創造の神々が成す世界

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創造の神々の成す世界

「物語の質も、量も低下している」

 長い髭を生やした老人がいうと、円卓に座る一同は首を縦にふった。


「然り。さするに、人の自由と、情報技術の発展が要因の一つでは」

 初めに言葉を発したのとは別の、白い布でできた貫通衣を着た青年がいう。素朴だが、質のよさが遠くからみても伝わってくる。


「単純な魔王と勇者という構図から、魔王の上に更に真の敵がいるという。さらに、魔王が主人公の作品も生まれて……」

 こちらは、赤いショートカットの女性だ。ボーイッシュでありながら、その胸の膨らみは女性性をおおいに主張している。


「アンチヒーローってのもあるねー。友情、愛、努力、みたいな熱いヒーローは廃れて、どこか欠点のあるような、逆に人格が異常なのとかねー」

 間延びする話し方をするのは、どうみても10歳に届かないくらいの少年。その見かけに合わず、話すことは大人顔負けに擦れている。



 イブドロギアルは、アイオーンと呼ばれる神々の住まう天上世界である。

 そこは、六の神々が悠久のときを過ごす場所。ただ今は、役目を終えた一つの神が消え、5つの神々が鎮座している。

 彼、彼女らは、人間が創造した偶像的な神などではない。まさしく、真の神だ。

 否、神という語もまた、人の分別に過ぎない。それは所詮、人外のもの、という意味でしかなく、違わず偶像的である。


 アイオーンが真の神である所以は、彼らが全知全能であることではない。

 むしろ、彼らは、「何も知らない」。

 彼らができることは一つ。しかしそれが故に、絶対的に人とは異なる存在。


「ゆゆしき、問題だ」


 初めの髭の老人がいう。


「我らは、物語の成長を糧に、生を営む。その力は、特に新しい思考、アイディア、構成、構造が生み出されたときに大きくなる。だが、最近はお主らが知るように、新しい物語が生み出されなくなっている」


 老人の心に沁み行く厳かな声に、一同は視線を下に伏せて頭を巡らせる。


「ウルバヌスどの。恐れながら、生み出されぬわけではなく、【完結】をみないのであります」


 声を上げたのは、青い瞳の豹のように鋭い目付きの女性。しかし、その口調は思いの外やさしく丁寧である。スレンダーな肢体は一見華奢であるが、躍動する筋肉は、きっとなめらかな美しい走りをみせてくれるだろう。


「例えば、ヒロインが盗賊や、野盗や、ゴロツキや、はぐれ兵士やら、そのあたりに襲われる。そこに颯爽と現れる主人公。主人公の時折あらわれる能力で、はたまた転生により得た超絶な力により、ヒロインを助け出す。そして、一緒に冒険に出る、と」


 円卓の一同は、頷きながら聞いている。

 気づけば、円卓の上には一つずつ、ワイングラスが置かれている。そこには、誰も手を触れていないのに、少しずつ、思い思いの色をした液体が注がれていった。


「聞き飽きたお話でしょう。想像しすぎたお話でしょう。しかし、殿方にとってピンチの女の子を救うというシーンはまさに憧れ。しかしそれは悪いことではございません。良いものは、いくらあっても良いものなのですから」


 ふぅ、と一呼吸おいて、スレンダーな女性は、目の前のワイングラスを手に取った。瞳の色と同じ、青い液体が注がれている。


「問題はその後なんだよねー。その描きたい場面にいっぱい力を注ぎ過ぎちゃって、その先に頭を回し切れないんだよねー。だから、すぐにネタがなくなっちゃって、先が書けなくなっちゃうってねー」


