第13話 文明の課題と対策が分かる

(文明論の効用 その8)


 文明発展の流れを要約すると、次のようになります。


 文明活動の本体は、全ての人々が営む経済・社会活動です。科学・技術はそれを豊かにするため、制度・政策はそれを健全に保つために専門分業化した活動です。


 科学・技術が進歩すれば、経済・社会活動は豊かになると同時に大規模化・複雑化・加速化するので、それに応じて制度・政策も高度化・巨大化・分権化します。


 また、経済・社会活動と共に変化した人々の価値観は、新しい制度・政策を通じてさらなる科学・技術の発展を促します。


 文明はこのような、螺旋上昇の循環(スパイラル・アップ・サイクル)というかたちで、発展してゆきます。


 では今後、私達の文明はどうなり、それにどう対応していけばよいのでしょうか?


 これまでの文明論に沿って、各要素の関係と変化の流れから、未来に向けての課題と対策を考えてみました。


 人類文明の課題は、理論的にみて、4つに分類できます。

それらが資源(富、財)の生産の問題か分配の問題か、

どんな過程プロセスを経て生じたか、による分類です。


① 特定の資源が不足する、資源枯渇。

② ある資源の利用が環境内の他の資源を損なう、環境破壊。

③ 資源の分配が文明の発展上好ましくない、貧困・不公正

④ 公正感覚の欠如や齟齬そごが、

  さらなる人為を介して資源の損失を招く、戦争・犯罪です。


 これらを技術的政策、人的資源政策、経済・社会政策という政策の視点から

考えると、次の3つに整理できると思います。


① 科学・技術が経済・社会活動を豊かにするときに必要な、

  物的資源の持続可能性

② 制度・政策が経済・社会活動を健全に保つときに必要な、

  人的資源の持続可能性

③ 科学・技術を受けた富の再生産と、制度・政策を受けた富の再分配という、

  ふたつの内部条件の両立による、

  経済・社会活動それ自体の持続可能性です。


 行政管理政策の視点については、行政活動を経済・社会活動の一部としてとらえ、その中の①~③の問題としてとらえれば、以上3点に要約できると思います。


 これらは、一般に言われる環境学的持続可能性、社会的持続可能性、経済的持続可能性、政治的持続可能性に対応すると思われます。ただし私見では、人的資源の持続可能性の中に、経年・経代的な健康水準の低下を含めています。


 従来、そうした課題は、開拓地を巡る争いや災害・疫病などによる淘汰を通じて、〝解決〟されてきたのかもしれません。


 例えば、偽書『アイアンマウンテン報告』に書かれたように、あってはならない〝戦争の効用〟もあります。

1 科学・技術の発達 

2 新しい制度・政策の導入 

3 経済・社会活動における活性化や格差縮小、統合や安定化

4 老朽市街地など物的資源の更新 

5 私のような虚弱者など人的資源の淘汰 

6 自然・社会環境の再認識や改善


 社会的な認識・決定・行動という3つの文明活動と、その実現手段や働きかけの対象となる3つの環境条件という、ダビデの星あるいは籠目(かごめ)の図形(✡)で表わせるような6つの文明要因の、いずれに対しても良い影響を与えてしまうことがあるのです。


 ……ただし、膨大な犠牲や損失ロス費用コスト危険リスクを代償として。

 

 また文明の発展により、生活水準や武器の威力は向上し、地球という自然的な限界や、国際社会の一体化も見えてきました。今や従来のようなあり方は、非人道的、無責任、非効率あるいは不確実で、将来性がなく、自滅的でさえあります。


 新しい技術と、政策が必要です。


新しい技術は、生まれつつあります。

① 資源枯渇や環境破壊を防ぐ、新しい素材・エネルギーの技術

② 人的資源の経年・経代劣化を人道的な手段で防ぎ、補う、保健・医療・教育

  やロボット・HMIヒューマン・マシン・インターフェイスの技術

③ 経済・社会活動が複雑・加速化しても、個人や社会の意思決定を支援し、

  争い少なく上手に利害を調整して、生産と分配を両立させ続ける、

  人工知能やIoT、ビッグデータ処理の技術。


 それらは、体内環境を含む自然環境や社会環境に優しい、『(生体あるいは環境)親和技術(familiar technology)』とも呼び得る技術です。


 道具や火、言語の使用に始まる従来の技術は、物質やエネルギー、情報を、我々の体外において使用してきました。それらはある意味において、農場や動力機関、電算組織といった文明の成果を、各種環境の〝外〟で使用してきたともいえます。


 これに対して『親和技術』は、機械と生体、都市と大気など、人工物と自然物の間の障壁を取り除き、両者の長所をいわば〝いいとこ取り〟して、双方の持続可能性を高め合わせる技術です。


 新しい政策も、必要です。

① 最も適切かつ効率的に、新技術や物的資源の開発や普及を行う、

  科学・技術政策。

② 新技術を悪用・誤用することなく、活用できる人材を育成・確保する、

  教育・保健政策。

③ 新技術を活かして、富の健全な再投資と公正な再分配を両立させ続ける、

  経済・社会政策。


 以上のような〝使い魔(familiar)〟を生み出し、正しく御する技術や政策によって、経済・社会活動をより豊かにし、健全に保つことができれば、次にはそれを宇宙施設・植民地など、より小規模な閉鎖系クローズド・システムにおける文明活動の持続に応用することで、地球外への進出も行いやすくなるでしょう。


 人類文明のさらなる発展に期待したいです。 

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