第16話 魔王「魔力を見せるのはマナー違反です」
~~20年前~~
前魔王『魔王…あの山に向かって魔法を撃って見せよ』
魔王『で、でもあの山には何か動物が居たりしないでしょうか?』
前魔王『 魔族が他の生き物など気にするな! いいからやれ!』
魔王『でも』
前魔王『ええい、あんな木も一本も生えておらぬ裸山に生き物などおらぬわ!』
前魔王『いいからやれい!』
魔王『わ、分かりました!』
魔王『えーと、ぶつぶつ、ファイアボルト』
魔王が手をかざして、初級魔法のファイアボルトを使う。
しかし魔王の手から放たれたのは、初級魔法とは到底思えない、まるで極太のレーザー砲のようなファイアボルトだった。
その超強力なファイアボルトは、前魔王が指定した裸山に着弾すると、山が溶けるように歪み、次の瞬間、とてつもない爆風と共に大爆発を起こす。
そして指定した山は、後ろに連なっていた山ごと消滅し、そこだけ何か大きな物が通過したように、大地がえぐられていた。
前魔王『…』
魔王『こ、これでよろしいでしょうか?』
前魔王『…』
魔王『父上?』
前魔王『え? あ、ああ…』
前魔王『コホン…た、大した事無いな…』
魔王『え?』
前魔王『全く大した事が無いと言ったんだ…』
魔王『え? あれで大した事が無いんですか?』
前魔王『そ、そうだ、あれくらい子供でも出来る』
前魔王『ま、全くお前はいつまでも弱いままだな』
前魔王『ほ、本当に我が息子ながら、な、情けない!』
魔王『す、すみません…』シュン
前魔王『そ、そんなに弱いと、次の後継者にもで、出来んな』
魔王『は、はい…』
前魔王『だからその何だ、私はお前をみかぎった!』
魔王『え!?』
前魔王『だ、だからお前は、もう強くなろうとしなくていい』
魔王『す、すみません父上、出来るだけ努力して父上のご期待に沿えるように…』
前魔王『だから、しなくていいっての!』
魔王『え?』
前魔王『あ』
前魔王『コホン…///』
前魔王『も、もうこれは決めた事だ、次の余の後継者は妹の魔王姫にする』
前魔王『だからお前は、もう何もやらなくても良い』
前魔王『何もせず、 一生城の中で、お前の好きな花でも弄りながら暮らすと良いだろう』
魔王『で、でも』
前魔王『分かったな?』
魔王『は、はい…』
前魔王『いいか、お前は弱いんだからな? 』
魔王『…はい』
前魔王『チョー弱いんだからな?』
魔王『はい?』
前魔王『絶対にっっっ…!!!』
前魔王『何もしてはならんぞ!?』
前魔王『分かったな?』威圧。
魔王『わ、分かりました』
~~回想終了~~
魔王(父上に弱いと決定づけられたあの日から約20年…)
魔王(あれから少しも強くなってないんだろうな僕は…)
魔王(本当にあの後、城でガーデニングばかりしてましたしね…)
魔王(こんな街を、大地ごと浮かすぐらいの芸当、皆さんならきっと楽勝何でしょうね)
魔王(は! もしかして下手くそな私が、こんな率先してやってしまっては、出しゃばりめ! と思われるんじゃ無いんでしょうか?)
魔王(はわわわわ><)
魔王(何だかそうだと思ったら、ついやってしまったのが恥ずかしくなって来ました)
魔王(誰かに代わって貰いましょうか…?)
魔王(いや、ここまでやって、こんな雑用押しつけるなんて失礼なのでは…?)
