Episode I-3

 ――キュアリスはマリアに着替えをさせられた。

 新しい専属主人のセリカーディに言われるがまま、丈の長い質素なメイドドレスから膝上丈のミニスカートに大きなリボン付きエプロンのメイドドレスに着替えさせられた。生地の色も紺からピンクを基調にした暖色系に変わってしまい派手になった。元々大きかった胸を更に強調するようにコルセットもつけられた。これではうっかり屈むことも出来ない。

 セリカーディのメイドたちは、いつもフリフリの可愛らしい格好をさせられると聞いたことがある。姿見に映しだされた自分は、まるでカレンデュラの花を咲かせたような輝きがあった。

「とっても素敵! ……でも私には、恥ずかしいです。お姉様」

「キュアリス、慣れるしかないわ。……これでよし」

 着付けが終わったマリアは、満足そうに腕を組んで眺めた。

「あんまり見ないでください」

「あなた、脚が綺麗なのね」

「す、素足でいなければならないのですか」

「そこまで仰せつかっていないから、ガーターストッキングくらいならいいでしょう」

「はい。せめて、履かせてください」

 淡い緑色のガーターストッキングを履くと、スカートとストッキングの間に見える太腿が強調され、より恥ずかしい気分になるけれど、素足でいるよりマシだと思った。

 さっそくセリカーディに披露すると、目を星のように輝かせて抱きついてきた。ちょうど顔がキュアリスの乳房に埋まった。

「お、お嬢様。そんなにきつく抱きしめては」

「可愛い! あなた、やっぱり良いわ。おっぱいもふかふかしてるし」

「あんっ、揉みあげては……」

 先ほど着付けたブラジャーがずれて、乳首がはみ出て服にこすれてしまった。恥ずかしい声が出そうになったところで手が離れた。

「おっと、ここはセルクスに譲ってあげなきゃね」

 セリカーディは悪戯っぽく笑うと、キュアリスから離れて椅子に腰掛けた。

 ほっとしたキュアリスは、後ろを振り返ってメガネとブラの位置を直し始めた。

「お嬢様、少々お待ち下さい」

「いいわよ。ところで、セルクスの居場所なんだけど」

「はい」

「お父様に聞いても教えてくれないの。別館は流石にないと思うのよね、まさか物置においているわけじゃないでしょうし」

 キュリアスが振り向き直ると、セリカーディの横に立った。

「お嬢様、お気にかけて頂きありがとうございます。このことは明日にでも考えましょう」

「どうしてよ。好きになったんでしょ」

「……私にはまだ分かりません。胸の奥がチクチクしますけど、それが恋なのかも悩みなのかも」

「恋に決まってるでしょ! だって私の読んでる小説に書いてあるもの」

「小説でございますか」

「ほら、これよ」

「拝見致します。読んでもよろしいのですか」

「良いわよ。もう読み終わった巻だから」

「すぐにお返ししますので」

「ん? ちょ、急にページをパラパラしだしてどうしたの」

「ありがとうございました。素敵なお話ですね」

「まさか、もう読み終わったの⁉」

「はい」

「嘘でしょ、これ読み終わるのに一週間かかったわよ」

「速読法です。私の実家は本屋でして、その時に身につけました」

「ね、ね、ね。私にも出来る?」

「はい。少々根気が必要ですが一ヶ月もすれば、これくらいの本でしたら今の半分、いえ一日で読み終わると思いますよ」

「根気かぁ。いいわ、そういうの私は苦手」

「さようでございますか」

「ちゃんと書いてあったでしょ」

「はい。まるで今の私と同じような気持ちを、物語のヒロインは思ってますね」

「でしょ」

「ですが、もう晩餐の時間でございます。また明日にでも」

「そう。あ、そうだ。後でお風呂一緒に入らない?」

「お付き合いいたします」

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