Episode V-5

 セリカーディはまだ開店してない店の前で携帯電話を掛けた。

 しばらくして、背の低い太った主人が慌てて自転車でやってきた。

「イズヴェランツェのお嬢様、急にどうされたのですか」

「単刀直入に言うわ。キュアリス・ルーズェンツアが用立てたメガネは仕上がってるのかしら」

「ああ、あのお客様のでしたら、今日で完成してすぐお渡しする予定でして。ご本人様は? サイズの微調整をしないと」

「急用で来れなくなったの。最優先で頼むわ。キュアリスは私の大切な人なの」

「ああ、それでしたら。少々値は張りますが、魔素式グラスになさいますか。かければ全て自動で度の調整をしてくれますよ」

「それでいいわ」

「よろしいのですか。お嬢様でも精一杯のサービスでここまでしか値下げできませんが」

 ゼロが六つ付いていた。

 その値段に気後れせず、軽く頷いた。

「いいわよ。安いものだわ」

「左様ですか! キュアリスさんは、軽い悲鳴をあげてましたがいや流石はイズヴェランツェお嬢様」

「お世辞はいいから。早く売りなさい」

「では、ここに金額とサインを」

 小切手ほどの大きさのコムペーパーを差し出された。

 これに金額を書き、サインをすれば即決済される。

 金額の数字が消えて、Siedlung(決済)の赤い文字が浮かんだ。

 それを確認した店主は、グラスを渡した。

 受け取るとすぐに車に戻った。

「リズィ、すぐに付けそう?」

「それが、どのルートも渋滞で。お車ではお送りできそうにありません」

「列車は?」

「演習場付近には通ってません」

「……こんな時に。なんとかルートを探して。一旦降りるわ」

 セリカーディは外の空気を吸って気持ちを落ち着かせようとした。マリアも車から降りた。

「お嬢様」

「どうしたの」

「先ほど、キュアリスのことを『大切な人』と言われましたね」

「それが」

「親友の一人として、お礼を申したくて」

「改まって言う必要なんてないのよ。それにあなただって、もうすぐ」

「お嬢様、まだそのお話は」

「私は、待っているからね」

「お気持ちだけで十分です」

「私も礼を言わせて」

「どういうことですか」

「キュアリスを専属メイドにしてくれて。あんな素敵な、世界中どこ探し立っていないわ。あなたもそう思うでしょ」

「はい。お嬢様」

「そしてマリア、あなたもね」

「……セリカーディお嬢様。勿体無いお言葉です」

 マリアの笑顔を見上げていたセリカーディの目に、一つの影が見えた。

「あ、あった」

「お嬢様?」

「すぐに予約しなきゃ。リズィ、調べて欲しい連絡先があるの」

「どうされたのですか」

「あったのよ! 車よりも速い移動手段が」

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