 あははー、と声に出して繋げ、少年の姿をしたアイオーンが言った。

 先ほどの鋭い目つきの女性は、その言葉に頷きながら、グラスの中身を飲み干した。



「――ですから、ここで、ヒロインには、ご退場頂いてはいかがでしょう?」



 獲物を狙う獰猛な瞳が光る。


「何か、考えがあるようだな」

 原初の世界から生を得ていると伝え聞く老ウルバヌスは、あごに手をやって、大きくうなずいた。


「では、エミストレアに創造を託そう。――イブドロギアルに生の糧を!」


 ウルバヌスが立ち上がると、円卓が消え、座っていたアイオーンたちも一瞬で消え失せた。



『つくれつくれつくれ、みたせみたせみたせ我らの伽よ』


 代わりに、反響した、大きな唱和が起こった。


『つくれつくれつくれ、みたせみたせみたせ我らの伽よ』


 昼夜が逆転したかのように、漆黒の闇に包まれた。





 翡翠色の美しい髪が、土で汚れている。

 村の女性が普段身に付ける薄紅の羽織布は無惨に破れ、殴られ、赤黒く変色した肌が露わになっている。


「……カ、イン」


 虚ろな目をした少女は、か細くつぶやいた。

 そんな声を、野卑な男たちの笑い声がかき消した。


「まったく、貧相な身体だな。犯しても大して面白くねぇ」

「まったくだ。おいこら! もっと泣いて叫んでみろよ! おい!」

 一人はそういうと、小さな少女の腹部を、硬い靴底で思い切り踏みつけた。


「ッか……」


 身体をびくんと震わせ吐血すると、頬を汚れた土に埋め、目を開けたまま、少女はそのまま動かなくなった。




「ロアナ!」


 少年が森の奥で幼馴染の少女を見つけたとき、すべては終わってしまっていた。

 大きくなったら、村を出て冒険者になるといった少年に、彼女は付いていくと言った。

 少年カインは嬉しく思うも、幼い照れからか、「腕っぷしもからっきしなお前みたいな足手まとい、連れてけるわけないだろう」と、憎まれ口を叩いてしまった。そして、哀しそうなロアナの瞳に耐え兼ね、つい「……まぁ腕っぷしがダメでも、回復術でも知ってれば役に立つかもしれないけどな」などと口を滑らせた。


「俺の、せいだ……」


 衣服は破れ、顔にもいくつもの痣が残り、泥をかぶって打ち捨てられていた少女の近くには、回復薬の原料となる薬草が散らばっていた。


 こぶしを、地面に叩きつける。この惨状を引き起こしたのは、自分のせいなのだと。

 そして気づく。複数の足跡が北に向かって続いている。


 少年の自責の念はすぐさま追いやられ、代わりに沸き起こってきたのは、思考をも焼き尽くす怒り、激情であった。


「許さない……。許さない、許さない! 殺してやる、殺してやるッ!!」


 金切声にも似た叫びが森の中にこだまする。

 走り出した少年の背中を押すように、冷たい風が森の木々の間を流れていった。

 その後、村の中で少年を見たものは、誰もいなかった。





 いつしか、5の人の姿をした神々が、円卓に座っている。


「え、もう終わりー?」

「……これは、あまりにも救いがないのではなかろうか」


 少年の姿の神が言うと、白い布をまとった青年の神も続けていった。

 青い瞳を閉じエミストレアは、「わかっています」と言いたげに首を左右にふった。

「私たちの糧はなんですか? 物語でしょう。そして、大きな力を得られるのはどのようなものですか?」


「いくら長い物語だって、完結してなきゃその力は半減しちまう。そして、その物語に【新しさ】があればあるほどに、その力は大きくなる。今の物語は、短いけど、そもそも誰も救われないってことで新しく、ちゃんと完結もしてるってわけだな! さすが私のエミストレア!」


 赤いショートカットの女性は、そう言うなりエミストレアに抱きついた。豊満な胸が顔を包み込み、エミストレアは少し苦しそうに唸る。


「そういうことです。いくら創造したいという気持ちが強く、時間をかけ、十分な作品を紡いでいっても、そのどこかは、これまで誕生したいくつもの作品の一部に、どことなく似てしまうのです。最長老のウルバヌスどのの時代はともかく、私たちは、短くとも、奇抜な話を、多く作り出していくしかないのです」


