第17話 魔王「代わりましょうか?」

勇者(魔王のやつ…あ、アタシを名指しして…まさかここでアタシを殺る気か…?;)

神官妹「勇者…早まった真似ダメですよ?」ヒソヒソ

勇者「分かってるよ…早まったところで勝てる気もしないしな…」ヒソヒソ

勇者「まあやるときは…目潰しだ…ヤバそうになったらやる…いいな?」ヒソヒソ

神官妹「目を奪って…逃げると言う感じですね」ヒソヒソ

神官妹「分かったわ…」ヒソヒソ

神官妹(確かにそれが今私たちに出きる唯一の現実的手段ですわね)

勇者「ああ…で」ヒソヒソ

魔王「勇者さん?」

勇者「ち…! これ以上は無理そうだ…行ってくる…」ヒソヒソ

神官妹「頼みましたわよ」ヒソヒソ

勇者「ああ」ツカツカ

魔王(やっと来てくれた…って凄い不機嫌そうな顔!)

魔王(やっぱり僕なんかが、目立つ真似をしたから怒ってるんだ…)

魔王(早く街を浮かす魔法を交代しないと…!)

魔王「勇者さん…あの!」バッ!

勇者「…! 聖光浄魔斬!!!!」

ドカーーーーーン!!!

説明しよう! 聖光浄魔斬(セイコウジョウマザン)とは、魔を浄砕(ジョウサイ)する聖なる光を聖剣に纏わす事で、魔族に対して極大特攻効果をもたらす勇者の必殺技だ。

ちなみに聖光は、超圧縮断熱効果を生み出し、その効果によって周囲の気体は異常発熱させられ、それから生み出される超熱量がとてつもない爆発を引き起こす、威力も見た目も極大級の技であるっっっ!!!

勇者(…それでも、倒せる気はしねーが…)

勇者(だけど視界を奪うくらいには…)

勇者「逃げろ…神官妹…」

勇者「…!」

勇者がそう言葉を放った瞬間、左手の手首に掴まれる感触を感じる。

見れば自分の手首を掴む者がいた。

勇者は直感でそれが何かを悟った。

そしてその直後に感じたそれが勇者にその言葉を選ばせた。

その感じた事が無い、その者が持つ底無しの魔力が、勝ち気な勇者にあっさりとその言葉を絞り出させた。

勇者「たす…け…たすけ…」

恐怖だった。

そしてそれが自身に死をもたらす物だと確信した時、そこにいるのは勇者ではなくただの人間となった。

だから勇者と言うプライドもかなぐり捨て、彼女は神官妹に助けを求めた。

どこまでも情けなく、みっともなく、無様に。

彼女は助けを求めた。

即座に求めた。

しかし、その結果は───。

神官妹「…ゆ、許して勇者…私まだ…」

後退る、先ほど自分を友と言ってくれた者の裏切りの姿。

それを見た勇者は。

勇者「や…だ…やだ、やだ、やだ」

勇者「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!」

叫んだ。

文字通り泣き叫んだ。

そこに勇者の姿は微塵も無かった。

しかしそれも無理からぬ事だった。

勇者と言えど、その彼女の心は勇者と呼ぶには程遠い場所にあったのだから。

魔王「あの───」

勇者「ひ…」

自分に終わりをもたらす者の声に勇者は固く目を閉じた。

そしてもがいた。

勇者「やだやだ!!はなぜはなせはなぜ!!」

どこまでもみっともなく。

そして絶対死ぬ、自分は殺されてしまう事を確信した。

しかし自分の命を奪おうとしている、死神の言葉は予想外の物だった。

魔王「ちょ…! ちょっと泣くほど嫌だったんですか?」

魔王「僕が出しゃばって街を浮かした事が」

勇者「はなぜはなぜはなぜ…出しゃば…?」

勇者「街を浮かす…?」

魔王「は、はい…僕ごときがこんな街を浮かしたりとか簡単な事で、目立つような事したから、それで怒っているのかと…」

勇者「僕ごとき…目立つ…」ズル(鼻をすする)

