第11話 魔王「戦魔剛滅断…! ゴクリ」
戦魔将軍「儂の全力の攻撃を受ける…だと…?」
魔王「はい! もし受けきったら僕の言うことを聞いて、戦う事を止めてくださっ…」
戦魔将軍「ぬん!」ドガ
魔王「!」
魔王が言葉を言い終える前に、また戦魔将軍の斧の柄によって魔王はふき飛ばされる。
魔王「く…」
戦魔将軍「軽く小突いただけで吹き飛ばされるような弱輩が、大口を叩くでないわっ!」
魔王「軽く…」
戦魔将軍「そうだ軽くだ…これすらまともに受けきれんお前が…」
戦魔将軍「儂の全力をだと? 自惚れるではないわ!」
魔王「…」
戦魔将軍「分かったらそうそうに───」
魔王「やっぱり手加減してたんですね…」
戦魔将軍「ぬ?」
魔王「子供を叱りつける程度に、どこまでも優しく」
魔王「やはり貴方は優しい良い魔族何ですね」
魔王「それとも父上に対する忠義からでしょうか?」
魔王「とにかく───本当に僕なんかを気遣ってくれてありがとうございます」
戦魔将軍「お前…何を言っている…魔族に良いも悪いもあるか…」
戦魔将軍「それに儂はそこまで手加減は…」
魔王「だけど!」
戦魔将軍「む?」
魔王「ちょっと失礼なんじゃ無いですか…?」
戦魔将軍「儂が…礼を失した…だと?」
魔王「そうです」
魔王「貴方は先程私に言いました」
魔王「戦士の命を懸けた戦いに世迷言で割り込む不作法者と」
魔王「これで僕を非難すると言うなら」
魔王「戦いじゃなくても、本気で…命懸けで貴方を説得しようと僕に対して」
魔王「軽く小突くだけで済まそうなんて…」
魔王「失礼なんじゃぁ無いですかっ!?」
戦魔将軍「ぬう!?」
魔王「確かに僕は貴方に軽く小突かれただけで、怖くなりました」
魔王「吐いてしまうほど恐怖を感じました」
魔王「二度と立ち上がれないと思いました!」
魔王「でも…やっぱり皆さんには死んでは欲しくないから」
魔王「この素晴らしい戦魔軍の皆さんには死んで欲しくないから、立ち上がりました」
魔王「勇気を出しました!」
魔王「貴方にとっては…こんな勇気出来て当たり前で…取るに足らない事かも知れないけど」
魔王「それでも、弱い僕が振り絞って出した勇気を馬鹿にしますか?」
魔王「軽く小突いて済ますのが、貴方の戦士としての礼儀何ですかっっ!!」
戦魔将軍「!」
魔王「貴方の言う通り、父上に比べて僕は力も弱く臆病で、魔王を名乗るなんておこがましいと思います」
魔王「本当にそう思います」
魔王「でも…それでも、僕は…」
魔王「…余は前魔王の血を引いた魔王何です」
戦魔将軍「…!」
魔王「だから従えとは言うつもりはありませんが」
魔王「貴方も武死道精神を持つ魔界の戦士なら、魔王に対する礼を持って答えて下さい…」キッ
戦魔将軍「…ふ」
戦魔将軍「良かろう…しからば我が最大の一撃、戦魔剛滅断をお見せしよう」
戦魔将軍「この技は金剛石すらも、砂漠の砂如し、粉々にする技…」
戦魔将軍「その超破壊力を出す秘訣は、我が超闘気を超振動させ、それを物質に超伝導する事によって生み出される」
戦魔将軍「その超破壊力は、並の固さでは防ぎきれる物では無い」
戦魔将軍「食らえば絶死は必至、これを受け止められたら話は聞こう、それでも良いか?」
魔王「の、臨むところです!」
勇者「説明なっが!」
勇者「つかお、おいちょっと待て!」
勇者「何勝手に話を進めてるんだ!」
魔王「来ないで下さい!」
勇者「来ないでって…死ぬぞ!」
勇者「説得はお前が殺されそうになったら終いだろ!?」
魔王「全然殺されそうになってません!」
勇者「は? まだそんな屁理屈通る状況だと思っているのか?」
勇者「ゴミ魔族でもお前が死んだらアタシが困るっつーの!」
勇者「もう勝手にやらせてもらうぜ!」スラ(聖剣を抜く)
魔王「だ、駄目です! 来たら僕死にます!」
そう言うと魔王は懐から短剣を出して、自分の喉元に押し付ける。
勇者「な…! て、てめえ!」
勇者「ふ、ふん…どうせハッタリだろ?」
魔王「そ、そう思いますか」グググ
勇者「わ、分かった、まて! 早まるな!」
魔王「だったら来ないで下さい!」
勇者「い、いやそれも困るっつーか…」
勇者(はあ? なんなのこの状況)
勇者(止めても止めなくてもアイツ死ぬじゃん!)