 エミストレアの言葉に、円卓の者たちは大きく頷いた。……いや、一人を除いて。



「他の者がやらないことをやる、というのが、本当に新しいことと、いうものかな」


 厳かな声を出したウルバヌスの手のひらには、砂時計のような、装飾が施されたガラスの瓶がのせられている。


「あれー確かに、デュオンエマナがあまり溜まってないねー」


 デュオンエマナ、生の糧。アイオーンたちの生きる目的。完結した物語が紡がれるたびに、少しずつ溜まっていく、ウルバヌスの宝具である。


「な、何故なのです! 私の物語は確かに完結したはず!」

 今まで見せたことがないような表情を見せるエミストレア。普段が冷静だからこそ、慌てると本当によく分かる。




 ――今が、チャンスだ。


 【俺】は、全身全霊を込め、アブドロギアルを両手で握りしめた。

 冷たかったそれは、みるみるうちに温度が上がり、やがて熱湯に手を突っ込んだかのような熱さ、痛みを感じるようになる。


 でも、まだだ。まだ足りない。

 あいつが受けた痛み、苦しみは、こんなものじゃあない。

 俺が、諦めてどうする。俺が逃げてどうする。

 今しかない。このチャンスしかない。これが最初で最後のチャンスなんだ!


 大きな轟音とともに、俺は気づくと、大きな円卓の上に、片膝を付けた状態で佇んでいた。


「お、お前はいったい!」

「び、びっくりしたねー」

「突然レディの前に現れるとは、いい度胸じゃないか!」

「う、ウルバヌスどの、この者は一体……?」


 慌てふためくアイオーンたち。こうしてみると、普通の人間と何も変わらないように思える。だが、まぎれもなく、俺の世界を創ったのは、こいつらだ。


「この者が誰かは、エミストレア、お前が一番よく知っておろうな」


 この場で、事態が分かっているのは、この老人だけのようだ。

 俺は、一呼吸おき、大きく息を吐いた。


「ウルバヌス大神。俺が、世界の禁忌アブドロギアルを用いてまでここに来た理由は、話す必要もないだろう」


「アブドロギアルだと!」

 突然のことに慌てる神々は更に恐慌に陥った。天上世界イブドロギアルに干渉する唯一の道具。かつて天帝と神々が争った神代大戦の際に7つに分裂し、天上世界との繋がりは永久に絶たれたと伝えられる伝説の宝具。

 ロアナを殺した野盗どものねぐらに行くも、何の力もない自分は案の定、一太刀も浴びせられないまま捕まり、激しい拷問の末、殺されようとしていた。そのとき、運よく旅の剣士ルーンフェルトに救われ、剣技を習いながら各地を巡り、いつしか知ったこの世界の創造史と宝具の存在。

 更にアブロドギアルは、選ばれし勇者が使わなければ、その身が耐えられず存在自体消滅してしまうという、もはや呪具のようなものだ。そんな僅かな偶然と、可能性だけで今俺はここにいる。いくら神と呼ばれる者たちであっても、驚くのは無理もないことだろう。


