第19話闇との戦い2
車は光の玉を空中に引きずっているような形で走っていた。蒼は助手席で食べられるだけのおにぎりを食べ、一息ついた。
運転席の母は、心なしかやつれたような顔で前を見据えている。バックミラーでそっと後部座席を見ると、青い顔をした涼と、それを気遣う有、それに手をつないで集中し続けている恒と遙が見えた。
そんな蒼に気付いて、涼が言った。
「あんたほんとに疲れないのね。あんなに大量の力を出したのに。」
蒼はなんだか申し訳なく思った。オレはオレで力いっぱい戦ったのだが、体は全然疲れていない。今回は疲れた気がしたのだが、腹が満たされると、やっぱり元気だった。
「でも腹が減るんだ。」
蒼は情けない気持ちで言った。
「そうね。それが無ければ頼りになるのに。」
「やめなさい」維月がたしなめた。「今回はこの子が居なかったらどうなってたか…私達じゃ最初から全開の力で壁を作らなきゃ避けることも出来なかった。まして封じるなんて出来なかったわ。技術はどうあれ、この子の力は底が見えないわ。」
涼は黙った。そうなんだろうか。蒼はまだ、実感出来ずにいた。維月は続けた。
「それから蒼、あなた細過ぎるのよ。この間の身体測定で、体脂肪率低くくって母さんびっくりしたわ。ボディビルダー顔負けよね。」
「そうなの?!」涼が食い付いた。「ちょっとそれ許せないわっ」
蒼はたじろいた。
「お前の体脂肪率はオレのせいじゃないじゃないか」
「とにかく」維月は畳み掛けるように言った。「あなたはちょっと太りなさい。あれだけ食べてて、なんでかしらねほんとに。」
恒と遙が眉を寄せている。集中力が切れるからやめてくれと言わんばかりだ。
車は高速を降り、美月の家へ到着した。
蒼にとっては二年ぶりぐらいだったが、ここはいつ来ても清々しい。車を降りた一行は、光の玉を引きずって、あの川原へ向かった。
「ここだったのか…」
蒼は言った。二年前の夏休みに裕馬と共に滞在した時、二人で森を抜けて、たまたま見付けた場所だった。二人で川原で遊び、裕馬が熱射病になったり大変だったが、それでも楽しい思い出がある。
《ここは変わらねぇ。》
十六夜は言った。ツクヨミと最後に戦った場所なのだ。維月が蒼を手招きした。
「蒼、いらっしゃい。」
蒼は維月に並んだ。
「あなたが封じるのよ。私達は消耗していて、強い力で封じられないから。」
蒼はうろたえた。
「え、どうやって?」
「大丈夫、有が居るわ。」母はにっこり笑った。「あの子は封じたり、守ったりが得意なのよ。」
蒼は有に言われた通り、恒と遙から光の玉を引き継いで、岩場の小さな亀裂に意識を向けた。
あの中に、この光を押し込むイメージをする。…でもこのままじゃ無理だな…一旦つぶして、水みたいに流れるように形を変えて…。
蒼がそう思うと、急に十六夜からドッと力が流れ込んで来た。蒼から出た光は、球体を押し潰す勢いで挟み込んだ。
『おおおおお…』
球体から悲鳴のような声が聞こえて来た。蒼はびっくりした。もしかして封じるっていうより今浄化してるんじゃ?
《おいおい、消しちまうなぁこれじゃあ。》
十六夜が話し掛けて来た。
「この隙間には形変えなきゃ入らないと思って…。」
《それは地上の物理的な考え方だ。エネルギー体は本来、そのままでもいいんだよ。封じるにしちゃあ、えらい量の力を引き出しやがるなあとは思ったんだが。》
「消せるの?」維月が少し離れた場所から叫んだ。「消せるなら消しなさい!」
抵抗しようと、光の中では何かが激しくうごめいている。蒼は腕を上げた。ちょっと力を入れないと、消してしまえない気がする。
十六夜から更に大量の力が流れ込んで来た。蒼は光の形に合わせて、上と下から挟み込むように手を出すと、その間の空気をぎゅっと潰すように力を入れた。
見ている者達も力が入っている。蒼は固いものを押し潰す時のように力を入れた。
「うう~ん!」
光はついに完全に闇を押し潰した。
『ギャアアア…』
木々がざわざわとざわめいた。大岩の中から地の底から響くような悲鳴が聞こえ、蒼はビクッとした。そして一度地響きがし、辺りは静かになった。
虫の声が戻って来る。
闇の一部は消滅し、それと共に光も消えていた。
蒼は膝をついた。ダメだ、また…。
《そりゃ腹も減るだろうよ。これだけ一度に力を引き出されるのも久しぶりだ。》
十六夜は言った。
今度ばかりは、蒼も疲れていた。本来ならしなくていい、物理的な力も入れてしまったからだ。
《肩に力が入りすぎたな、蒼》
「早く飯食って寝たい…」
「飯は食うんだ」
涼が呆然としたまま言った。
東の空が白み始めていた。
そのあと維月が、月音の破られていた縄の結界を直し、皆で美月の家に戻って休んだ。
大きな座敷で皆が並んで寝ている中、蒼は1人カップラーメンを食べていた…。
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