魔王(うむむ…一体どうしましょう…)
勇者「…」
神官妹「勇者」
勇者「…」
神官妹「勇者!」
勇者「…! な、何だよ」
神官妹「…はあ、何呆けてるのよ」
勇者「べ、別に」
神官妹「…まあいいわ」
神官妹「それより参ったわね…あんな化け物がまだ魔界にいたなんてね」
勇者「は、は? た、大した事ないし?」
神官妹「…そ、やっぱり凄いのね彼」
勇者「そ、そんな事言ってねーだろ!」
神官妹「隠さなくても…分かるわよ」
神官妹「何せ私は前魔王を倒した勇者のパーティーの一人、元僧侶なのよ?」
神官妹「どれだけ長く貴女と付き合ってると思ってるのよ?」
勇者「…」
神官妹「それに…だから信じろって言う訳じゃ無いけど」
神官妹「貴女があの妖魔将軍を拷問して殺した時」
神官妹「その行為をやったあなたに対して、戦士と魔法使いは嫌悪し去っていったけど」
神官妹「私は今でも貴女と一緒にいるわ」
神官妹「少しくらい胸の内を明かしても良いんじゃない?」
勇者「…神官妹」
勇者「わりぃ…逆立ちしたって勝てそうも無い…」
神官妹「ゴクリ…そ、そこまでなの?」
勇者「ああ…戦魔将軍と参謀なら、同時に戦う縛りプレイしても、あいつらは倒せると思うけど、あのガキは…いや魔王は次元が違う」
勇者「もしかしなくても前魔王より圧倒的に強い」
神官妹「…貴女が言うならそうなんでしょうけど、あの程度の魔力しか感じないし、本当に彼がこんな街を浮かしているなんて信じられないんだけど…」
勇者「ステルスだ。奴は高度なステルス魔法で自分の魔力を隠している」
勇者「アタシでも相当目を凝らさないと分からないレベルのな」
神官妹「なるほど…確かにそれなら私には魔力を視る事は無理そうね…」
神官姉「魔王ちゃん…素敵///(か弱いショタもいいけど、強いのも素敵だわ…)」
勇者「…(汗)」
神官妹「…(汗)」
魔王「…」
魔王(なんか凄い視線を感じると思ったら、勇者さんたちがすっごい見てる)
魔王(な、何だろう…?)
魔王(それに前から気になってたけど、勇者さんたちってあんな魔力を放出して…なんと言うか)
魔王 (女の人なのに、はしたないなぁ…)
魔王(人前で魔力を、あんな無防備に曝け出すなんて…)
魔王(人前で魔力を隠さないのは、裸でいるのと同じくらい恥ずかしい事だって、父上から聞いていたんだけど…///)
魔王(やっぱり人間と魔族の文化の違いなのかな…)
魔王(でも戦魔将軍や参謀さん、それに魔族っ子さんも、隠して無いような…)
魔王 (これってやっぱり…)
魔王 (はしたないよなぁ…)
神官妹「しかし困りましたね」
勇者「ああ…」
神官妹「折角出来た大臣様の世界征服のための財源確保先をこんな形で失うなんて…」
勇者「そこ!?」
神官妹「当たり前です」
神官妹「私、大臣様の愛の人であり、肉の奴隷になることを心に誓いましたから」
勇者「愛の人はギリ良いけど、後者はアウトな」
神官妹「何故です!?」
勇者「真顔で聞き返すな…マジ引くし、ほんとキモイから」
勇者「あんな脂身ジジイのどこが良いのか…」
神官妹「何か言いました?」ギロ
勇者「OKお前の趣味だ。もう何も言わない」
神官妹「何故誰も、大臣様の愛らしくプニプニなされた包容力あるお肉の素晴らしさ分かってくれないのかしら…はあ」
勇者(物は言いようだな…)
神官妹「さて…真面目な話はここまでにして、どうしましょうか…」
勇者「全然真面目じゃなかったぞ…しかし本当にどうするか…?」
勇者「やってみなきゃ分からないってのもあるけど、正直今のところ勝利のビジョンが見えない」
神官妹「まあそこはとりあえず勝てないと前提にしておきましょう」
勇者「ああ…」
神官妹「さてそれを前提においたこれからの私たちの行動ですが」
神官妹「勝てない相手と分かった以上、一旦引いて、対策を立て直すのが定石です」
神官妹「しかし、ここは奴等の街でテリトリーであり、さらに空の上」
神官妹「フライの魔法で飛んで逃げれなくは無いけど、勇者の言う通り、あの魔王がそれほどの実力者なら、それを見逃すかどうか…と言うところですね」
勇者「だな」
神官妹「…しかし少しおかしいところがあります」
