第29話 魔王「僕に出来る事はないのだろうか?」
呪族の王女「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
魔王「ひっ…」目を背ける
勇者「へっ少しは痛みを味わう苦しみが分かったか!」
神官姉「う…」ガク
神官妹「!」
神官妹(呪いの傷が広がってる…)
神官妹(呪いに抵抗していた、神聖力を魔法で使ったからね…)
神官妹(これは早く決着をつけないと、流石の馬鹿姉でも、マズイわね…)
神官姉「勇者! 早く止めを刺さして呪いを解かないと姉さんがっ!」
神官姉「うう…」
勇者「今やる!」
魔王「!」
魔王(止め…殺しちゃうのか?)
魔王(そこまでしなくても…でもそうしないと神官姉さんが…)
魔王(ぼ、僕は…僕には…何か出来る事は本当に無いのか?)
勇者「はぁ!」
魔王「!」
魔王がそう思った瞬間、勇者は聖剣を握り直して呪族の王女の胸に突き立てる。
しかし───。
勇者「!」
勇者「さ、刺さらない…だとっ!?」
神官姉「あああああああ!!!」ガクンガクン
勇者「!」
神官妹「ゆ、勇者! 姉さんの呪いの傷が痛みを増したみたいで、痙攣を…!」
呪族の王女「痛い痛い痛いっーひ、イッーヒッーヒッヒッ!!」
勇者「なん…だ、こいつ、流れた血の色に体が染まって…赤くなっていく…」
勇者「て、てめえ! 何をしやがった!」
呪族の王女「ヒヒヒ…呪族は、苦しみを味わうほど、それを呪いの力に変え強くなる種族なのじゃ」
呪族の王女「死ぬ寸前の苦しみを味わったわらわは、その能力で極限の高みまで力を増したのじゃ!」
呪族の王女「もはやそんな付け焼き刃のエンチャントなど通用せぬほどになぁぁ!!」
勇者「そ、そんなのハッタリだ!」
呪族の王女「あの女の苦しみが増したのと、実際その剣が効かなくなったのが良い証拠じゃ」
呪族の王女「言ったであろ? お前たちではわらわは絶対に倒せぬと」
呪族の王女「何故ならわらわを倒すには、一撃で殺しきれるほどの力が無くてはいかんのだからのう…あ~痛い痛い…キヒヒ」
勇者「ハッタリだあ!」
呪族の王女「ハッタリであると思い込みたいじゃろ?」
呪族の王女「もう次の手は無いから…」
勇者「!」
勇者「あああああああ!!!」
勇者は呪族の王女を滅多切りにする。
だが。
呪族の王女「ほほほ…何も感じぬぞ」
勇者「!」
勇者「あ…あ…」ガクガク
呪族の王女「じゃが、極大まで力を増し、金剛石より硬くなったわらわの肉を叩いても、刃こぼれ一つせんとは、流石創造神が作った神器と言うところか」
呪族の王女「流石のわらわとて、どんなに力を増しても、神には勝つことは出来ぬからな」
呪族の王女「じゃが、その聖剣に呪族を切る力を与えなかった事は、やつにとっても誤算であったか」
呪族の王女「まあそれも仕方の無き事、何せ三千年も外界とは接触してなかったのだからのう」
呪族の王女「お前もそうは思わぬか?」
勇者「…」
呪族の王女「どうした急に静かになって…さっきまでの威勢はどうした?」
勇者「…」ガク
聖剣を手から離し、崩れ落ちる勇者。
呪族の王女「おや? もう心が折れたのか? そんなに早く折れてはつまらぬぞ」
呪族の王女「ほれ、自慢の聖剣を持って、もっと頑張ってみせい」
勇者「…」
呪族の王女「…はぁ、本当にやる気が無くなったようだのう」
呪族の王女「この力を増す技も、微調整出来ればもう少し長く楽しめたのじゃが」
呪族の王女「与えられた痛みの分、わらわの意思とは関係無く力を増してしまうからのう、全く不器用な技じゃ」
呪族の王女「ともあれ」チラ
呪族の王女「戦いで楽しめぬと言うなら、別の事で楽しむとしよう」
呪族の王女「お前の苦しむ姿…その美酒を味わうとするか」
呪族の王女「先程の続きじゃ!」
勇者「…!」
勇者「や、やめろ」タジ
呪族の王女「やめろ…?」ジリジリ
勇者「…う」キッ
呪族の王女「ふふん」バッ
勇者「あ!」
呪族の王女は勇者が驚くほどのスピードで、あっという間に間合いを詰め、勇者の体を拘束する。
勇者(な、何て力だ、ビクともしない…)
勇者「く…離せ…!」
呪族の王女「強がるな…分かっているぞ?」
勇者「な…にを…く!」