「……カイン。姓も無き只唯一のカイン。よくぞ参った。そしてここに至るまでの道、並大抵ではなかったろう。よくぞここまで」


 ウルバヌスは、噛みしめるようにゆっくりとそういい、口元を緩ませた。


「カイン……、ということは、まさか貴殿は、私の物語の主人公と?」


 エミストレアは目を大きく見開いた。青い瞳が印象的だが、こうしてみると、背中まで伸びる艶やかな髪も、光の加減で青く輝いて見える。


「なるほどねー、つまり、散々な世界を創ったエミストレアに復讐するために、ここまで苦労してやってきたってわけだー」


 楽しそうに、少年の姿をした神が言った。すぐさま、エミストレアは俺から更に一歩距離をとり、一瞬で創りだした、刺突に適した細身の剣を構える。

 少年神の、語尾を引き延ばす話し方は気に障るが、問題はそこじゃない。


「貴方たちと敵対するつもりはない。というよりも、どうやっても勝てない。人間と神では、生きている次元が違う」


「では、君は、自分の人生と命をかけてまで、何故ここにきたのだ」


 白い青年が言った。ただ、いつの間にか落ち着きを取り戻したかのような彼の表情は、俺の言いたいことが既に分かっているようだ。

 未だ細身の剣を自分に向けるエミストレアにも分かってもらうよう、俺自身の言葉でいえ、ってことなんだろう。


「俺の要求は一つ。ただ、ロアナを、生き返らせて、幸せな人生を歩ませてほしい。それだけだ」


 俺の言葉が、この場に静寂をもたらす。

 時間にしては数秒。しかし俺には、とても長く感じる。


「それは……」

「それは無理だ」

 エミストレアの言葉を打ち消したのは、老神ウルバヌスだった。


 身体が熱くなるのがわかる。唯一の希望、ただ一つの生きる意味、それが一瞬で刈り取られてたまるものか。そんなことあるはずがない。


「な、」

「我らはすべての創造を司る神である。それゆえ、我らを縛る法もなければ、人間のいう自然界の制約すらない。創造できるものはすべて我らのものであり、果てなく自由である」


 なぜ、と、問うことすらできないというのか。天敵に睨み付けられ動けなくなるように、俺は言葉を失ってしまう。


「だが、唯一、我らが自由にできないものがある」


 すべてを想像によって現実化させるという創造神に、できないことがあるというのか。そんなはず、あるわけない、認めない。

 単に、何か制約があって、その制約を破ることを恐れてるか、さては、見下げたことこの上ないが、面倒なだけに決まっている。


「ふざけるな! まさか、創造神ともあろうのが、人を一人生き返らせることすらできないというのか!」


 俺は、ウルバヌス以下、他の四体の神を見渡す。

 青い神のエミストレアは、俺と視線があると、視線をおとした。さきほどまで、細身の剣を俺の喉に突き刺そうとしていたのに、神に似つかわしくない行動。


 憎たらしい声をだす子供の神ですら、額にシワを寄せ、複雑な表情を浮かべている。


 赤い神も、明るい表情を曇らせ、哀しそうに俺を見つめている。

「生き返らせることができないわけじゃないのさ」

 赤い神がそういうと、白い青年が続けた。

「私たちが縛られる制約、それは、人の生死でもなければ、光の速さでもなければ、過去未来といった時間ですらない」

「ごめんなさい、私が、創造した世界に、蘇りはなかったの」

 

 エミストレアは、悲痛に呟いた。

「そういうことだねー、僕たちは、何でも創造できるけれども、それによって作り出した世界観は、絶対なんだ。異なる次元による再構築であれば問題ないんだけどねー。君の生まれた世界は、エミストレアに、そういう風に【創られた】、だから、君の願いは叶えられないんだねー」


 呆然と俺は、へたりこむ。いつのまにか、円卓は消えて、質素な木造の家の一室にいた。

 ここは、………忘れるはずもない。もう何年も帰っていない、生まれ育った村の……。 


「エミストレアは、デュオンエマナを集めるため、お主の絶望をテーマとした物語を創造した。そう、我らは、唯一、我ら自身の創造に縛られるのだ」


 ウルバヌスの手のひらには、砂時計のようなガラス瓶が乗せられていて、その中身は、どこからともなくか、みるみるうちに満たされていく。


「大切な幼なじみを凌辱され、殺され、自らも拷問で死にかけて、偶然てにした希望と、その旅のなかでの苦悩、そんななか血のにじむ努力でたどり着いた行き着いた答えの近く。しかし、それは一切の無駄であったのだ! ふはははは! なんという愉悦! なんという愉快! 重畳、重畳!」


