第12話 魔王「話をしましょう」

戦魔将軍(我が最大の攻撃を受けて生き残った…だと───?)

勇者(ウソ…だろ…? 多少ダメージを受けているみたいだが───)

勇者(多少で済むか!? あの程度の魔力しかなくて?)

勇者(一体どんなカラクリが…? 瞬間的に魔力を上げた?)

参謀「ふ…」

勇者(…! キザホモがやつ笑っている…?)

勇者(あいつ…やっぱり何か…?)

勇者(いや…戦魔剛滅断の攻撃が持続している間、それを防ぐ魔法防御を張っていたら、流石に瞬間じゃ防ぎきれないハズ…)

勇者(わからねえ…何をやりやがったんだ…あいつ!?)

戦魔将軍(多少のダメージを受けていると言う事は、台風の目に…)

戦魔将軍(針の穴をくぐったと言うことか…)

戦魔将軍(強運…いや違う)

戦魔将軍(それもあるだろうが…儂が無意識にくぐらせてしまったのかも知れんな…)

戦魔将軍(ふ…やはりどこかで未練があるのかも知れん)

戦魔将軍(部下たちの事そして娘の事)

戦魔将軍(やはり死なせたくない)

戦魔将軍(そんな儂の未練が、小僧の言葉に引かれ、儂の技を鈍らせたかも知れんな…)

魔王「戦魔将軍さん」

戦魔将軍「む?」

魔王「貴方のご好意には感謝します」

魔王「しかしどんな形にしろ、貴方の技を食らい生き残りました」

魔王「約束通り僕の言うことを聞いてもらいます」

勇者(何だ…手加減した? それともわざと外した?)

勇者(直前まで見てて、確かに直撃していたように見えてたけど…)

勇者(見間違い? まあそれなら…辻褄が合うけど…)

戦魔将軍(好意…? はて?)

戦魔将軍(儂の無意識に技を外したのを気づいたと言う事か?)

戦魔将軍(儂でも気づかなかった事を…)

戦魔将軍(ふ…前魔王様のご子息だけはある…と言うことでござるか…)

戦魔将軍「…言うことを聞くは、いささか飛躍し過ぎでござるな」

戦魔将軍「儂は話を聞くと言っただけでござるよ?」

魔王「…やはりそう言う事なんですね」

戦魔将軍「そう言う…?」

魔王「ふふ…貴方のやり方で言えば、口に出すのも無粋でしたかね」

魔王「とにかく感謝します」

勇者(やっぱり出来レースって感じか)

勇者(戦魔将軍のヤロー、体裁って言うか、話せる理由が出来ればそれで良かったのか…)

勇者(ほんとプライドだけ高い奴ってメンドクセー…)

戦魔将軍(何かよく分からんが…まあ約束は約束だ)

戦魔将軍(話だけは聞いてやるでござるか)

戦魔将軍(話次第では魔王子の頼みを聞くのもやぶさかでは無いかも知れん)

戦魔将軍(ただ…こちらも人間に降るくらいなら死ぬ事を覚悟して、戦を望んだのだ)

戦魔将軍(例え我らが反抗した事により、生き残った魔族が、民族浄化されようと、元々人間ごときに頭をたれた魔族に魔族を名乗る資格は無し!)

戦魔将軍(だから最後に戦うなら、魔族っ子たちの故郷を守るために、この力を使うと決めたのだ)

戦魔将軍(やはり許せぬ…! おのが醜い欲望のために、この街を奪おうとしている人間が…!)

戦魔将軍(だから儂は戦うのは止めん!)

戦魔将軍(そんな儂に、お前はどんな言葉をかける、見せてくれる!)

戦魔将軍(この覚悟…生半可な言葉じゃ覆りませんぞ魔王子殿…!)