勇者「? それは?」
神官妹「お気づきになりませんか?」
神官妹「それほどの力があるなら、何故無条件降伏の条約を結んだり、いまだ私たちを殺さないなど」
神官妹「回りくどいと言うか、する事の必要の無いことしているのでしょうか?」
勇者「それは…さあ…何でだろうな?」
神官妹「あの力があっても出来ない理由が魔族にはあるから…とも考えられませんか?」
勇者「理由…? 力があってそれをしない理由なんて何があるんだ」
神官妹「それは分かりかねますが…そう言えば…」
勇者「? 何?」
神官妹「先ほど参謀と何か話していたようですが…一体何を?」
勇者「そ、それは…」
神官妹「それは?」
勇者「べ、別に、ただの話…そ、そう世間話してただけだよ」
神官妹「そう魔王を攻撃してみろと煽られたけど、怖気づいて出来なかったのね」
勇者「何で分かるんだよ!」
神官妹「分かるって言ってるでしょ?」
神官妹「でも流石に細かい内容までは分からないわ」
神官妹「そこに魔王がする必要の無い無条件降伏したヒントが隠されているかも知れません」
勇者「むー…」
神官妹「勇者」
勇者「分かったよ!」
勇者「何か凄い煽られた」
神官妹「煽られた?」
勇者「うん、もしもアタシが攻撃して魔王が倒せない事が分かったら、無条件降伏の話は無くなるって…」
勇者「それでも良いのかって?」
勇者「魔王、戦魔将軍の攻撃受けても、まるでダメージ受けてなかったし、アタシもそーかもって思って…」
神官妹「勇者…それは煽られたんじゃなくて脅されたのでは…?」
勇者「え!? で、でも、あいつやれるものならやってみろみたいな感じで言ってたぞ!?」
勇者「ニヤニヤしながら言ってたぞ!? アタシ、超イラついたし!?」
勇者「あれどう考えても煽ってたでしょ!?」
神官妹「はあ…でも最終的に怖気ついちゃったんでしょ?」
勇者「それは…まあ」
神官妹「最初の挑発は、そう言う心境に誘導するためにやった仕込みよ」
勇者「仕込み?」
神官妹「そう仕込み…貴女が最終的に怖気付きやすいように、わざと盛り上がらせて」
神官妹「その自信が頂点になった所で、その自信が崩れる決定的な事を言って貴女のやる気を一気に削いだ」
神官妹「どんな自信家でも、それをやられると案外脆いものです」
勇者「おお! 何かそんな感じの流れで言われてたかも…」
神官妹「そして問題は何故脅してまで勇者に攻撃をさせなかったのかですね」
神官姉「魔王ちゃんが…可愛いから?(可愛いは正義!)」
神官妹「姉さんは少し黙ってて(汗)」
神官妹「とにかく、魔族にとっては無条件降伏は破棄になった方が良いんだから魔王の強さが、勇者より強い事は明るみに出ても良い筈」
神官妹「それをしないのは、それをされては困る参謀の裏が隠されている筈です」
神官妹「それを見極めるまで、もう少し魔族と共に行動しても良いかもですね」
勇者「そ、そうだな…そう言われると、確かに何かアタシもおかしく感じてきた…」
神官妹「…そう思うのは良いことですが、くれぐれも先走って攻撃しないでくださいね」
勇者「わ、わーってるし!?」
神官姉「魔王ちゃんと…まだ一緒♪(魔王軍に入りたい)」
勇者・神官妹「…(汗)」
勇者「まあともあれ…あのガキ魔王と参謀の謎を解いてやろうじゃねえか」ジー
神官妹「そうね…」ジー
神官姉「…(はあいつまでも魔王ちゃんの側にいられる方法は無いかしら)」ジー
魔王「ん? 何だ視線を感じるぞ」
魔王(…! 何だ三人揃ってこっちを見ているぞ…)
魔王(一体なんだ…?)
魔王(神官姉さんは何か熱ぽい目で見てるけど、他はすっごい睨んできてるんですけど!?)
魔王(な、なんであんな不機嫌何だろう…)
魔王(…! そ、そうかやっぱり僕が、出しゃばって、大地を浮かしているのが気に入らないのかも…」
魔王(僕の癖に生意気だ…みたいな感じで…)
魔王(ど、とうしよう…何とかしなくちゃ…!)
魔王「あ、あの勇者さん!」
勇者「…!」
勇者(アタシを名指しに、な、ななんだ?)
続く
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