第11話 行政の意味を考えられる
(文明論の効用 その6)
文明論によれば、行政とは何か、どうあるべきかといった、行政の意味も考えることができます。
第一に、行政とは制度・政策(社会的な意思決定)の決定と、その実現であるといえます。
決定の決定、という繰り返しを避けたければ、制度・政策の定立とか立案、作成、創造といった言葉も使えましょう。
行政はその字の如く、狭い意味では政治が決める制度・政策の実施活動ですが、広い意味では決定を含み、むしろそちらが強調される場合もあるので、決定と実施の両方を含むといえます。
現代社会において、社会的な意思決定につき、最終的な権限を持つのは主権国家の政府です。しかし、社会が分権化されていくと事実上、企業や非営利組織も社会的な政策決定に関われるようになっていくと思います。
『今はこうすべきだ』という個別的な決定が政策、『こういうときは、こうすべきだ』と場合分けした一般的な決定が法規、法規を体系化した(体系的にまとめた)ものが制度です。しかし法規や制度も、今はこういう法規や政策を作るべきだという立法政策の表れなので、広い意味では政策と言えます。
制度・政策あるいは行政の役割は、『こうすべきだ』という社会的な意思決定によって、能動的な主体としての『人間』』、つまり我々自身を自己制御するため、主として社会環境に働きかけ、経済・社会活動を健全に保つことにあります。
環境政策などは自然環境を対象とするように見えますが、実は自然環境を直接守るのは排ガス削減や廃棄物処理のような環境技術(分別収集のような社会工学的技術も含む)であり、政策が対象とするのは、誰がどれだけ費用や労力を出してその技術を利用するかといった、人間同士の利害調整の部分です。
文明論において『行政(政治を含めた広い意味での行政)とは、社会的な意思決定とその実現である』という定義は、重要だと思います。昔、行政実務家(自治体の法務管理職)の講義を聞いた際にも、質問をして『その通りです』という回答をいただきました。
よく使われる『行政とは、国家作用から立法・司法を除いたものである』という定義は、三権分立の国家制度を前提とすれば法学・政治学上は適切なのでしょう。しかし、『国家とは?』『立法・司法とは?』というところで説明を要し、争いが起きるかもしれず、分かりにくい定義だと思います。
たとえば『経済・社会活動とは、文明活動から科学・技術と制度・政策を除いたものです』と言われても、何だかよく分かりません。
『経済・社会活動とは、文明活動(文明的な社会生活)を営むために必要な、資源あるいは富、財(財貨やサービス)を生産・流通する活動です。広くは文明活動と同じ意味ですが、現在では、そこから科学・技術(事実認識)と制度・政策(意思決定)が分業化し、人々の社会的な現実の活動(現実行動)を指すようになりました』と説明された方が分かりやすい。
行政の定義についても、同じことが言えるのではないかと思います。
定義とは『最近類における種差』、つまり『人間とは文明をもった動物である』というように、『直近の分類の中で、他者との違いを挙げたもの』であるといいます。しかし、『暗闇で象を評す』という例えは言い過ぎかもしれませんが、『象は一番鼻が長い動物である』とか、『一番耳が大きい動物である』と言うよりも、『陸上動物の中で、最大のものである』と言った方が、多くの場合は役に立ちそうです。
文明論上、あるいは一般的にも、『行政とは文明活動のうちで、社会的な意思決定(=制度・政策)の形成と、その実現(=経済・社会活動の一部)である』とした方が、これからは実用的なのではないかと思います。
第二に、文明論における行政の定義から、そのあるべき姿を考えることができます。
『行政とは社会的な意思決定である』という定義を使えば、『知性に伴う欲求の無制限性』という理論的説明と合わせて、『決めなくてすむことについては、決めない方がいい』という自由主義の要請を説明できます。
知性に伴う欲求の無制限性から、人間の文明活動には無限の危険性と、可能性が伴っている。国家は前者を最小化するために決定権と権力を持つことが認められているが、後者を最大化するために、その行使には制限もなければならない、といえるのです。
悪いことが行われぬよう国家は必要だが、国家を動かすのも人間なので、悪意や誤解が生じうる。また文明の発展により、制度・政策も変わっていきます。その時は誰もしていなくても、あるいは禁止されていても、後には許される、あるいは必要とされるようになることもあるし、その逆のこともある。
そこで先進国においては、国家による自由の制限は必要最小限にとどめなければならないという自由主義の原則がまずあり、では必要最小限とは何かというところで、具体的な議論が進められているかと思います。
また、『経済・社会活動の大規模・複雑・加速化や、価値観の多様化』という現実の動向と合わせて、『様々な価値の選択肢を用意した方がいい』という価値相対主義や多文化共生主義など、先進国行政の基本的な原則を説明できます。
加えて、『経済・社会活動の水準の向上』や『制度・政策の巨大化と分権化の同時進行』という潮流と合わせれば、平和主義・国際協調主義や民主主義といった原則の必要性も説明できます。
さらに、『国から地方自治体への分権だけでなく、自治体のさらなる民主化も必要だ』という住民参画や、『広義における行政の本質は意思決定なのだから、その実施については、民間ができるようになれば民間に委ねるべきだ』という、官業の民間開放の要請も自動的に導かれます。
『行政とは何か』が理解できなければ、参画や信頼、協力もしようがありません。『
また、どの業界でも『変化の時代には従来の組織的縦割りを排し、横串を通すことが必要だ』などと言われます。ならば今後はさらに組織を越えて、社会全体に横串を通せる文明論的な展望の中で、各業界が自分達の役割を明らかにしたうえで、他の主体との連携や新しい形の仕事を考えていくことも、有益なのではないでしょうか。
その際にはぜひ、私が妄想した『Lucifer』における可愛いサタンちゃん❤の文明理論を……ああっ!(←周囲の人々から、マニアックなオタク趣味と抱き合わせの自己宣伝をするな!と袋叩きにされる【笑】)
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