戦魔将軍「では改めて…話だけは聞こう」

魔王「は、はい戦魔将軍さん」

魔王「即刻戦いを止めて、私達新生魔王政府の傘下に入ってください」

戦魔将軍「それは出来ん相談だ」

魔王「そ、それは何故ですか?」

魔王「やはり僕が魔王足る器に足りないから、言うことを聞きたくないのですが?」

戦魔将軍「それもある、だがそれだけではない」

魔王「それは…?」

戦魔将軍「この街だ…儂は魔族っ子たちの故郷を必ず守ると武死騎士として斧に誓った」

戦魔将軍「その約束を違う事は決して出来ぬ」

戦魔将軍「武死騎士の誓いを破るくらいなら、戦って死んでしまった方がマシと言うもの」

戦魔将軍「お前は人間たちにあの魔石鉱脈を引き渡すために、儂たちをここから追い出したいのでろう?」

戦魔将軍「だから無理な話と言っておる」

魔王「お、追い出すなんて、ただ新しい土地に移動して貰うだけで…」

戦魔将軍「良い…どんなに言葉を取り繕っても、お前がやっている事は、この街を愛し住んでいる者たちに、出てけと言っている事には変わりはせん」

魔王「…」

勇者「は、てめーらだって散々人間を故郷から追い立ててじゃねえか」

戦魔将軍「弁解はせぬ!」

戦魔将軍「だが儂をそれで非難すると言う事は、貴様にはそれが悪の行為である事を分かっているのだろう?」

勇者「だ、だから何だよ」

戦魔将軍「その悪の行為を、やられたからと言ってやり返す事を、貴様は胸を張って正義の行いであると言いきれるのか!?」

勇者「い、いや正義だとか悪だとか、そう言う臭い事はどーでいいっつーか…ゴニョゴニョ」

戦魔兵「うるせーぞ! 馬鹿勇者!」

戦魔兵「今大将が話してんだ!」

戦魔兵「大将は占領した土地の人間に、自ら炊き出しとかしてたりして、結構人間から好かれてたんだぞ!」

戦魔兵「お前みたいな魔族を拷問して殺す、外道勇者と一緒にするなっ!」

戦魔兵「ばーか! ばーか!」

勇者「んだとてめーら!! 本当にぶっ殺すぞ!!」

戦魔将軍「お、お前ら勝手な事を言うな!」

魔王「戦魔将軍さん、やっぱり貴方は良い魔族だったのですね」

戦魔将軍「むう…何度も言うが、魔族に良いも悪いも無い」

戦魔将軍「ただ儂は、武死道精神に乗っ取り行動しただけだ」

戦魔将軍「他意はないでござる」

魔王「ふふ」

戦魔将軍「こ、こほん、だ、だからと言って、魔王子殿の申し出を受ける事は出来ぬだ!」

魔王「ど、どうしてもですか?」

戦魔将軍「くどいっ!」

勇者「もー説得失敗って事で良い? こいつらマジですげー殺したいんですけど」ギリギリ

戦魔兵「ういー!凸(゜Д゜)」

魔王「わー! だ、駄目ですよ! とりあえず落ち着いて、あなたちも煽らないで!」

魔王(話がまとまらない…一体どうしたら)

魔王(そうだ魔族っ子は、故郷を諦めていたような)

魔王(元々魔族っ子の故郷のために、戦っていたような物だし、もしかしたら魔族っ子が納得すれば、戦魔将軍さんも納得さてくれるかも!)

魔王(これはあれですね、昔お城で見た、将を射んと欲すればなんとやらと言う奴ですね)

魔王(まずは戦魔将軍が、この地を守る事にこだわっている原因から何とかしてみましょう)

