第7話仲間達
家に帰り着くと、母がやはりドア前のベンチに居た。蒼は一気に話したいことが溢れ、早口で話し始めた。
「母さん、オレ今日っ、」
「ストップ」母は、両手を上げてそれを制した。「だいたいは月に聞いてたところよ。先に傷の手当てをしなさい。有が準備してくれてるわ。そのあとで、皆でバルコニーに出て月とも話しましょう。あの女の子のこともあるし」
蒼は、食い下がった。「傷なんて大したことないよ。早く話したいんだ。十六夜も血も出てないって言ってたし…」
月は口を挟んだ。《蒼、いい子でいろって言っただろーが》
「十六夜?」と維月。
「月の名前だよ。オレはそう呼ぶ。」
維月は月を見上げた。「ほんと?」
《…だそうだ。》
「まあいいわ。とにかく手当てが先。行きなさい。」
蒼は渋々中へ入った。
傷は思ったより深く、血は出ていないが内出血がひどかった。そんなにきつく噛まれた気はしなかったのに…。
有に湿布され、蒼は兄弟姉妹達と、母の待つ大きなバルコニーへ出た。
母は、バルコニーのベンチに座って待っていた。
「じゃあ蒼、事の次第は月に聞いたわ。初めてのことで驚いたでしょうけど、実は私達の回りではよく起こってることなの。私達は人の出す黒い念の塊が見えて、それを浄化することが出来る力があるの…母さんの家系に、そういう人が出て、それからずっと、月と話せる者はその念と戦って来たのよ。」
月が補足する。
《ずっとって言っても、ここ数百年ぐらいだがな。お前達みたいな力を持って生まれた最初の女は、ツクヨミと呼ばれていた。それから1人ずつ、ずっとつながって来た。こんな数の人間と話すのは、オレだって初めてなんだぜ。まさか維月が5人産んで、全部が全部覚醒するたあ思わなかった。》
蒼は自分と同じように、闇の中で光る皆を見て、なんだかホッとした。
「これからは、今日みたいに月に教えてもらって、退治していけばいいのか?」
維月は頷いた。
「そうね、小物はそれでいいのよ。でも、たまに大変なのもあって」維月は月を見上げた。
《初心者にゃあヤバいヤツも居る》
月は同意した。
「そんなガンガン寄って来るもんなのか?オレ、今までなかったのに。」
有が割り込んだ。
「この前の変質者、あれも憑かれてたのよ。それをあんたが浄化したの。あんたって不安定で、光ったり光らなかったり、とにかく微妙な力だったから、寄って来たり来なかったりだったのだと思うわ。」
「でも、変じゃないか」蒼は言った。「悪い念にとっては、この光は敵なんだろ?なんで寄って来るのさ。」
維月は悲しげな表情になった。
「そうね、確かに敵対心丸出しの念もあるけど、ほとんどは、救われたいのじゃないかしら。」維月は宙を見た。「母さんは一度あの念にのまれて、真っ暗な中を見たことがある。怒りと、憎しみと、寂しさと、苦しさ、悲しさだったわ。」
蒼は考え込んだ。そんな感情の、大きなヤツが自分を飲み込んだら…抜け出せるのだろうか?母さんやみんなが居なかったら?
《怖がるこたぁねえ》月が穏やかに言った。《オレがついてるさ。》
涼は言った。
「蒼はまず、月に教わって力の使い方を学ばなきゃならないわ。わかってないから、小さな念にもフルパワーじゃん。複数の時大変よ?」
蒼は身震いした。
「あんなのがいくつもかよ?」
「そりゃ良くない土地なんか行ったらすごいもんよ。蒼は知らないけど、この前の家族旅行で、父さんと蒼が釣りに行った隙に私達大変だったんだから。」
涼は思い出して苦々しげに言った。
「父さん、知らないんだ…」
維月は頷いた。
「あの人は普通の人よ。知らない方が幸せなのよ。」そして呟いた。「たまに変なもん憑けて帰るのがムカつくけどね」
《たいがいの人間は何か憑けちまう時があるのさ。軽いものなら、みんなお前達のような力がなくったって振り払って生きてる。お前達は、オレの力が使える分、手っ取り早く始末出来るってだけだ。》
「ふうん…。」
蒼はなんとなく理解した。これまでの自分のこと、何か嫌な気がして乗らなかったバスの事故、行かなかった集会でのケンカ、いろいろなこと…。
でも、月は出てなかったな。学校昼間だし。
「でもオレ、月に昼間も守ってもらってたのか?」
維月は恒と遙を見た。「いいえ。昼間力を使おうと思ったら、夜に貯めた力を使わなきゃならないの。つまり、充電キレたらおしまい」
蒼は言った。
「充電ってどうやるの?」
「普通は体いっぱいが限度ね。やり方はまた教えるけど」恒と遙の頭を撫でながら、「母さんは、この子達に昼間パワーをもらうのよ。」
蒼は双子達を見た。
「涼と有は?」
「違うのよ。恒と遙は、ほとんど無限にパワーを貯められる上に、昼間でも月からパワーを引き出して私に送れるの。」
「すげえなお前ら。」
蒼は心底そう思って言った。恒は首を振る。
「違うんだよ、蒼。僕たちは浄化とか、全く出来なくて、ただパワーを貯められるだけなんだ。」
「しかも、二人で一緒に居ないと、パワーを転送出来ないのよ。」遙は続けた。「パワーはすごく貯めてあるから、自分の守りは完璧で何も寄せ付けないんだけど」
と、恒を見て悲しげに笑った。恒は頷いた。
「みんなが戦ってる時に、見てるだけなんだ…。」
思い詰めたような恒に気付かないように、蒼がフンフンと頷いた。「後方支援要員だな」
《なんだって?》
「ほら、十六夜もゲーム見てたんだろ?オレ、裕馬んちでよくやってたじゃないか。前衛と後衛は両方とも必要なんだ。回復してもらわなきゃ、ボス倒せないからな。」
恒はポカンとしている。「蒼、ゲームってさあ…。」
《まあ、似たようなもんだな。確かに蒼が前で裕馬は後ろだった。それでうまく行ってたからな。》
「だろ?」蒼はポンッと恒を小突いた。「お前もちょっとはゲームしてみろって。」
「全く、蒼は何も知らないからさっ」
恒はプイッとあちらを向いたが、本気でそう思っているのではないことがわかった。
「ところで」維月が厳しい声で言った。「蒼、あの女の子にもらった紙を貸して。」
不意討ちだったので、蒼はうろたえた。
「え?」
「あの子の状況読むのに、あの子の持ち物がいるのよ。早くして。」
蒼はポケットをまさぐって、折れ曲がったメモを出した。連絡先がきれいな小さい文字で書いてある。維月はそれを受け取って、手のひらに乗せて見つめた。
「ああ」維月は呟いた。「これを見て、月」
《こいつぁダメだ》月は蒼に向かって言った。《お前、絶対1人じゃ行くんじゃねえぞ
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