第30話 魔王「あなたは誰ですか?」

魔王「うう…」

呪族の王女「どう言うつもりじゃ小僧…?」

呪族の王女「わらわの手を掴んで、まさか止める、などと考えている訳ではあるまいな?」

勇者「まお…う?」

魔王「ど…して」

呪族の王女「ん?」

魔王「どうして…こんな酷い事が出来るんですか!?」ポロポロ

呪族の王女「お前…泣いているのか?」

勇者「魔王…」

呪族の王女「仮にも魔王の血脈が、この程度の非道で泣くか…」

呪族の王女「ふむ、逆に人間はそこの女のように、仲間を平気で見捨てて逃げるような、そんな腐った真似をしてると言うのに」

神官妹「ギクッ」

勇者「神官妹…てめえ…」ギロ

神官妹「あ、ははは…」

呪族の王女「かと思えば人間のために泣く魔王がいるとは…三千年の間に随分おかしな世界になったのう…」

呪族の王女「いや…腐世壊新(ふよかいしん)の時が近づいていると言う事か、かの神が地に降臨する日も近いかも知れんの…」

勇者(神…? 腐世壊新…? 何だそれは)

呪族の王女「なれば世の満ちる贅は楽しみ尽くさなければ損と言う物、そうは思わんか勇者?」チロ(舌舐めずり)

勇者「ひっ」

呪族の王女「と言う事で、わらわと勇者はこれから楽しい、楽しい一時を過ごすゆえ、この手を掴まれてると邪魔なのじゃ」

呪族の王女「良い子だから離してくりゃれ?」

魔王「もう…止めてください…」ブルブル

呪族の王女「聞こえなかったのか? 離せ」

魔王「早く…神官姉さんの呪いを解いてください…」ブルブル

呪族の王女「調子に乗るなよ小僧? いくらお前に生き地獄をあわせるため、お前自身に手を出さぬ、と言ってもなぁ…」

魔王「勇者さんを…僕の友達を苛めないでください!!」キッ

呪族の王女「!」

勇者「魔王…」

呪族の王女「小僧が調子にのりおって…!」

呪族の「…!」

魔王「…」ギリギリ(王女の腕を締め付けるように握る)

呪族の王女(な! こ、この小僧なんて力じゃ…極限まで力を増したわらわと張り合える力じゃと…!?)

呪族の王女「く…この! この! 離せ」アセアセ

勇者(呪族の王女と力で張り合えるなんて…やっぱり魔王の力はとつてもない)

勇者(だけど、とてつもないのに何でこいつ泣いてんだ…?)

勇者 (意味わかんねーし、マジだっせ…)

勇者 (…でも)

勇者(でも泣いてるこいつを見てると…)

勇者(見てると…何か…)

魔王「お願いしますから止めてください!」

呪族の王女「ええい! 離さぬと呪いの威力を上げて、あそこで倒れてる女も、この勇者も本当に呪い殺すぞ」

魔王「…! そ、そんなっ!」

魔王「く…」

呪族の王女「ふ、ふふん、全く驚かせおって…」

勇者「…やれよ」

魔王「!」

呪族の王女「何…?」

勇者「ただしアタシだけをやれ、あそこで寝転がっている女には手を出すな」

神官妹「勇者!?」

魔王「だ、駄目です勇者さん! そんな無理をしてはっ!」

呪族の王女「ほほほ、小僧の熱にほだされておかしくなったと見える」

勇者「かも知れないな…」ニヤ

呪族の王女「…さっきまでピーピー泣きわめいておったただの小娘が、気運の風が、少々頬なぜた程度で調子にのりおって…」

勇者「そう思うならやればいいだろっ! バーカ! ぺっ!」

勇者が吐いた唾が呪族の王女の頬にかかる

呪族の王女「…! く、くく」ビキビキ

呪族の王女「面白いぞ…お前」

呪族の王女は頬にかかった勇者の唾を指ですくい取り舐めあげる。

勇者「げっ…キモ…舐めんなよ…」

呪族の王女「屈辱の味しかと覚えたぞ…?」

呪族の王女「覚悟は良いな?」

勇者「…!」

魔王「や、止めてください!」

勇者「ああ…いつでもきな。ただしアタシだけにだぜ?」

呪族の王女「分かっておる」

呪族の王女「…最後に聞こう…何故そこまで?」

勇者「…アタシは」

勇者「勇者だからだよ」

呪族の王女「…良い心がけじゃ!」

勇者「…! あああああああ!!!」

魔王「勇者さん! や、止めてください! 呪族の王女さん!」

呪族の王女(勇者…ただの小娘かと思ったが中々どうして)

勇者「があああああああ!!!」

魔王「勇者さん! 勇者さん! 止めてください!」

呪族の王女(見事な心意気を持っているではないか…くく)

呪族の王女(その心を折る美酒を味わえなかったのは少し残念ではあるが、こう言う終わり方も、また良いものかも知れぬ)

魔王「お願いします! 止めてください! 聞いてください呪族の王女さん!」

勇者(ぐくく、ああ、わ、分かって…たけど心も体も死ぬほど苦しい…)

勇者(熱いの…怖い…苦しい…)

勇者(でも…今なら耐えられる…)

勇者(何故なら…今のアタシには…信じられる物が…ある…から!)