魔王「だからその役すぐにお代りしようかと思って…」

勇者「代わる…」

魔王「はい、勇者さんみたいにお強い方の方が、きっともっと上手く出来ますよね」

魔王「下手くそな僕が出しゃばった真似して本当にすみませんでした」

勇者「すみません…?」

魔王「は、はい申し訳ありませんでした」

勇者「攻撃しない?」

魔王「? 誰にですか」

勇者「アタシに」

魔王「…! す、する訳無いじゃ無いですか! そ、そんな恐ろしい事」

勇者「本当?」

魔王「本当ですよ!」

勇者「絶対?」

魔王「絶対ですよ」

勇者「…」

勇者「ばか!」

勇者「にゅわらぎしいことじや゛がっでえ゛え゛!(紛らわしい事しやがってえ!)」

勇者「ばかばかばかばかばかばかばかばか!!!」ポカポカポカポカ

魔王「えええええ!?!?!?」

魔王「ちょ! 何言ってるか分からないですけど、しかも何で泣きながら優しく叩くんですか!?」

勇者「うわあああああああ!!!」ポカポカポカポカ(結構本気で叩いている)

神官妹「あ、あの~魔王様、ちょっと彼女気分が優れないみたいなので、少し席を外させてもらって良いでしょうか?」

魔王「そ、その様が良さそうですね…お願いします神官妹さん」

神官妹「は、はい~で、では、ほら行くわよ勇者」

勇者「…!」

勇者「うらぎった…」

勇者「裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った裏切った!!!」

神官妹「しょ、しょうがないでしょそれは」

勇者「あああああああ!!!TT」

魔王「…^^;」

魔王「ん?」

神官姉「魔王ちゃん…ほっぺプニプニ(きゅ~ん幸せ♪)」

魔王「あ、あの」

神官妹「…!」スパーン!!(思いっきり神官姉の頭叩く)

神官姉「ぐは…」

神官妹「ほほは…失礼しました魔王様」ズルズル(姉を引っ張っていく)

勇者「あああああああ!!!TT」

魔王「何がどうなっているのか、よく分からない…;」

参謀「ふ…」

戦魔将軍「お、おい参謀?」

参謀「何ですか急に…貴方と肩をくみかわす仲では無かったと思いましたが?」

戦魔将軍「固いことを言うな我心の友よ」

参謀「魔王様が強いと分かった瞬間何なんですか貴方は、チョロインですか」

戦魔将軍「そんな事はどうでも良いでござる!」

戦魔将軍「何ですか実際どうなんだ? 勇者より強いのか?」

戦魔将軍「あの高慢ちきな勇者が泣き叫んでるところ見ると、やはりそうなのか!?」

参謀(この筋肉ダルマ…余計な事をしそうで厄介ですね…やれやれ)

参謀(下手に戦争する方向に持っていて、魔王が完全な反戦主義だってバレるのは不味いんですよ!)

参謀「…好きに感じれば良いかと思いますが、決して魔王様の命令以外で勝手な行動を起こさないでくださいよ?」

戦魔将軍「分かっておる! しかしあの魔王様の力があれば、魔王軍が再起する事も可能でござるな! いやめでたい! 流石前魔王様のご子息だ」

参謀(分かってないだろ…)

戦魔将軍「いやはや…前魔王様もお魔族が悪い! 魔王子殿があれほど強いなら、一言言ってくれておいても良かった物の!」

参謀(前魔王も恐れてたから言わなかったですよ…本当に馬鹿ですねぇ…この魔族は)

魔王(ん…? 何だ戦魔将軍さんもこっちを見てる)

魔王(戦魔将軍さんも街を浮かすの、自分でやりたかったのかなー)

魔王(悪いことしちゃったな、さっきの勇者さんみたいに怒らせる前に代わってもらおう)

