
俺はギガンテスタワーのトップページに食いついて、急いでスクロールをした。
スクロールの最下段にある、クリエイターの名前を見て、俺は全てを悟ると共に、真っ黒な絶望に包まれる。
剛迫 蝶扇。
心通わせた、俺の魂のゲーマー仲間。
彼女のゲーム・フロンティアでの名前は――
『さあ、一緒にクソゲー、作りましょ?』
クソゲーを乱造し、悪魔のサーカスに引きずり込む最凶の道化師。
『すまいるピエロ』は、電話越しに微笑みを浮かべた。
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