勇者(あいつの…魔王の涙を…信じられる…から…!)

呪族の王女「仕上げじゃ!」

勇者「く…!」

魔王「止めて…止め…」

魔王「止めろ…て」

魔王「止めろって言ってるだろーーーっっっ!!!」

呪族の王女「!」

勇者「!」

神官妹「!」

魔王「あああああああ!!!」ゴゴゴ

呪族の王女「な、なんじゃこの尋常ではない魔力の量はっっっ!?」

勇者「…」ニヤリ

魔王「ああぁぁあああぁぁ!!!」ゴゴゴ

呪族の王女(これは…これは何だ…)

呪族の王女(天地が震えるほどの魔力じゃと!? 極限状態のわらわでもこれほどの力までは出ぬぞ…)

呪族の王女(馬鹿な! わらわを超える力の持主じゃと?)

呪族の王女(ありえん! そのような力を持つ者は、もはやかの存在しか…!)

呪族の王女(…! まさか…こいつがそうなのか!?)

魔王「あああああああ!!!」ゴゴゴ。

魔王「あああああ!!!」ゴゴゴ。

魔王「あ───」ゴゴゴ。

魔王「───」

突然、魔王のが見ていた景色が、まるで引き戻されるように遠く小さくなり、そしてその景色が小さくなっていった分、回りの世界が真っ白に染まっていく。

何も無い白の世界に変わる。

魔王「れ…? 僕…は?」

魔王「何をしてたんだっけ?」

魔王「確か…勇者さんが…酷い目にあってたのが…我慢出来なくて」

魔王「頭が、無茶苦茶にかき回されたようになって…それで…それで」

魔王「何もかも真っ白に…」

魔王「…! そうだ勇者さんを助けなきゃ!」

魔王「そのためには何とか呪族の王女さんを説得しなきゃ…」

???『アホかてめえは』

魔王「え?」

魔王「誰?」

???『もう言葉なんて意味は無いんだよ…』

魔王「誰…誰何ですか?」

???『自分の望む世界に出来ないなら…』

魔王「…どこにいるんですか?」

???『相手の世界を壊して望む世界にすれば良い』

魔王「壊す…!?」

???『おいおい…壊すってワードにそんなに嫌悪するなよ』

???『まあだが、俺がお前くらいの時はそうだったからそれも仕方が無い事か』

魔王「当たり前です! 言う事を聞かないからって、そんな乱暴な手段で従えようなんて最低です」

???『くはは…』

魔王「何がおかしいんですか!?」

???『何、そんな事を言ってた時期もあったけかなと思ってな…』

魔王「時期…? 貴方は何を言ってるんですか?」

???『まあいい…今回はとりあえず俺に任せておけ、全て良いようにしてやる、俺のやり方でな』

魔王「ま、待って下さい! 貴方は一体何を…!」

魔王「…」ゴゴゴ!

呪族の王女「く…」

呪族の王女(な、なんじゃ急に無言になりおって…こ、こやつこの強大な魔力で一体何をする気なのじゃ?)

勇者「…」

神官妹「…」

魔王「…」スッ(両手をあげる)

一同「!」

魔王「へっ」ニヤ

呪族の王女「笑っ…」

勇者「た」

神官妹「…?」

と三人が思った瞬間、魔王が両手を上げた先に黒い玉のような物が発現し、その瞬間物凄い勢いで吸い込み始める。

呪族の王女「な、なんじゃこれは」

呪族の王女「…!」

呪族の王女の体から呪詛のような暗く光る紋様が抜け出て、黒い玉に吸収されていく。

呪族の王女「な! わ、わらわの力を吸いとっているのか!?」

呪族の王女「抜ける! わらわの力が!? やめ、やめろ!」

勇者「…!」

神官妹(…! 姉さんの体から呪いの紋様が出ていって…!?)

気づけば勇者たちにかけられらた、呪いの傷の呪力も体から抜けていく。

しかもさらに。

神官妹「…!」

神官妹「まさか毒霧も…!」

荒れ果ての地を覆い尽くしていたであろう、毒霧も、あの毒の土地湧き出ていた魔獣ごと吸い込み始めていた。

呪族の王女「ひぇやあああああああ!!!」

呪族の王女「力が! 力が! わらわの力が無くなるっっっ!」

呪族の王女「これ以上は…!」

呪族の王女「きゃああああああああ───!!!」

呪族の王女「が───」ドサリ

呪族の王女「…! …!」ビクンビクン

魔王「…」

魔王「…あれ?」

魔王「僕何をしてたんだろ…?」

神官妹「倒した───の?」

勇者「はぁ…」ドサリ

魔王「…! 勇者さん大丈夫です…」

魔王「ん? 何だこの黒い玉」

???「かえちぇっ!」

魔王「え? 女の…子? 何でこんなところに」

魔王「…! そう言えば呪族の王女はどこにっ!?」

???「わらわなら、ここにおるぢぇわないか!」

魔王「え?」

???「だーかーら、わらわがちゅぞくのおーじょだっ!」

一同「…」

一同「えええ!?」

呪族の幼女「いいから、そのたまをかえちぇっ!」


続く

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