第6話 なぜ今、文明論か?
(文明論の効用 その1)
結論から言えば、人類社会全体の色々な活動について、より多くの人々がより広く、一緒に考えていけるし、考えてゆかねばならない現代において、それを助けてくれる便利な考え方だからだと思います。
人類に今日の繁栄をもたらしたものは、文明です。これからも、文明によって発展してゆくことでしょう。
いま人類は歴史上最も高い生活水準を達成し、またそれを更新し続けています。しかしまた他方では、地球規模の自然的限界と社会的統合に近づきつつあります。そこでは、従来のような開拓地を巡る戦争や、災害、疫病による犠牲や損失、費用や危険を最小化する、持続的発展(持続的開発)が求められています。
そのためには、文明活動の本体である全ての人々の経済・社会活動だけでなく、それらを豊かにする科学・技術や、健全に保つ制度・政策の発展も求められます。科学・技術の利用に必要な物的資源や、制度・政策の実現に必要な人的資源、そして何より、文明を取り巻く自然・社会環境についても考慮せねばなりません。
文明論は、そんな文明に関わる全ての要素をモレなく包括的に捉え、ダブりなどのムダなく分析的に考え、再び組み立ててバランスよくムリなく総合的に配慮することで、文明活動の向上を図れる、とても有益な理論だと思います。
人類は現在、文明の岐路にさしかかっています。そこで今後の進路について、皆が一緒に考えていくのに必要な基本的知識を、文明論は提供してくれるのではないかと考えます。
小中学校など基礎的な教育で全ての人に教える一般的な知識というのは、それを知ったからといって、すぐに何か社会で特別な仕事ができるわけではありません。しかし、皆が知っていると知らないとでは、社会の運営や発展に大きな違いが出てくるので、公教育で教えているのだと思います。『Lucifer』に書いたような文明仮説もまた、そのような知識のひとつにあたるのではないかと考えます。
そんな触れ込みの私見が間違っていては大変なので(笑)、元ネタとなったベストセラーの『第三の波』(アルビン・トフラー)や『テクノヘゲモニー』(薬師寺泰蔵)を再読し、『ウラの取れる』検証可能な理論となるよう心がけました。
人類は、高度な知性からくる『高度な技術』と『欲求の無制限性』をもつ生物であり、そこから技術進歩⇒社会変化⇒政策変更を繰り返す、
技術が進めば生活が変わり、生活が変われば政策や価値観も変わり、それに従ってさらに次の技術が開発されます。
技術が進歩すると、経済・社会活動は豊かになる一方で大規模化・複雑化・加速化し、肉体労働さらには事務労働やサービス労働の機械化も進んで、人間の仕事は社会的な意思決定や、決定内容・実施過程の
そこで、そうした社会的な意思決定においても、決めたら大勢の人が動かせるようにする一方、立案や改善に衆知を活かせるようにして、変化する経済・社会活動を健全に保ち続けなければなりません。それゆえに、制度・政策の巨大化と分権化の同時進行や、高度化が可能かつ必要となりますし、また実際にそうなってきました。
我々人類は文明によって繁栄を得ましたが、現在、次の文明段階への過渡期にあるのではないかと思います。
我々人類は、地球という自然的限界と世界的な社会統合に近づきつつある中で、資源枯渇、環境破壊や貧困・格差、紛争・犯罪といった問題を克服してゆかねばなりません。また人間を超え得る知性を持つ人工知能を生み出しつつある一方、人々の健康水準の経年・経代的な低下という問題にも直面しています。
国連の政策目標にもあるように、人類文明は物的資源、経済・社会活動、人的資源といった文明全体に関わる持続可能性の課題を、新しい技術と、その副作用や悪用・誤用を防ぎ活用し得る政策によって、解決してゆかねばなりません。
我々は今後、より多くの人々が一緒になって、より多くの人々のため、より多くの分野にわたる知識を総合的に活用してどうすべきかを考えていかないと、資源・環境や経済・治安などの文明課題を上手く解決していけなくなるでしょう。
そのためには、文明活動の要素を全て示し、それらの関係を分析したうえで再びまとめ、モレなく、ムダなく、バランスよく考えてゆけるような、幹となる分かりやすい理論体系が不可欠だと思います。
人間と他の生物の共通点(生命活動)を踏まえたうえで、決定的な相違点(高度な知性からくる自然・社会科学的技術の使用)を見出し、それに関わる全ての要素(科学・技術、経済・社会活動、制度・政策・社会需要など)を挙げて、相互関係を分析し、その過去・現在と未来を総合的に評価・予測する。
そのような文明理論は、我々の未来を考えるとき、最も効果的で効率的な考え方の枠組みを提供するのではないでしょうか。
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