呪族の王女「お前は普段威勢が良いように見えるが、その心の裏では、野の兎のごとく、いつ肉食獣に補食されてしまうかを怯えている、そのようなただの臆病な少女である事を」
勇者「…! そ、そんな訳あるか!」
呪族の王女「ほう…では本当かどうか試してみるか?」サワサワ
勇者「な、だからっ…顔を触るな」
呪族の王女「この勝ち気な美しい顔を、恐怖の色で歪ませてな?」
呪族の王女はそう言うと勇者の手をつかんで見せつけるようにする。
勇者「な、何すんだ!」
呪族の王女「覚えておるか? さっきここに呪極焦熱糸の熱を感じた事を」
勇者(こいつ…何を言って…ん? アタシの手に染みが…)
勇者「!」
呪族の王女「気づいたようだのう…そうじゃこの染みは呪極焦熱糸が付けた呪いの火傷の痕じゃ」
勇者「なんだ…と」
呪族の王女「今までわらわが力を抑えていたから、痛みは無かったが…そら」
勇者「っあああ!!?」
呪族の王女「ふん」
勇者「くはっ…」
呪族の王女「このとおり痛くするのもしないのも自由自在」
呪族の王女「さて…お前は火を感じる熱の痛みに、並々ならぬ恐怖を持っていたな?」
勇者「…!」
勇者「や…めろ」ガクガク
呪族の王女「やめろ?」
勇者「!」
勇者「…」
呪族の王女「止めて欲しいなら言い方と言う物があるんじゃないかえ?」
勇者「…」
勇者「…めて」
呪族の王女「ん?」
勇者「や…めてくだ…」
勇者「…さい///」
呪族の王女「そんな小さな声では、聞こえぬのぅ~? どれ大きな声が出るように協力してやろうかの…!」
勇者「…あつっっ!! やめっ!」ビク
勇者「わ、分かりました!」
呪族の王女「何が分かったのかえ?」
勇者「火だけは本当にダメ何です…お願いしますから…止めてください…」
勇者「く…///」
呪族の王女「ほほほ…可愛い! 本当に可愛いのぅ!!」サワサワ(顔を触る)
勇者「う…」
呪族の王女(ふふふ…ああ…堪らぬ、自分が強いと思い込んでいる者の心が折れる瞬間を見るのは、本当に堪らぬ!)
呪族の王女(心を追いつめる事こそ呪いの真髄、そしてそれを見る事こそ呪族として生きる意味であり絶対の真理なのじゃ…)
呪族の王女(勇者の心が折れるこの最上の美酒…この受けた痛みの分、たっぷりと味あわせてもらうぞ…!)
呪族の王女「よしよし良い娘じゃのう…わらわは素直なおなごは大好きじゃ」ニコ
勇者「く…///」
呪族の王女「ならばこれも素直に教えてくれるかの?」
勇者「何を…」
呪族の王女「ん?」ピクッ
勇者「…ですか」
呪族の王女「うむ」ニコ
呪族の王女「何、簡単な事じゃ、お前…何故そんなに火を怖れる?」
勇者「…! そ、そんな事お前には関係無いだろっ!」
呪族の王女「むん!」
勇者「あああああああ!!!」
神官妹(勇者…あれは…もうダメね)
神官妹(と言うか、もう本当に打つ手だては無いわ…)
神官姉「…! …!」ガクガク
神官妹(姉さんも…もう無理か、まさか魔界にまだあんな化物がいたなんてね)
神官妹(魔界を甘く見すぎてたわ…ここはもう引き時ね)
神官妹(姉さんや勇者には悪いけど、ここは逃げさせてもらうしか無いわね)
神官妹(それにしても勇者って何であんなに火が嫌いだったのかしら…)
神官妹(まあ…いいか、もう会うことも無いだろうし)コソコソ
呪族の王女「さあ素直に言うのじゃ、何故火を怖れる?」
勇者「それ…は」
呪族の王女「ん?」
勇者「…やだ! それだけは言いたくないっ!」
呪族の王女「ぬん…!」
勇者「ぎゃあああああ!!」
呪族の王女「ふん…」
勇者「はあ…はあ」
呪族の王女「まだ言わぬか?」
勇者「…! そ…れは…」
呪族の王女「…」スッ
勇者「…! それだけは本当に言いたくないの! 許してください!」
呪族の王女「ダメじゃ、言え」
呪族の王女「言わぬなら」
勇者「やだあああああああ!!!」
呪族の王女「ほほ…強情なおなごじゃ」スッ
呪族の王女「む?」
呪族の王女が呪いの痛みを与えるため、念を込めようと手をあげたその瞬間、その手を掴む者がいた。
神官妹「え!」
勇者「え…」
呪族の王女「…どう言うつもりじゃ…」
呪族の王女「小僧?」
魔王「う…う…」
続く
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