灰色の日々
「葉山さん、ラティスの上村さんから一番にお電話です!」
「はい。お電話代わりました、葉山です。おはようございます、いつもお世話になっております…」
中小企業のアパレルメーカーの営業職として働く私は、担当の顧客達を任されて一年も経っていないペーペーの新人だ。
右も左も分からない状況で、自分で考えて動いて覚えろなんていう前時代の上司に怒られながら仕事をこなす毎日。
本当は、仕事をこなすんじゃなくて仕事を精力的にやっていきたいのだけれど、私なんかじゃこなすだけで精一杯だし、二年目にしてとっくにやる気はない。
同じ社会人二年目の商社勤務の柊二は、私の倍のお給料を貰っているし、保険会社勤務の友人のように、あからさまなインセンティブもない。
正直、今の会社は土日祝日が休めるだけで、就職活動に失敗したな、なんて思う。最近じゃ、休みの日こそ働けなんて言われている始末だけど。
柊二は、今頃つまらないと言っていた会議に出席しているのかな。
気の引き締まらない毎日。
溜め息を吐いても、売上が出るわけでも、ましてや柊二がアパートに帰ってくるわけでもないのに。
「葉山さん、どうしたんですか。今日は元気ないみたいですけど。」
「あぁ、赤坂くん。ちょっとね。なかなか商談のアポが取れなくて。」
「営業さんは、大変ッスね。俺はまだサポート役ですけど、何かあればいつでも手伝いますんで。」
そう言って、赤坂くんはニッコリと笑いかけた。
そんな赤坂くんの笑顔を見て、私は入社したての頃を思い出した。
あの頃は車で二時間ほど離れた地元に歳上の恋人がいて、何か困った事があったり、お昼休みの時はこまめに連絡をとっていたものだ。
私より5つ歳上だったから、入社したてのまだ学生の私に色々とアドバイスをしてくれたっけ。
結局、彼とは電話越しにケンカして以来、それっきり連絡がつかなくなって自然消滅しちゃったわけだけれど。
地方とは言え公務員、ちょっともったいなかったかなーなんて。
そんな二年前を思い出しながら、得意先からの連絡を確認するフリをして、私はスマホを手に取った。
柊二から、アパートの鍵はちゃんとポストに投函しておいたという事と、彼を昨晩泊めた事へのお礼が綴られていた。次の約束をしないのが、実に彼らしくて。
ふーっと小さく溜め息を吐いて、私は倉庫に向かった。
商品が大量に掛かっているラックの影に隠れて、柊二とのトークの履歴を眺めながら、頭の中では昨晩の情事を思い出す。
つまらない仕事、つまらない生活、つまらない私。
柊二との情事は、そんな私の灰色の日々に色をくれる唯一の出来事なのだ。
何度も何度も頭の中で思い出して、自分の存在を高める。
はーっと、ひとつ息を吐いて私は仕事に戻った。
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