第9話 魔王「争い恐ろしいです」

参謀「まだ正式に戴冠式は行ってないですが、このお方魔王子(ダークプリンス)様は新魔王になりました」

戦魔将軍「この小僧が新魔王…だと?」

魔族っ子「こいつが魔王…?」

魔族っ子幼「にーに、まおーさまなの?」

魔王「あ、う、うん、一応そうなんだ…」

魔族っ子「嘘でしょこんな弱そうな奴が魔王なんて」

魔族っ子幼「よわそー! よわそー! あははー!!」

魔王「十分理解しているから、的確に言わないで!」

魔族っ子「このヒョロヒョロ眼鏡が、あの気高く強かった前魔王様の息子なんて何かの間違いでしょお父さん?」

魔族っ子幼「まちがいー!」

魔王「間違ってないから!」

戦魔将軍「いや…間違ってはいないでござる」

魔族っ子「え?」

戦魔将軍「十年ぶりだし、あまり目立たぬから忘れていたが」

戦魔将軍「この小僧…いやお方は魔王子で間違いはない」

魔族っ子「嘘…本当にこれが新しい魔王様なの、これが…」

魔王(僕が弱いからしょうがないけど)

魔王(ここまで、嘘こいつが魔王なの? みたいに思われるのって、結構へこむ…)

魔王(まあともあれ…やっと魔王って分かって貰えたから、ようやく説得出来そうな感じになってきたぞ)

魔王(あんまり戦魔将軍さんの事は詳しくないけど)

魔王(父上の後を追って死ぬ覚悟出来ているくらい忠義に厚い魔族なら)

魔王(もしかしたらその息子の僕の言葉なら聞いてくれるかも知れない)

魔王(よし…戦いを止めるよう説得するぞ)

魔王(とは言え…何から切り出すか…)

魔王(そう言えばここで抵抗運動をしているのは戦魔将軍の【軍隊】って聞いていたぞ)

魔王(他の魔族たちは一体どこに?)

魔王(よ、よしまずその話をしてみよう…)

魔王「あ、あの」

戦魔将軍「ぬ?」

魔王「ここには戦魔将軍さんの部隊も駐留していると聞いてたのですが」

魔王「他の魔族はどこに?」

戦魔将軍「何、儂がここに留まってたのはこいつらの故郷を守るためにやっていた事」

戦魔将軍「しかしそれは儂の我が儘ゆえ」

戦魔将軍「関係の無い他の者を巻き込まぬため、おのおの故郷に帰したでござる」

魔王(…! 関係の無い者を巻き込まないためにそんな事を…)

魔王(他の魔族の事を第一に考える)

魔王(やっぱり戦魔将軍さんは良い魔族なんだ)

魔王(だからきっと本気で話せば分かってくれる筈…)

戦魔将軍「それよりも魔王子殿」

魔王「はい?」

戦魔将軍「先程お主、戦いをやめさせに来たとか何とか言っておられたようだが?」

魔王「あ、は、はい、実は僕」

魔王「戦魔将軍さんには戦いを止めてもらって、新しい魔界国家に来て貰おうと…」

戦魔将軍「ほう…新しい魔界国家とな?」

魔王「僕が必ず平和な国を作りますから!」

魔王「戦魔将軍さんも是非!」

戦魔将軍「平和か…それは良いことだな…」

戦魔将軍「それに儂は魔王軍として、魔王様の言うことは聞かねばいかんしな」

魔王「で、では…」

戦魔将軍「…」

戦魔将軍「ふ…」

戦魔将軍「ぬぅん!」

魔王「え?」

と魔王が言葉を放った瞬間、眼前に広がる光景が魔界の空に変わる。

とてもゆっくりとした時間の中感じる、不思議な浮遊感。

そして───。

ドスン。

魔王「ぐはっ!」

魔王(な、何、何がどうなって…)

魔王(戦魔将軍がいつの間にかあんなに遠くに)

魔王(斧…構えて…?)

魔王(殴られ…た?)

魔王(殴られて吹き飛ばされた?)

魔王「あ…う」ブル

戦魔将軍「これが!」

魔王「ひ、ぅ」ビク

戦魔将軍「…」

戦魔将軍「…ふー」嘆息

戦魔将軍「これが答えでござる魔王子殿」

魔王「どう…して?」

戦魔将軍「儂は魔王様に使えていたが、魔王子様には仕えてませんゆえ」

魔王「でも…僕魔王で…」

戦魔将軍「認めヌゥぅぅ!!!」ビリビリ

魔王「ひ」ガクブル

戦魔将軍「前魔王様も、儂の合力を得るのに、儂と戦い、そして勝ち取った!」

戦魔将軍「貴様も魔王を名乗るなら、儂と戦って勝ち取れぃ!!」

戦魔将軍「儂に言う事を聞かせたいならな!」

魔王「うう…」ガタガタ

勇者「…」

勇者「ここまでだな…」ツカツカ

魔王「う…」

勇者「現実が分かったか?」

魔王「…」

勇者「…」

勇者「だっさ」

勇者「よーしくだらねー前座に付き合わして悪かったなクソ魔族」

勇者「こっからはアタシが相手だ」

勇者「瞬殺してやるからそれで許せや」

戦魔将軍「応! やれるものならやってみろ」

勇者「は? 楽勝だっつーの」

魔王「…」

魔王(た、戦いが始まってしまう)

