第9話 科学・技術を分類できる

(文明論の効用 その4)


 『科学・技術』『経済・社会活動』『制度・政策』という、3つの文明活動の役割や関係を知れば、それらが役割を果たすために、どのような内容、種類の活動をするのかも論理的に分析し、理解できます。


 まず、科学・技術の役割は、究極的には『こうすればこうなる』という技術によって、受動的な客体である『自然』を操作することにより、主として自然環境に働きかけ、経済・社会活動を豊かにすることにあります。


 〝主として〟というのは、社会環境を形作る個人や集団の中にも、『図解で示せば分かりやすい』とか、『明文規則で組織を作れば、より公正で効率的に決めごとが動かせる』といった一定の法則に従う、働きかけの客体としての部分があるからです。心理技術や組織技術といった社会工学的な技術(社会技術)は、そうした人間の中にある、いわば〝内なる自然〟を扱う技術です。


 ただし人間には、後述するように、『我々はこうすべきだ』という政策を一緒に話し合って決める、対等な主体としての側面もあり、文明発展に伴ってそうした部分はさらに増えていきます。後述のように、社会工学は制度・政策の実現を助けるものです。しかし、その制度・政策自体が民主化するなどしていくと、その意味合いは、社会環境の操作から、経済・社会活動の自己制御へと移っていくでしょう。


 そのため、個人や社会を一方的に動かす社会工学的な技術の利用には、ますます注意が必要になると思われます。


 また、そうした技術を生み出すために、その土台となる『こういうときは、こういうことが起きる』という法則や、それが体系化された理論を見出す基礎科学も重要です。


 さて、科学・技術が経済・社会を豊かにするにあたっては、他の文明要素との関係も考えると、4つの経路ルートがあると思います。


 第一は、〝直接ルート〟です。それは、農業・工業・情報時代といった文明の発展段階を画するような技術によって、直接的に経済・社会活動を豊かにする経路です。


 こうした技術は、文明発展上の『主要技術メイン・テクノロジー』あるいは『核心技術コア・テクノロジー』と呼びうるもので、農耕や動力機関、電算組織の技術がこれにあたります。


 第二は、〝間接ルート〟です。画期的技術が物的資源に具現化されるのを助ける技術によって、間接的に経済・社会活動を豊かにする経路です。


 こうした技術は、文明発展上の『関連技術リレーテッド・テクノロジー』あるいは『周辺技術ペリフェラル・テクノロジー』と呼びうるものです。。農耕時代における農具製作や灌漑・都市建設のための金属加工・土木技術、工業時代における動力伝達・航法・通信や大量生産のための電気・化学技術、情報時代における高速大容量通信や機器活用のための光工学・HMI《ヒューマン・マシン・インターフェース》技術などがこれにあたります。


 また、ある時代の主要(核心)技術は、動力機関なら金属加工技術、電算組織なら電気工学技術のように、前時代の関連(周辺)技術から生まれることが多いようです。


 第三は、〝互助ルート〟です。技術が変えた経済・社会活動を健全に保つための制度・政策に対し、その実現を助ける『社会工学的な技術』による経路です。これには先述のように、教育技術や組織・財政(保険も含む)技術が含まれます。


 この経路ルートは、制度・政策の実現を助けるのだから、社会を豊かにするのではなく、健全に保っているのではないかとも思われます。しかし、教育や組織をどうすべきか決めるのはあくまでも制度・政策であって、ここでは技術はその効率、すなわち生産性を高める役割を担っています。


 また、制度・政策の立案活動も、広い意味では経済・社会活動の中に含まれ、その効率を高めれば租税等の負担も減るので、やはりここでも、技術は経済・社会活動を豊かにするものといえましょう。


 第四のルートは、科学・技術が自らを助ける、〝自助ルート〟です。『研究・開発技術』がこれに当たります。


 科学・技術の研究・開発活動も、広い意味では経済・社会活動の中に含まれるので、このルートは第一から第三までのルートのどれかに含めて考えることもできます。


 しかし、現代の科学は巨大科学ビッグ・サイエンスとも言うように、科学・技術の研究・開発活動は文明の発展に伴って大規模化し、重要性も増しているので、独立のルートとすることができると思います。

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