勇者 (どうすりゃいいんだよこれ…)
戦魔将軍「ふん良い覚悟だな、魔王子殿」
魔王「だ、だったらこのまま僕の言うことを聞いて貰えますか?」
戦魔将軍「ふふ、それは出来ぬが少しだけお前に対し考えを改めよう」
魔王「考え…?」
戦魔将軍「形は違えどお前の覚悟は紛れもなく戦士のそれだ」
戦魔将軍「今だもって魔王と認める事は出来ぬが、侮った事だけは謝ろう」
魔王「…戦魔将軍さん」
戦魔将軍(だがそれだけに生かしてはおけなくなった)
戦魔将軍(敬愛してきた前魔王様のご子息が、人間に使われても何も感じない誇りを失った魔族なら、逆に殺す価値もないと感じていた)
戦魔将軍(しかし中々どうして、立派な魔族ではござらんか)
戦魔将軍(やはり前魔王様のご子息と言ったところか)
戦魔将軍(ゆえに! そんなお方が人間などに良いように使われているなど許せん!)
戦魔将軍(時間が許されれば、儂が立派な魔王として育てようと思ったが)
戦魔将軍(残念ながら、そんな時間はない…)
戦魔将軍(ならば、このまま人間に良いように使われるくらいなら、いっそここで殺した方が良いと言う物)
戦魔将軍(だからこの戦魔将軍…本気でお前を殺すために戦魔剛滅断を撃つ!)
戦魔将軍(最大の敬意払ってな!)
戦魔将軍(だから死んでもそれで許せ!)
戦魔将軍「参りますぞ! 魔王子殿!」
魔王「は、はい!」
戦魔将軍「ぬうぅぅぅぅぅんんんん!!!」
戦魔将軍が斧を持つ手に力を込めると、まるでその空間が揺らいでいるかのように歪む。
戦魔将軍「むうぉおぉぉおっっ!!!」
さらに力を込めると、今度は周囲の小石が戦魔将軍に引き寄せられ、ある一定の範囲に入ると、その端から粉々に砕け塵と化す。
戦魔将軍「ぐぅおおおおぉぉぉおお!!」
勇者「いつまで溜めてんだよ。時間効率悪!」
勇者(とは言えその分威力はありそうだな)
勇者(つかあんなの真っ正面から受けたら、いくらアタシでもただでは済まないっつーか…)
勇者(相変わらず子供並みの魔力しか感じないあいつの魔法防御じゃ確実に消し飛ぶぞ…)
勇者(あいつ本当に死ぬかも知れない事分かっているのか!?)
戦魔将軍「…!」
戦魔将軍「お待たせしました魔王子殿…これが私の全開です」ズオオオオ
勇者(…! 流石戦魔を名乗るだけあってそこそこ凄まじい闘気があるじゃねえか)
魔王「…」ゴクリ
戦魔将軍「では…行きます」
戦魔将軍「恐らく生涯一全身全霊の力を込めた戦魔剛滅断」
戦魔将軍「…受けてみよォォォォオオオオーーーっっっ!!!」
戦魔将軍「どおりゃあぁぁぁあっ!!!」
魔王「!」
勇者「…! ダメだ…もう間に合わない…」
戦魔将軍が超振動闘気を纏わせた斧を穿つように前へ突き出すと、斧の先端から破壊のエネルギー放出する。
そのエネルギーはまるで竜巻のように、回転しながら、放たれた方向にある物を全てを巻き込み無へと帰して行く。
その純粋な破壊現象はしばらく続き、時間と共に竜巻が小さくなると、次第に収まり消える。
後に残ったのは、戦魔剛滅断が放たれた場所から街の外まで続くかのような地面と建物を抉った跡だった。
そう戦魔剛滅断が放たれた場所は何も無くなっていたのだ。
勇者「…ちっ!」
勇者(だから言ったんだよバカヤローが!)