魔王(また無駄な血が流されてしまう…)

魔王(と、止めないと…)

魔王 (…でも)

魔王の脳内に戦魔将軍に殴られた事がリフレインする。

魔王(…こ、怖い…)

魔王(…こ、怖いよ…)

魔王(こ、これが争うと言う事なのか…)

魔王(う…お腹が)

魔王(お腹に…)

魔王(何かとてつもない重い物を胃に入られたような)

魔王(それがグルグル回ってる入るような…感覚が)

魔王「う…」

魔王「おぇ」ビチャ

勇者(汚な…! 吐いてやがんの…)

勇者(まあ腹に良いの決められてたからなー…無理もないか)

魔王「はあはあ…」

魔王「く…」

魔王(僕は…一体どうすれば…)

魔族っ子「お父さん!」

魔王「!」

戦魔将軍「ぬぅ!」

勇者「はい、殺ったー」

勇者の聖剣が戦魔将軍の肩から胸にかけて、戦魔将軍の肉を裂く。

その傷口からは、聖剣の特殊能力か、ジュワジュワとまるで焼けただれるように傷口を広げていく。

戦魔将軍「ぐううう…」

魔王(酷い…傷だ)

魔王(あのままでは戦魔将軍は…)

魔王(…でも僕は)

魔族っ子「いやあー!お父さん!!」

魔族っ子幼「おとーさん!」

魔王(…! あの子…泣いている)

魔族っ子「く」

魔族っ子「ねえあんた!」

魔王「え…?」

魔族っ子「助けてよ!」

魔王「!」

魔族っ子「魔王何でしょ! 戦いを止めればお父さんは死ななくて済むんでしょ!」

魔王「で、でも戦魔将軍さんは僕の言うことなんか…」

魔族っ子「そんな事は分かってる!」

魔王「!」

魔族っ子「分かってるけど…」

魔族っ子「それでも…お願い…よ」ガク

魔王「魔族っ子…」

魔族っ子幼「にーに」

魔王「魔族っ子幼…」

魔族っ子幼「おとーさん死んじゃうの?」

魔王「…! それは…」

魔族っ子「にーに…」

魔王「うん」

魔族っ子幼「あのね…もうちびって言わないからね?」

魔族っ子幼「…」

魔王「?」

魔族っ子幼「おとーさんを助けてください」

魔族っ子幼「おねがいします」ポロポロ

魔王「! …魔族っ子幼」

魔王(こんな小さな子まで僕を頼って来てるのに、僕は…何も出来ないのか!)

魔王(ぐ…何が平和な国を作るだ…)

魔王(こんな小さな子の涙も止められないのに…僕は)

勇者「はいじゃあ死んでねー」

魔王・魔族っ子「!」

魔族っ子幼「おとーさん!! いやだぁ! いやだよぉ!!」

勇者「!」サッ

勇者が何かに気づき飛び退ると、その瞬間、そこ地面に矢が突き立てられる。

戦魔副長「ち…流石にこんな攻撃じゃ殺れる訳もねーか」

戦魔将軍「お、お前なんで」

戦魔副長「よーす大将、他のみんなもいますぜ?」

戦魔兵たち「へへへへへ」

戦魔将軍「な、何故、故郷に帰れと…ぐ」

戦魔副長「ほーら無理すんなよ大将」

戦魔将軍「何故だと聞いている」

戦魔副長「こだわりますかねー」

戦魔将軍「当たり前だ!」

戦魔副長「んーまー何て言うの」

戦魔将軍「何だ!」

戦魔副長「みんな大将がいるここが故郷だって言ってるから、しょうがないじゃないんですかね」

戦魔兵「へへへへへ」

戦魔将軍「…!」

戦魔将軍「全く馬鹿者どもが…」嘆息

勇者「ち…カスどもが群れやがって…」

勇者(それに魔族が良い話みたいな事してるんじゃねえ…!)

勇者(ゴミ虫以下の分際で…)

勇者(こんな奴ら駐留している本隊に連絡をして、包囲殲滅すれば良いだけの話の事)

勇者(まあここに来るまで少しは耐えないといけないか)

勇者 (はあめんどくさ…)

勇者(ち…だから最初から近くに部隊をおいとけって言ったのに、神官妹のやつ…)ギリ

勇者(説得するのに刺激してはいけないとかどうとか、くだらねー事気にするからアタシがこんな目に合うんだよ)

魔王(こ、これが戦魔将軍さんの部隊…戦魔…確か剛滅軍)

魔王(でも…それでもいくつの将軍の部隊を打ち破った勇者には…)

魔王(それに街の外には人間の本隊が)

魔王(きっとこの人たちには勝ち目がない)

魔王(でも…笑っている)

魔王(皆さん良い笑顔だ)

魔王(分かっていないのか?)

魔王(いや…あの魔族たちは分かってる)

魔王(分かってるけど、死ぬかも知れないけど助けに来たんだ)

魔王(大好きな戦魔将軍さんを助けるために…)

魔王(…何て暖かい魔族たちなのだろう)

魔王(それに比べて僕は…)

魔王(駄目だ…!)

魔王(彼らを守らなきゃ…)

魔王(平和な国を作るためには、彼らのような暖かさを持った魔族がきっと必要なんだ)

魔王(だから僕はこんなところで諦める訳には行かないんだ!)

魔王(僕は…僕に出きる事を全力でやるんだ!)


続く

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