Episode V-8

 ここは様々な兵器・車両が置かれている。

 その中でも最も目立つ存在が巨大騎兵――トゥルマ――だ。二足歩行で歩く無骨な脚、分厚い装甲に覆われたボディ、様々な兵器を操り戦況に応じて柔軟に対応する腕、センサーの中枢を担いパイロットが搭乗する頭部。軍に入隊したものなら一度は駆りたいと思わせる高性能兵器だ。

 軍が一般道路などで使用する普通車両が、基地のゲートに到着した。

 そこから降りてきたのは、マルダードだった。ジョンを散々待たせた挙句、軍用車両に乗り越えたのだ。

「快適なドライブだったよ。ご苦労」

「……」

 軍服の運転手は不満そうな顔をして、そのまま基地内に入っていった。

 マルダードは、基地内に配備されているトゥルマを興味深そうに見上げていた。

 そこへ少尉の階級を表すバッジを付けた軍人が迎えに来た。

「トゥルマに興味がおありかな、マルダード殿」

 少尉は握手を求めた。

 マルダードは不満そうに笑い、握手に応えた。

「『マルダード卿』といえ」

「貴殿はまだ正式なイズヴェランツェ家の跡取りでは無かろう」

「ふん、この決闘でいずれそうなる」

「拍手は後でいいかな? その決闘場にこれから案内する。こちらへ」

 到着すると少尉は任務があるとそこから離れた。

 そして、マルダードは満足気に周りを見た。

 この決闘場は、トゥルマ四機がまるでリングの支柱のように配置され見下ろしていた。その更に外側の区画を囲うように人々が集まっていた。殆どは軍人やその関係者だが、中には貴族の白い礼服を来た者も混じっていた。

「これはこれは、兄弟たちではないか」

 そう言った彼らは、マルダードを見るや、ゴミを見るような目で見つめ返した。

 一人は長身で一八◯センチは超えていた細い体型に緑がかった短髪の黒髪で、もうひとりは彼より二◯センチほど低い身長で、中肉中背で青色の後ろに流した髪に大きめのメガネをしていた。

 マルダードが握手を求めると、分家の兄弟たちは皆無視をした。

「例え手袋ごしでも、お前に触れるなど御免被りたい」

 マルダードより年上の貴族は侮蔑を込めて言った。

 握手の手を引っ込め、手を広げて出迎えた。

「相変わらず私は嫌われ者のようだが、それもこの決闘で変わる」

「聴いたときには呆れて言葉が出なかったぞ。トゥルマレディを手に入れるために、メイドと決闘だと? お祖父様もお祖母様も情けないと泣いていたぞ。どうやら気は触れてないようだが」

「至って正気さ」

「お前、腰に何も下げていないではないか。武器を忘れたのか」

「いいや。戦う必要なんてないからさ。なにせ、相手は遅刻したようだからな」

「まだ一分あるぞ」

「来られないさ、絶対にな」

 分家の二人は顔を合わせていぶかしんだ。

「隊長! キュアリス・ルーズェンツアとトゥルマレディのセルクス両名が到着したと報告がありました」

 それを耳にしたマルダードは頭をかきむしった。

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ⁉ 馬鹿な」

 歯ぎしりをするマルダードを見て、分家のもう一人の貴族がメガネの鼻あてを上げて言った。

「それは良かった、無駄足にならずに済みましたよ。それはそうと、何か予定外・・・の事が起こったようですね。お義兄にいさん」

「黙れ」

「どこに行くんですか」

「レイピアを取りに行くんだよ」

「そうですか。私たちは観覧席に座ってますよ」

「ああ、見ておけ。ちっ、あいつは何をしているんだ」

 歩きながら、携帯電話で誰かと話を始めた。

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