魔王「ね、ねえ君!」

魔族っ子「え? な、何?」

魔王「君、さっきみんなが死ぬくらいなら、故郷はもう良いような事言ってたよね?」

魔族っ子「言ったけど…」

魔王「そ、そうだよね…だったら君は僕の言うことに賛成だよね?」

魔族っ子「わ、私は…」

魔族っ子「今は…分かんない」

魔王「え!? な、何で…」

魔族っ子「確かに…みんなが生き残れば良いと思ったけど」

魔族っ子「体を張ってくれたお父さんの気持ちもくみたいし…その…やっぱり無理よ!」

魔王「ど、どうして!」

魔族っ子幼「あのね…にーに」

魔王「ん? どうしたの? 魔族っ子幼」

魔族っ子幼「あそこにね、わたしたちのおかーさんのおはかがあるの」

魔王「え!? 母上さんのお墓が!?」

魔族っ子幼「ははうえさん?」

魔王「あ、おかーさん! おかーさんね」

魔族っ子幼「う、うんおかーさんのおハカもまもりたいから、ねーねはここからでたくないの」

魔王「そ、そう言う事だったのか…」

魔族っ子「そうよ! お母さんは攻めてきた人間たちに殺されたわ」

魔族っ子「何の力も無い弱い魔族だったのに」

魔族っ子「でも私達もきっと人間の地で同じ事をした!」

魔族っ子「だから人間を恨まないでってお母さんが言ったから、私は…我慢した」

魔族っ子「そしてお母さんが好きだった時計台が見えるところにお墓を作って、細々と生きていたの」

魔族っ子「復讐なんてする気も無かった」

魔族っ子「普通に静かに妹と暮らしたかっただけ」

魔族っ子「それでも人間はまたやって来て、この街を荒らそうとする」

魔族っ子「それどころか私達すら追い出そうとする」

魔族っ子「悪い事をしたからって、なんでここまでされなきゃいけないの!?」

魔族っ子「戦争なんて…前魔王様が勝手に始めた事なのに!」

魔族っ子「私たちは何もしてないのにっ!」

魔王「!?」

魔王(…僕のせいだ)

魔王(僕が10年前に父上を止められなかったから…)

魔王(それで生まれた悲しみ、この子の涙は、今涙を流しているのは僕の…責任だ)

魔族っ子「だから私は覚悟を決めたの!」

勇者「魔王が勝手にやっても、国がしでかした事は、国民にも責任があんだろ」

勇者「被害者面してるんじゃねーっつーの」

魔族っ子「うるさい馬鹿勇者、そんな事分かってんだよ!」

勇者「てめーまで馬鹿とか! マジ調子のんなし!」

魔族っ子「アタシはねそんなのはもう関係無いって言ってるのよ!」

魔族っ子「下手に出ても許してくれないなら、もう戦うしか無いじゃない!」

勇者「開き直りうっざ~」

魔族っ子「そう言う事よ分かった魔王子様!?」

勇者「無視かよ…」

魔族っ子「私は最後まで、お母さんのお墓を守るために戦うわ!」キッ

魔王「う」

魔王(そんな深い理由があったのか…)

魔王(確かに自分の母上のお墓を滅茶苦茶にされたら嫌だよね…)

魔王(死んだ後くらい好きな場所で眠らせてあげたいよね)

魔王 (でも…それでも)

魔王(この人たちを僕は救いたい)

魔王(でも…それは死を覚悟した人に生半可な気持ちで言っちゃ駄目なんだ)

魔王(もっと僕も、彼らの気持ちに答えるくらいの本気を見せなきゃ駄目なんだ…!)

魔王(それを知ってもらうために、伝えるために僕に出来ることは…!)

魔王「…」

戦魔将軍「…と言う訳だ、魔王子殿、我らは」

魔王「お気持ちは分かりました…」

魔族っ子「…っっ!」

魔族っ子「簡単に言わないで! 貴方に何が分かるって言うの!?」

魔族っ子「関係ない貴方は引っ込んでいて!」

魔王「…分かりますよ…」

魔族っ子「嘘!」

魔王「分かりますよ…私も母上は10年以上昔に、そして父上は目覚めたら亡くなっていましたから」

魔王「ま、まあ貴女たちに迷惑をかけた本人なので、貴女たちに取ってはそれが良かった事かも知れませんが…」ポリポリ

魔族っ子「いや…別にそんなつもりじゃ…」

魔王「いえ、事実です」

魔王「父上は貴女たちに多大な迷惑をかけました」

魔王「その責任は息子の僕にもあると思います」

魔族っ子「え?」

魔王「だからその責任…僕に取らせて頂けませんか?」


続く

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