第10話 経済・社会活動を分類できる
(文明論の効用 その5)
経済・社会活動についてまず言えることは、4つあると思います。
第一に、経済・社会活動といえば、全ての人々が営む文明活動の本体です。
それは、家庭生活から職業生活、文化活動から行政活動まで含む、様々な活動からなっています。また広い意味では、科学・技術の研究・開発や制度・政策の立案・決定における、人々の現実行動の部分も含みます。そう考えると、広い意味では文明活動の全てを指すともいえましょう。
ある活動が認識・決定にも、行動にも含まれるというのは不思議な気もします。しかし、人がものを見る時は眼球の動きなどによるように、社会から見て認識や決定にあたる技術開発や政策決定も、それを担う人々が、物を買ったり話し合ったりして行う、経済・社会活動の中で生まれているといえます。
例えば、『他宗派を理由とする埋葬拒否を認めないように』とした国から自治体への通達を、行政処分(行政の実施活動)とみて裁判で争ったところ、内部的な命令(意思決定の伝達)であるとして訴えを退けた判例があります。この判決では意思決定の側面を重視しましたが、社会的な意思決定には現実行動としての側面もあることを示していると思います。
第二に、経済・社会活動の目的は、自らの持続(あるいは持続可能性を高めるような発展)です。
なぜなら、文明活動はさらに広い概念である生命活動の一部あり、全ての生命活動の目的は生命活動の継続、すなわち生存だからです。
昔、友人に『人は、自分が生きるためにしか生きることができない』と言われて、ショックを受けたことがあります。『いやそんなことはないだろう! 直接的には役に立たない遊びもしたり、他人のために尽くすこともあるだろう?』と反論しましたが、よく考えるとそうした行為は、知性を使って生きる活動と必然的に結びついていたり、または間接的に有益だったり、その他人と何らかの関係があったりするから行っているわけで、そうでなければ生きるうえで不利、あるいは不自然、不可解な行為になってしまうことは否定できません。
そこで、経済・社会活動の役割は、究極的には自らの活動の持続ということになります。
第三に、経済・社会活動は、生産と分配と言う二つの内部活動からなります。
経済という言葉の定義を調べると、財(富)の生産と流通とあったりします。
経済学では主に、財(富)の移動を自然科学のように、科学・技術(事実認識)の対象としてとらえますが、私の仮説では、法律学のように、制度・政策(意思決定)の対象としてもとらえるので、分配と言っています。
また私の仮説では、お金を介したやり取りでけでなく、それ以外のやり取りも含むという意味で、経済・社会活動という言葉を使っています。
生産と分配は、再生産と再分配と言うこともできると思います。いま生産の原資となるものは、過去の生産により作り出されたものであることが多く、複雑な社会の中での分配は、会社の収益を社員の給与として分配するように、多くの段階を経ることが多いからです(自由経済のもとで政府が行う再分配は嫌われることも多いですが……)。
文明活動全体でみると、生産は『自然からの富の生産(獲得)をどうすれば増やせるか』という事実の問題なので、科学・技術に助けられるところが大きく、分配は『人間同士の間で富をどう分けるべきか』という決定の問題なので、制度・政策によるところが大きいです。
第四に、経済・社会活動の持続条件は、生産と分配の両立です。
生産と分配は経済・社会活動の持続における車の両輪です。一家の働き手が得た収入を、他の家族に配分しなければ家庭は成り立たないでしょうし、働き手自身も含めて家族の誰かに浪費されてしまえば、家計が破綻してしまいます。これは社会においても同様で、農業時代から、収穫のうち幾らを各自の食料や貢納・寄進に回し、幾らを種籾とするかのようなかたちで、生産と分配のバランスが課題となってきたと思います。
科学・技術の必要条件が物的資源、制度・政策の必要条件が人的資源なら、経済・社会活動の必要条件は、その内部における生産と分配の両立であると言えましょう。
また、科学・技術と制度・政策は、いかなる技術を開発・採用・普及・維持すべきかを決める技術政策や、政策の立案・実施に役立つ人材の育成や組織化の技術を与える社会工学を通じて、互いに助け合う部分もあります。
ゆえに、生産と分配を両立させて経済・社会活動を持続・向上させるためには、科学・技術と制度・政策、両方の発達が必要だと考えます。
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