戦魔将軍「すぐに後は追いますゆえ、魔王の血脈に手をかけた非礼、あの世で謝らせてくれ、魔王子殿」ペコリ
戦魔将軍「む…」ビリ…(手にほんの少しの痺れ)
戦魔将軍(…何だ手が痺れる?)
戦魔将軍(この技を撃った後に、こんな感じになるのは初めてでござるな…)
戦魔将軍(…手応えもあったし、よもや仕損じてはいないと思うが…)
戦魔将軍(…たまにこの技の当てどころが悪いと、殺しきれない事があるが…)
戦魔将軍(この技の性質は台風と同じでもある)
戦魔将軍(だから回転の中心、台風の目のような物に入ると、そこは威力がかなり落ちるから、助かる場合があるが…)
戦魔将軍(まさかな…技をまともに受けて、その目に入る確率は針の穴ほどでござる)
戦魔将軍(そんな確率を掴むなど、よっぽど強運じゃ無ければ叶わぬ事)
戦魔将軍(だから生きてるなどあり得ん)
戦魔将軍「さて…ではやろうか勇者」
勇者「…やるとかやらねーとか、もう関係ないんだよ…」
戦魔将軍「ぬ?」
勇者「あいつ殺すとか何してるのしてくれちゃってるの?」
勇者「どーすんだよアタシの責任になっちゃうじゃん!」
戦魔将軍「知るか! お前らに良いように使われるくらいなら、ここで死んだ方が良かったのだ! 馬鹿者め!」
勇者「馬鹿? 馬鹿はてめーだろ?」
戦魔将軍「ぬ?」
勇者「あいつが死んで、こちらの言うことを聞く統制が作れないなら…」
勇者「もう魔族は全滅させるしか無いだろ?」
勇者「民族浄化って奴だ」
戦魔将軍「な、何だと!」
勇者「お前があいつを殺してそれを決定付けた」
戦魔将軍「卑怯な! 我らだけ殺せば良い話であろう」
勇者「ところがどっこい、人間の大半は魔族を全滅を願っている」
戦魔将軍「!」
勇者「それをアタシたちが、あいつを使い一応魔族と人間は交流するという建前を使って抑えてたんだ」
勇者「勿論てめーらのためじゃねぇ。それから生み出される利益が目的だ」
勇者「だがお前ら魔族は、その利益を捻出してでもそれにすがるしか無かった」
勇者「滅ぼされたく無かったらな」
勇者「でもそれをお前が壊した。マジゴクローサン、今日を持って魔族皆殺し作戦の決行が決まりました」
勇者「と言う事で最初に死ぬ魔族はお前たちです。おめでとう」
戦魔将軍「貴様! 無抵抗な魔族まで殺す気か!? それでも勇者か!」
勇者「魔族を殺すのが勇者の仕事だし、第一お前らの勇者じゃ無いんだよ」
勇者「ま…あの世で、仲間が全部殺される様を後悔しながら眺めてやがれ」
戦魔将軍「おのれーーーっっ!!」
魔族っ子「お、お父さん」
???「待ってください!」
勇者「は?」
勇者「…!」
勇者「おいおいウソ…だろ?」
戦魔将軍「…! まさか!?」
立ち込める土煙の向こうから、小柄な影がこちらに近づいてくる。
その影が勇者たちのところまで来ると、それが誰なのかハッキリと分かった。
それは───魔王だった。
魔王「僕は…まだ生きてますよ」
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます