Episode VI
Episode VI-1
両者とも間合いを取った。お互いの剣先が届かない安全圏だ。それでも一歩大きく踏み込めばすぐに切り込める。キュアリスのカタナのリーチが長い分、有利に立ち回れる。
だが、肝心の視界がぼやけてしまっていて、相手の位置はなんとかつかめるがレイピアの細い剣がどこを向いているのか、ほとんどわからない。
半身の片手で構えるマルダードは、わざと逆撫でるような言い方をした。
「どうした、来ないのか? それともパンツが見えてしまうのが嫌なのか?」
マルダードは挑発して相手をキレさせてから、そこをレイピアで射抜く。これが勝ちパターンだとセリカーディは言っていた。
間合い管理が難しい武器なので、間合いを取るなら少し広めに。というのがセルクスのアドバイスだった。
今までの妨害も全部挑発のためのお膳立てだとしたら、ますますそれに乗る訳にはいかない。
だが――。
「そぉらっ」
レイピアが一閃。キュアリスの胸元をかすめた。腕の動きでなんとか間合いを図るが、それでも胸に斬られた感覚が伝わってしまった。
「もういっちょ」
素早く踏み込まれ、カタナの防御が間に合わずレイピアに胸元をえぐられた。その勢いのまま左へ斬り裂く。
しかし、キュアリスのメイド服は全く破れない。
「ちっ。やっぱりか。セリカーディのやつ、戦闘用の特注メイド服を渡しやがったな」
軍事でも採用されている、魔素特殊繊維で作れられていた。着用者の意思で強度が上がるようになっているが、酸素を大量に消費するので体力は奪われてしまう。
マルダードはそうとわかると、深く踏み込み、見えない一突きを放った。
「これでどうだ」
「今だ!」
キュアリスも大きく踏み込んだ。まっすぐ貫かれるはずのレイピアが腰の外をそれ、カタナがマルダードの右上腕に斬り込んだ。
「痛⁉ な、なんだ、いまの動きは」
キュアリスは前足を踏み込む直前に後ろ足を内側へ払い、軸足を移動。それに乗せて踏み込んだのだ。みごとレイピアの軌道をそらし、一撃を見舞った。
ここから立て続けに責め立てる。
相手の服も魔素特殊繊維で作られている。斬り捨てることは出来なくても、ダメージなら刀身の太いこちらほうが上のはずだ。
脇を締め全身の動きを使って狭い間合いで斬り込んでいく。
マルダードはたまらず後退。
だがそれを許さないキュアリス。
「ちぃ!」
マルダードはキュアリスの腹を蹴り飛ばした。
カタナと脚が交差したが、キュアリスの間合いは離れてしまった。
「はぁはぁはぁ……。あと少しだったのに」
ここで決めきれなかったのは不味い。
今まで受けた攻撃からでも分かる、マルダードの実力は本物だ。もう無闇な踏み込みはしてくれないだろう。
「キサマ……、よ、……く……も」
マルダードの呼吸がかなり乱れている。特殊繊維を活性化させるために体力を使ったのだ。今の彼の身体は魔素に蝕まれて酸素が行き渡っていない状態のはずだ。
「これで!」
キュアリスが大きく踏み込むとセルクスが叫んだ。
「ダメ!」
「かかったな、牛乳女」
上段に大きく振りかぶった所へ、マルダードがレイピアを上から斜め下へ斬り上げた。
その瞬間、メイド服が引き裂かれ、ブラも切られてしまった。胸から切り傷が浮かび上がる。
「な⁉」
「さっきの攻撃を受けて酸素切れを起こしたと思ったな。違うね。俺はレイピアに魔素を送り込んでいたのさ」
キュアリスはよく観るために目を細めると、マルダードの服はずたずたになっていた。
急に視界が揺らぎ始めた。
頭がフラフラし、トゥルマの足元にもたれ掛かってしまった。
「あ、頭が……」
「キュアリス」セルクスがどこからともなく駆け寄ってくれた「いけない。急性魔素中毒症にかかってる」
レイピアに込められた魔素の量は、想定していたものを遥かに超えていた。
目を細めマルダードをみると、肩で息をしているのは分かった。どちらがダメージが大きいかと言えば、完全にこちらの方だ。
魔素を毒に応用したレイピアだったのは予想していなかっただけに、もろに受けてしまった。
「頭が……あああ」
激しい頭痛に見舞われた。呼吸が上手くコントロールできず、過呼吸になってしまった。
介抱してくれているセルクスは、審判にサポートを提案したが却下された。
「今すぐ離れなさい。セコンドは認められていない」
と審判が言うが早いか「どけ!」とマルダードが切りかかった。
セルクスはキュアリスをリング中央に突き飛ばすようにして離れてくれた。
力を加減してくれたので、なんとか立ち止まることが出来た。
「あ、ありがとう……。セルクス」
キュアリスは、頭を抑えながらぼやけて見えるマルダードだけに集中しようとした。
「くくく。いいざまだな。乳首が見えそうだぞ」
思わず左手で覆い隠した。
だが首を振ってそれをやめ、へそのあたりに手をおいて深呼吸を始めた。
ゆっくりと大きく吸って吐く。
マルダードは待ってはくれない。
「今度は服全部斬り裂いてやる」
赤い火花が散った。
カタナを横に構えて、レイピアの一撃を受け止めたのだ。
「こいつ、なぜ動ける」
「はぁ……ふぅ……。中学生の頃のテストを思い出しただけです」
丹田呼吸法の一種で体内の気を練り上げた。気と言っても魔素のような力はない。ただ全身の細胞を呼吸で活性化させるだけのもの。それでも、魔素中毒症からなんとか立ち直れた。
「わけがわからないことを」
レイピアで再び切り込む。
まだ完全に動ける状態でない上に視界が殆ど無い状況では、躱しきれず、弄ばれてしまう。
身体はもうズタズタだ。胸はほとんどはだけ、乳首も見えてしまっている。スカートもボロボロで、パンツもニーソックスも丸見えになってしまった。
「メガネさえ……あれば……」
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