魔王「戦魔将軍さーーーん!!」

参謀「ほらチョロイン将軍様、敬愛する魔王様が呼んでますよ」

戦魔将軍「ほ、本当だ、な、何でござろうか?」

戦魔将軍「はいはいはい、何で御座いましょうか魔王様」ゴマスリゴマスリ

魔王「あ、はいどうも、あのですね」

戦魔将軍「はいはい」

魔王「やっぱりこう言う引っ越しをしてる時って、目立ちたい人っていますよね?」

戦魔将軍「はい?」

魔王「戦魔将軍さんも、そう言う目立ちたい魔族なのかなって思って…だから代わりますよ」

戦魔将軍「代わる…何をでごさるか?」

魔王「何をって嫌だなー」

魔王「街を浮かす事ですよ」

戦魔将軍「え"!?!?」

魔王「何気にしないでください! これで戦魔将軍さんは引っ越しで頑張った魔族No.1になって凄い目立ちますよ」フンス。

戦魔将軍「目立つ…って…え!? ちょっと待ってください魔王様、わ、儂はそんな…」

魔王「大丈夫戦魔将軍さんの力だったら持てますよ! …あ、でもこれは魔法で浮かしてましたね」

戦魔将軍「そ、そうですよ…い、いくら儂の剛力でも、街一つなんて」ダラダラ(汗)

魔王「あ、大丈夫です。力で持てるように術式を組み替えましたから、はいこの魔力の鎖を持って」

戦魔将軍「え!?」

魔王「安心して下さい、この鎖に浮かしている全ての重量がかかるようにしましたから」

魔王「なので魔法が苦手な戦魔将軍さんでも、その鎖を引っ張り上げるだけで浮遊魔法を維持出来ます」

戦魔将軍「な…な…な」

魔王「気にしないで下さい、この程度の術式変換なら即興で出来ますので」

魔王「あ、すいません、こんな簡単な術式変換で偉そうに言っちゃって…てへ」ポリポリ

戦魔将軍「じゃなくて魔王様ー!?」

戦魔将軍「儂…む、むり…」

魔王「はいどーぞ! これで引っ越しのMVPは戦魔将軍さんです。おめでとう!」

戦魔将軍「ちょ…ま…」ハシ(鎖を掴む)

戦魔将軍「…!!!!」ズシィっっっ!!!!

戦魔将軍が鎖を掴んだ瞬間、大地が揺れる。

魔王「と、と…」

戦魔将軍「はごごごごごごっっっっっっ!!」

戦魔将軍「おもおもおもっっっ!!」

戦魔将軍「ギギギギギキギギギギギっっっ!!!」

魔王「お、驚いた…やだなー僕なんかに気を使わなくて良いですよ」

魔王「誰がどう見たって戦魔将軍さんの方が力が上なんですから、ははは」

戦魔将軍「ちがちがちがちがちがちがっっっ!!!」

戦魔将軍「だれかだれだれれかかかっっったすたすたすけーーーっっっ!!」

魔族っ子「お、おとーさん!?」

戦魔兵たち「た、大将ーーーっっっ!!」

参謀(ふん…あの馬鹿はあのままで良いでしょう)

参謀(さて…とりあえず勇者が、魔王の力を恐れているのは決定的になりましたね)

参謀(あの様なら、二度と魔王に何かしようなどとは考えもしないでしょう)

参謀(とりあえずはそれを分からせて動きを封じ、じっくりと魔王以外の力で勇者を亡き者にする算段を考えましょうか)

参謀(勇者さえいなくなれば、戦魔将軍でも人間界征服は容易ですからねぇ…くくく!)

戦魔兵「ほ、報告ーーー!」

一同「!?」

戦魔兵「遠くの方で毒霧が立ち込める場所が見えて来ました」

戦魔兵「つ、着きました! 荒れ果ての地に!」

一同「!!!」

魔王(つ、ついに着いた荒れ果ての地に…)

魔王(魔族が住むところじゃないみたいだけど…)

魔王(魔族っ子や戦魔軍の皆さんが幸せに暮らせるように、頑張って開拓するぞ!)


続く

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