第5話 用語について
(1) 『科学・技術』は、『科学・工学』の誤りでは?
『ああいうときは、ああいうことがある』という一般的な形の社会的事実認識、すなわち法則や、それが体系化された科学理論を生み出す活動を科学という。ならば、『ああすれば、ああなる』という技術や技術理論を生み出す活動を並べて、科学・工学というべきではないか?
『科学・技術』はよく対にして使われる言葉ですし、語呂もいいので、こちらを使いました。英語でも、エンジニアリングとテクノロジーという言葉がありますが、後者は技術そのものだけでなく、それを生み出す活動も指すようです。
(2) 『制度・政策』は、『政治・政策』『政治・行政』の誤りではないか?
こちらは純粋に意思決定の内容を示す、簡潔で中立的な用語をあえて選びました。政治という言葉は、決定に至るまでの人々の政治活動を含んでいて、その部分は合意のなった社会的な決定とはいえません。また、行政という言葉も制度・政策の実現活動として、経済・社会活動の領域にかかる部分があるからです。
ちなみに制度とは、その内容で見ると『ああいうときは、ああすべきである』という一般的な形の社会的意思決定、つまり法規が体系化されたものです。ただし、その形式に着目すると、『社会的な意思決定を、一般化された法規や、それを体系化した制度という形で定めれば、公正さや効率性が増す』という社会工学的な技術であるともいえます。言葉って難しいですね。
(3) 『社会工学』と並ぶのは『自然工学』では?
『自然工学』というと、造園のように自然物を対象とする工学に限られてしまい、機械工学などを含めなくなるようなので、『自然科学的な工学』にしました。
『○○工学』という用語は、基礎となる科学分野ではなく、操作する対象に着目してつけられる名前でした。だから『社会工学』といっても、基礎とする科学分野でみると、たとえば交通信号システムを作るには電気工学や心理学、法律学が必要なように、全ての科学分野を含みます。やっぱり難しいですね。
(4) 『社会工学』も社会を豊かにするのでは?
貨幣は取引の能率を高めますし、アダム・スミスのピン工場の例のような分業生産も生産性を増やします。ただ、生活を豊かにし、社会や政策の全体を大きく変える技術といえば、農業・工業・情報技術など自然科学的技術の力が圧倒的のようです。硬貨や紙幣を作れる鋳造・印刷技術や、分業できるような工程数を多く備えた製造技術あっての社会工学的技術ともいえます。そのため、『主に』社会を豊かにするのが自然科学的工学、社会を健全にする制度・政策を助けるのが社会工学、という趣旨で書きました。
英語ではまずイノベーションといえば、新しいビジネスモデルのような社会工学上の技術革新も含めた、広い概念です。その中で特に自然科学的な工学上の技術革新を、テクノロジカル・イノベーションと呼んでいるようです。
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