第47話 魔王「過去にあった旧魔王軍の非道」
魔法使い「魔族が人間界に侵攻するための手始めとして、我が妖精界に攻めこんできたのは…」
魔法使い「たおやかに月光る静かな晩」
魔法使い「突然、本当に突然やって来た」
魔法使い「私はその時、娘が熱を出していたので、冷たい水を取りに村の中央にある井戸にいた」
魔法使い「そこで水を汲み上げていた時だ」
魔法使い「突然、私の真横が光ったと思ったら、私は宙を舞っていた」
魔法使い「そして地面に落ち、落ちた衝撃でしばらく悶えていると、周りから火の手が上がった」
魔法使い「一斉に…まるで炎が一匹の巨大な竜になって村を食い潰していくかのように、あっという間に周りは火の海になった」
魔法使い「そしてところどころから上がる悲鳴…私はそこで何かに襲撃されたんだと気付いた」
魔法使い「そう感じた私がすぐに思った事は娘の安否だった」
魔法使い「私は走った、地面に打ち付けられた痛みも忘れ娘の元に走った」
魔法使い「私たちが住んでいた家も当然燃えていた」
魔法使い「私はそれでも中に入り、娘が寝ていたベッドに向かった」
魔法使い「そこはむせるような熱気に包まれていたが、何とか娘は無事だった」
魔法使い「私は娘を守るためすぐ村を出ようと外の森に向かった」
魔法使い「しかしそこで私は誰がこの村を襲ったのかを理解した」
魔法使い「村の外の森には待ち構えるように奴がいた」
魔法使い「奴が…妖魔将軍がいたのだ」
魔王「妖魔…将軍…!」
魔王(確か勇者さんが拷問して殺したって言う元魔王軍七魔将軍の一人…)
魔法使い「そう妖魔将軍がいたのだ」
魔法使い「奴は私たちの姿を認めると、格好の獲物を見つけたように笑った」
魔法使い「私はあの時ほど、魔族のおぞましい笑みを見たことが無い」
魔法使い「それほどやつの笑みには醜悪なそれがあった」
魔法使い「私は直感で捕まってはいけないと感じて逃げた」
魔法使い「しかしあの頃は、今のような魔法を使える力などは無いただのエルフの母親…」
魔法使い「そんな私が熱でうなされる娘を抱えて逃げるのは無理だった」
魔法使い「森に入る前に捕まり、私と娘、そして生き残った村の住人と共に中央の広場に集められた」
魔法使い「そして妖魔将軍は、集めた私たちにまずこう言った」
魔法使い「家族とそうでないもので分かれろ」
魔法使い「大人しく言うことを聞けば家族の命は助けてやる」
魔法使い「奴はエルフの仲間を思う心と強い絆を知っていた、だからそう聞いたのだ」
魔法使い「そう言えば、必ず仲間を守ろうと正直に言うとな」
魔法使い「そして言われた通り家族で無かった者が前に出て、端から首をはねられていった」
魔法使い「みんな気にするなと言わんばかりに微笑んでいたよ」
魔族っ子幼「…もうやだぁ…えっえっ」
魔族っ子幼「そんなはなしききたくないよぅ…うう…」
魔族子供♀「魔族っ子幼ちゃん…大丈夫?」なでなで。
魔族っ子幼「うう…」
魔族子供1「…」
魔王「あ、あの魔法使いさん」
魔法使い「…何だ?」
魔王「ちょっと内容が…子供に聞かせるにはいくら何でも厳しいのでは無いでしょうか?」
魔法使い「厳しい?」
魔王「は、はい」
魔法使い「はは…この程度でか?」
魔王「こ、この程度…!?」
魔法使い「そうだ…妖魔将軍はそれすら生ぬるく感じる更なる非道な行いをやった…」
魔法使い「そしてお前たち魔族はそれを聞く義務がある」
魔法使い「例え子供であってもな…」
魔王「…」
魔法使い「…話を続けるぞ」
魔法使い「家族で無かったエルフが殺された後、私たちは泣きながら彼らの遺骸に感謝した」
魔法使い「中には頭を地面に擦り付けて感謝する者もいた」
魔法使い「そして解放されないと言え、とりあえずの身の安全が確保できた事に安堵した」
魔法使い「だが違った」
魔法使い「奴の、家族の命を助けてやると言う言葉は…」
魔法使い「奴はまず最初に私から娘を取り上げた」
魔法使い「するとそれを合図に部下たちも家族の片割れを引き離すかのように分かれさせた」
