Episode VII-3

 それから一ヶ月あまりが過ぎた。

 教会では祝福のベルが鳴り響いた。

「マリア奥様、お綺麗ですわ」

 セルクスは小さな拍手で祝福した。

 キュアリスも涙を浮かべていた。

「二人とも、ありがとう」

 二人はいつもと違う、ブラウンを基調にしたメイド服に着替えていた。新郎新婦以外は、そのような地味目なフォーマルで今日の主役たちを引き立てていた。

 キュアリスは言った。

「もう、マリアが旦那様と結婚されると聞いた時は本当に驚いたんだからね。今でも信じられないわよ」

「ふふ。まだあなたにはサプライズがあるのよ。私より先に二人で式場に行ってきて」

「どういうこと」

「前座よ、前座・・

 結婚式に前座? 二人は首を傾げ式場に入ると、真っ白な服に赤い肩紐三本で飾れた男性が司祭の前に立っていた。

 キュアリスは、驚きのあまり口が大きく開いてしまった。

「あ、あ、あなた様たちは、こ、こ、皇族の⁉」

「皇太子殿下、ご機嫌麗しゅう」

 セルクスがスカートをたくし上げお辞儀をすると、皇太子は言った。

「トゥルマレディのセルクスよ。そなたに、セリカーディ・A・イズヴェランツェのRitter《リター》の称号を授けに来たのだ」

「え……セルクスが、Ritter⁉」

 Ritter――騎士――とは、皇族のみが授与できる称号である。その家のためだけではなく、国のため皇族ために剣(武力)を振るう軍人と同じ地位でありながら、皇族直属の騎士としても動くことが許される。また、Ritterの言葉はそれが属する貴族の言葉としての権限も持つ。ただのお抱え以上の意味がある。

 そんな名誉ある称号をセルクスが頂けるなんて信じられない、とキュアリスが驚いていると背中をぽんと押された。後ろを振り返ると、そこにセリカーディがしてやったりの顔をして笑っていた。

「ほら、早くなさい。皇太子殿下に失礼でしょ」

「お嬢様、これはどういうことですか」

「決闘の褒賞よ。セルクスが私のRitterになれば、キュアリスはその妻よ。その資質があるかどうかの裁定に一ヶ月かかっちゃったけどね」

「Ritterの妻、じゃあ、わたしは」

「そう。堂々とトゥルマレディと婚姻が結べるのよ!」

 涙が止まらなかった。愛で何もかも捨てたつもりだったが、まさかこんな展開になるなんて。

 セルクスが抱きしめてきた。

「ごめんなさい。わたし、黙ってたの。あなたの愛が本物かどうか、分かるからって。お嬢様に言われて」

 するとセリカーディは、ピースサインを出した。

「ふふーん。さあ、セルクス。この後、結婚式なんだから早く済ませて」

「はい、お嬢様」

 セルクスは皇太子の前に跪いた。

 司祭がRitterの証である剣を皇太子に捧げると、皇太子は両肩に剣を置き宣言した。

「セルクスをセリカーディのRitterとして、皇族の血統の下にこれを認める。あなたのこれからの名は、セルクス・Rt《アーティ》・イズヴェランツェだ。これはもちろん、彼女が結婚をしても続く」

「謹んで、お受けします。セリカーディお嬢様のため皇族のため国家のため、剣を振るうことを誓います」

 セルクスが剣を受け取ると、セリカーディにも跪いた。

 その頭の上に手をおいたセリカーディは言った。

「セルクス。これからも私と、キュアリスをよろしくね」

「はい。もちろんです」

 傍らでずっと見守っていたキュアリスから、嬉しさと驚きと祝福の涙があふれた。

 続いて、結婚式が模様された。

 マルクルドのエスコートはセリカーディ、マリアのエスコートはキュアリスだった。

「もう、キュアリス。また泣いているの?」

「あなただって泣いているじゃない」

「私はいいの。花嫁だもん♪」

 新郎新婦は司祭に促され、誓いのキスをすると会場が大きな拍手に包まれた。

 祝福の鐘が再び鳴り出し、外に出た新郎新婦は、ブーケを高々と掲げた。マリアが大きな声をかけた。

「行くわよ、そおっら!」

 ブーケは青い空を高く舞った。

 出席した女性たち、レイカもマユリもシュリもこぞって受け取ろうとしたが、ふわっと風に煽られて、キュアリスの手にすぽっとおさまった。

「え⁉」

 レイカたちは、しょうがないなーと言った感じで二人を冷やかした。

「もう。二人には敵いませんわ」

「式が決まったら招待してね」

「ひゅー、ひゅーん」

 二人は照れながらも、ブーケを高く掲げて手を振った。

 セリカーディは胸を張って親友たちの前に躍り出た。

「当たり前でしょ、この二人は私の誇りなんだから!」

 その笑顔に二人は胸を打たれた。

 セリカーディは二人の、左手と右手を握った。

「さあ、この青い空に二人の愛を咲かせましょ」

 キュアリスがセルクスを見つめた。

 二人同時に微笑み、頷いた。

 そして、ブーケを膝まで下げた。

「「せーの」」

 ブーケが投げられると同時に、セリカーディは手を握ったまま大きく跳ねた。

「あなた達。も~と、咲き誇れ!!」

 教会の鐘の音とブーケ舞い散る空は、いつまでも幸せを奏でてくれた。

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咲き誇れ! 瑠輝愛 @rikia_1974

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