Episode VI-3

 ――セルクスは電話を切った。

 キュアリスを動きやすい中央へ突き飛ばしたのはいいが、いいように弄ばれている。今すぐに変わってやりたい。だけど、トゥルマレディが決闘しても意味がないし、私の我儘に答えてくれた彼女の意思を踏みにじることにもなる。

 信じるしかない。

 今私の出来ることは、お嬢様を助けることだ。

 決闘観覧者の輪から、キュアリスに駆けつけたときのようにムーンサルトで飛び出したセルクスは、ケニーを探した。

 格納庫らしきところに向かい、そこにいる隊員に話しかけた。

「すみません、ケニーという空輸の担当の人はいますか」

「ええ。あそこに」

「捕まえてください。あの人は、今お嬢様を攻撃しているヘリの犯人です」

「何を言っているんだ、なあ、ケニー」

 ケニーと呼ばれた男は、慌てて外へ走り出した。

「逃がさない。『イクイップフォーム』」

 肌色から真っ白で目の色が透過した姿になったセルクスのスピードで、猛追する。

「くそぉ。セリカーディが手に入らないなら、何をやっても一緒だ」

 担いでいたマシンガンを乱射。

 そこにいた隊員たちは全く近づけない中、セルクスだけは突進した。

「おい、危ない!」

 隊員の心配は無用だ。

 イクイップフォームは軽い銃火器なら全て跳ね返す。

 セルクスがジャンプし、ケニーに乗りかかった。そのまま腕を後ろに極めてしまう。

 イクイップフォームを解いたが、トゥルマレディの本気の力に勝てるわけがなく、ケニーはジタバタするしかなかった。

「お嬢様を攻撃しているヘリを止めなさい」

「あれは無人だ。飛んでいるものを落ち落とすまで攻撃はやめない」

 隊員たちが取り囲み、ケニーは拘束された。

 セルクスが何か手はないかあたりを見回すと、四枚の翼を広げた巨大な航空機があった。

「あれは《トンボ》 これならば」

「セルクスさん、急いでヘリを止めるように遠隔操作を試みます」

「いいえ。あのトゥルマを貸してください」

「《トンボ》ですか? 無茶ですよ。トゥルマ専門パイロットでもエリートの中のエリート以外操縦できないじゃじゃ馬ですよ」

「停止命令を受けたら何が起こるか分かりません。仮に今が戦時中だとしたら、そのヘリはどうするようにプログラムしますか」

「それは……玉砕ですか」

「ですから!」

「……分かりました。司令官に聞いてみます」

「その必要はないぞ」

「博士!」

 白髪で白衣の博士と呼ばれた男性がニコニコしながら歩いてきた。

「司令官には私から言っておく。行っといで」

「しかし、それでは我々は軍規違反です」

「私はトゥルマレディの第一顧問であり責任者じゃ。何かあれば、わしの首でも落とせ」

「しかし、博士」

「もう彼女は乗り込んでおるぞ」

 《トンボ》と呼ばれるトゥルマは、姿形がトンボのような翼とフォルムをしているからそう呼ばれる。だが、その時速はマッハ5に一瞬で到達するほどの加速力を持っており、一撃離脱から索敵・航空戦など難易度の高いミッションに耐えうる。だが、あまりにも加速が早いため、エリートの中でも「化物」と呼ばれるようなパイロットしか乗ることが出来ない。

 しかし。

「おーい、お前さん。そのままだと、トゥルマレディ一人ではトゥルマを動かせんぞー」

 と、よじ登っているセルクスを引き止めた。

 だが博士はニヤリと笑った。

「とはいえ、実はその機体にはヒューマンダミーのリツコちゃんが乗っとる。後ろの操縦桿で操作すればできるはずじゃ」

「……ありがとうございます」

 携帯電話をかけた。

「お嬢様、ご無事ですか」

『セルクス? なんとかね。ヘリがしつこくて』

「ケニーは、私が探して、軍が拘束しました」

『よくやったわ。でもこっちはそろそろダメかも』

「お待ち下さい。私が助けに行きます」

『どうやって? あなた、飛べたっけ』

「いいえ。でも飛んでいきます。お嬢様、携帯を切らないでください」

 セルクスはスロットをゆっくりと開けると、ペダルを踏み込んだ。

 すると垂直上昇し、あっという間に高度一◯◯◯メートルまで浮遊した。機体が斜め前に傾くと、超高速で飛んだ。

 人間ならこのGに耐えきれずに気絶してしまうだろうが、トゥルマレディなら関係ない。構わず急旋回する。

 イクイップフォームに自動で切り替わった。これ以上の遠心力には通常の力では対処できない。

 前に乗っているリツコちゃんがどうなっているか分からないが、おそらく潰れアンパンのようになっているだろう。

 もう目視は役に立たないため、キャノピーを暗転させてメインモニターに切り替える。

 計器のレーダーを確認すると二つの点があった。

 メインモニターを超スローカメラに切り替えると、間違いなく民間機を軍用ヘリが攻撃していた。

 このままでは静止が難しいため、二足歩行形態に変形させる。

 トンボの尾が二つに分かれ、脚になり、腹が割れて腕となった。頭は一八◯度回転し、顔になる。ジャイロにより操縦席は水平に制御された。

 変形が完了するとエアブレーキがかかり、空中に静止した。その間、わずか一秒。

「お嬢様、無事ですか」

『まだ何とかね。そのトゥルマ、あなたが乗ってるの? 本当に千年前のトゥルマレディなのね』

「それを今、お見せします」

 背面の翼を点火させ、すぐに回り込んだ。

 急旋回急停止するトゥルマに全く対応できない無人軍用ヘリを捕まえ、コクピットにパンチを見舞った。するとヘリのフロンドガラスを突き破り操縦室は粉々に砕かれた。そして完全に停止。爆発も小規模で済んだ。

「お嬢様、どこかに着陸できますか」

『やってみる。不時着してください』

 無事に丘の上に着陸したヘリから降りたセリカーディたちが、ゆっくりと着陸するトゥルマを見上げた。

「お嬢様方。軍の皆さんが迎えに来ると思いますので、しばらくお待ちください」

『セルクス、キュアリスにこのメガネを渡して』

「喜んで!」

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