魔法使い「当然取り返そうとするが、魔族たちは楽しむように突き飛ばした」
魔法使い「私たちは何をされてるのか、これから何をされるのか全く理解できなかった」
魔法使い「しかしそのうち分かった…奴等がこれから何をしようかとしてるのを」
魔法使い「それは娘を取られオロオロしている私に、あれを見てみろと言わんばかりに妖魔将軍が指差す方向を見て分かった」
魔法使い「妖魔将軍が指差した方向では奴の部下が、引き離した家族の目の前でその片割れを焼いて食ったのだ…!」
魔王「!?」
魔族っ子幼「うわああ!!」
魔族子供♀「…焼いて」
魔法使い「生きながら燃える家屋の中に無理やり手をねじ込ませて、焼きそしてボリボリと食べていた」
魔法使い「当然焼いて食われている方は苦痛で呻く悲鳴をあげる」
魔法使い「その悲鳴を聞かされている家族は助けようとする、だが力では敵わないから止められない」
魔法使い「そうなると次は涙ながら、お願いだから止めてくれと懇願する」
魔法使い「しかし部下の魔族はその懇願する家族の顔を、まるで酒の肴か何かに見立てて、楽しみながらさらに片割れ焼いて食ったのだ」
魔王「な、何でそんな酷い事をわざわざ…」
魔法使い「ヘルムシュヴァインセン…」
魔王「え?」
魔法使い「魔族の癖に知らんのか? 魔族に伝わる薄汚い料理法の一つだぞ」
魔法使い「相手が苦しむ様を見て楽しみながら食す料理法だ」
魔王「そ、そんな恐ろしい物が…」
魔王「…! うおぇっ!」
魔族っ子幼「…」ガタガタ。
魔法使い「そう…奴等が助けると言った家族は、食べない方の家族と言う意味だったのだ」
魔法使い「そして」
魔法使い「そして妖魔将軍は…これから何をやるか私に理解させると」
魔法使い「妖魔将軍は…今度は私の…」
魔法使い「私の…娘を…」
魔王「!」
魔族の子供たち「!」
魔法使い「熱で苦しんでいる…私の娘を」
魔族子供♀(…魔法使い…さん)
魔法使い「私が…代わりにになるからと…言っても」
魔法使い「そう言う顔をする者じゃ無いと…意味が無いと言って…」ブル…。
魔法使い「私の娘を…火の中に」ブルブル。
魔法使い「まだ小さい…痛みにも耐えられる訳が…無い…はあはあ」ガタガタ。
魔法使い「熱で苦しんでる私の…娘…を…火に入れて…食べ、た、たべ」ガタガタ。
魔族子供♀「…」ぎゅ
魔法使い「は…」
魔法使い「な…何…」
魔族子供♀「…魔族に言われるのは嫌かもだけど…」
魔族子供♀「無理は…しないで」
魔法使い「!」
魔法使い「…」
魔法使い「つまらんところを見せたな…」
魔法使い「もう大丈夫だと思ってたのだがな…思い出すとやはりダメらしい」
魔族子供♀「…」ぎゅ
魔法使い「…! お前は本当に優しいようだな」
魔法使い「…ありがとうもう大丈夫だから」なでなで。
魔族子供♀「あ…」
魔族っ子幼「まほーつかい、かわいそう…うっう」しくしく。
魔族子供1「…」
魔王「そ、そんなに酷い事をしてたのか妖魔将軍は…」
魔王「あ…!」
魔法使い「…何だ?」
魔王「だから勇者さんは妖魔将軍を拷問して…その殺してたんですね…」
魔王「事情はよく分からなかったのですが、なるほど…魔法使いさんのためだったのか…」
魔法使い「違うっ!」
魔王「え?」
魔法使い「あいつは私のためにやったんじゃない!」
魔法使い「あいつは…あいつは…楽しんで妖魔将軍を拷問していただけだ…」
魔法使い「あいつは絶対に私のためなんかにやってはいない!」
魔法使い「何故ならあいつは私に言ったのだ、身内の復讐のために戦うのは馬鹿のする事だとな!」
魔王「ゆ、勇者さんがそんな事を…」
魔法使い「あいつは私のためになんてやってないっ! それは絶対にないっ!」
魔王(ゆ、勇者さんと魔法使いさんが仲が悪かったのはこのせいだったのか…)
魔王(でも何で勇者さんは、そんな事をわざわざ言ったのだろう?)
続く。
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