 五つ神……いや悪魔の哄笑が、幼き大切な記憶が色こい僕の部屋のなかに響きわたる。


 やめろ。


 やめろ。


 やめろやめろやめろ。


「後悔だらけの人生。頑張れば報われると信じて、自分に鞭をうって、それでも必死になっていたのだろう」


 やめろやめろやめろやめろ。


「愚かなり! 人間など、所詮は我らがつくりだした道化に過ぎぬ。生まれてきた意味? 生きる目的? 使命? 救い? ありはせぬ、ありはせぬのだよ!」



 怒りで、悔しさで、我を忘れたのか。

 これまでの記憶がいっきに吹き出して、そして消えた。様々な感情、怒り、苦しみ、妬み、楽しさ、嬉しさ、焦燥、達成感などが渦巻き、消えた。

 そのとき、俺は、世界と一つになったような感覚に陥った。

 ほとんど無意識に、胸の胴衣に忍ばせた、無色透明な珠に手をやる。


 ここに来るために用いた、アブドロギアル。

 七つの破片となり世界に飛び散った、世界を構築する元となった宝具。




「お前たちにできないなら、もういい。――俺がやってやる」


 アブドロギアルは、世界のもと。心臓である。

 であれば、それを自らの心臓と融和させれば、どうなるか?


 ーーここからは、神々の伝記シニャタ=ガル文書にも書かれていない。

 神々の大戦で暗躍したというヨルドボラ一族が、大戦後身を隠したとされるオワアナサ島で、今もひっそりと暮らすある魔術師の一つの仮説。 


 脇に指した小刀を、自分の胸に突き刺す。


「俺が、【神】に、なってやる」


 一瞬の激痛の後、俺の視界は白の世界に包まれた。





『なるほどね。こうやって、僕たちもまた、物語の中にってことかー』


 遠く、声が聞こえる。


『――絶望しかない物語では、デュオンエマナを集めることはできないのですね。恥ずかしながら、勉強になりました』


 何があった。俺は、……あのとき。


『しかし、危険ではないか? 私たちの世界に干渉できる宝具を創造するなどと……。』


 頭がまとまらない、なにか懐かしい、夢をみているみたいだ。


『問題なかろう。何せ、創造には、制約もなければ、終わりもない。果てしない自由こそ、――創造なのだ』






 気づくと俺は、河辺の砂利の上に横たわっていた。


「あーカイン! こんなとこにいたんだね! もう、こんな遅い時間に、危ないよ? カインのお母さんだってご飯つくって待ってたよ!」


 ロアナ。あれ、なんで。


「あ、カイン! どうしたの、その服……まさか、怪我してる?!」


 駆け寄ってきた少女の言葉に自分の胸をみると、鋭利な刃物で引き裂かれたように、服が破れていた。


「大丈夫……カイン? あれ、でも、血は出てないみたい。いったいどうしたの、……ってわっ!」


 俺は思わず、か細い少女を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと! カイン! ほんと、どうしたの? 大丈夫なの?」


「……いやか?」


「いやかって、そりゃ……、いや、じゃないけど、どうしたの? びっくりするよ」


「会いたかった。ずっと、ずっと会いたかった……」


「えぇ……?」

 つぶらな瞳を白黒させて、身体をひねって逃れようとしていたロアナだったが、やがて大人しくなり、身を任せてきた。


 何を言っているか、分からないだろう。突然で驚いているだろう。それでも、目からあふれる涙を、俺は止めることができず、ただ彼女を抱きしめる腕に力を入れることしかできなかった。







 こうして、彼の長い旅は終わり、自らの呪われた運命を越えて、切望した幸せを手に入れた。


 しかし、彼は一つ大きなことに気付いていない。それは一瞬で彼を再び失意と絶望の底に貶めることだろう。


 まぁ、それでも、今は気にする必要はない。人の一生は短い。本当の答えに辿り着くことが、その人にとっての正解とは限らないのだから。



〈了〉


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