平行線の向こう側

皆川くるみ

序章 オレンジライト



「…んっ、だ、め…」



 真っ暗な部屋のベッドの上で、淡いオレンジの光を背に浴びた影を見ながら、嘘か本当か分からない声を紡ぐ。



「…なに?もう降参?」

「そんなこと、ないけど…。久しぶりなんだもの。」

「それは俺も同じでしょ?」



 そう言って、また私の上でせわしなくリズムを刻み始めるのは、大学時代から親交がある、館山柊二たてやましゅうじ



 こうやって、気まぐれに私に連絡を寄越してきては、私を抱く。


 少なくとも大学生の頃はずっとただの同級生で、同じゼミの幹事と副幹事の関係だったから、社会人になってこんな風に彼と関係を持つなんて想像もしなかった。




 …でも、嫌いじゃない。

 彼の筋肉質な体は好みだし、情に厚い性格も、人望がある所も、こうやって時々、私を抱くことも。



「…ひより、限界…もういくよ?」

「いいよ、来て。柊二。」



 彼は毎回、私を置いてけぼりにしないように気遣ってくれる。だから私も、それに応えて柊二の背中をぎゅっと抱きしめ返す。


 心地よい微睡まどろみの中、熱い吐息を何度も何度も交わしながら、オレンジの光の眩しさに私はゆっくりと目を閉じた。




 ***



 後処理をする柊二の背中を眺めながら、もしも私達が恋人だったら、なんてことを考えてみるけど、それはおかしな話。


 私と柊二は、お互いに言葉をはぐらかし、騙し騙しもう二年もこんな関係を続けている。

 今更、恋人という記号を与えられた所で何も変わらないし、いつか終わりがあると考えるとこのままの方がいい。



「ん、どうした、ひより。」

「…何でもないよ。柊二は、明日は本社で朝から会議なんだっけ。」

「そうそう。たった一時間のつまらない会議の為に、わざわざ遠方の支店から呼び寄せられてるってわけ。」


 情事のせいですっかりぬるくなってしまったミネラルウォーターに口を付けながら、柊二は言った。



「おやすみ、ひより。」

「…おやすみなさい。」



 また私は、柊二の腕の中で眠りについた。

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