第6話 魔王「納得いきません!」
魔王「…」
勇者「さあどうするんだ…」
魔王「分かりました…」
魔王「お願いします」
勇者「お…」
勇者(ん…意外とすんなり受け入れたな)
勇者(まあ…所詮は薄汚い魔族)
勇者(口じゃ綺麗事を言っても、自分の都合が悪くなれば)
勇者(平気で仲間を裏切る、切り捨てる)
勇者(当然の結果か…)
勇者「よし話は決まった、神官妹、500くらいの規模の討伐部隊を編成してくれ」
神官妹「貴女1人で十分では?」
勇者「確かにそうだけど、雑魚合わせると結構骨なんだ…」
魔王「…待ってください」
勇者「…は?」
魔王「僕は戦魔将軍を倒してくださいとお願いした訳じゃありません」
勇者「…」
勇者「はあああ~~~!?!?」
勇者「じゃあなんだっつーんだよ!」
勇者「ガキ」
魔王「…」キッ
勇者「う…」
勇者(な、なんだこいつ…急に目が…)
魔王「私がお願いしたのは、戦魔将軍を説得させてもらう事のお願いです」
魔王「誤解を招くような言い方をして申し訳ありません」
勇者「…な! こ、この…てめ…」
神官妹「し、しかし説得しに行った魔族は例外なく殺されました」
神官妹「これ以上の魔族に犠牲を出すのは、貴方に取っても不本意では?」
魔王「それは安心してください」
神官妹「え?」
魔王「これ以上犠牲は出しません…」
魔王「何故なら僕が説得に行くからです!」
神官妹・勇者「な…」
神官妹「ほ、本気で言ってるのですか?」
魔王「本気です! ガチです!」グッ(握りこぶし)
参謀「ふ…」
神官妹「いやガチですって…」
魔王「大丈夫です!」
神官妹「いや、そうじゃなくて…貴方が説得に行って、殺されたら…その困るんですけど」
神官妹(貴方が戦魔将軍に殺されたら)
神官妹(傀儡にして効率よく魔界から利益を絞れなくなって)
神官妹(引いては愛する大臣様の壮大で素晴らしい計画に支障が出るじゃないの!)
魔王「心配してくれてありがとうございます」
魔王「でも大丈夫です」
魔王「僕は死にましぇぇぇん!」
神官妹(貴方を心配している訳じゃありませんから…!)
神官妹(と言うか、何そのネタ知らないから)
神官妹「だからそうじゃなくて…」
魔王「?」
勇者「…魔族が」
神官妹「勇者…?」
勇者「魔族が正義の味方みたいな、演出してんじゃねぇぇえよ!!」
勇者は聖剣を引き抜くと、切っ先を魔王の眉間に向ける。
魔王「!」
勇者「薄汚ねえ魔族が聖人君子みたいな事してんじゃねえよ…」
大臣「お、おいおい…;」
神官妹「ちょ、ちょっと勇者落ち着きなさい」
神官妹「魔族とは言え、仮にも一国の王何ですよ?」
勇者「うるせぇっ!」
神官妹「…!」
勇者「なあ魔王さぁ」
魔王「…な、何でしょうか?」
勇者「さっき勘違いするなって言ったよな?」
魔王「え、ええ」
勇者「だったらアタシたちの言われた通り、お前はただ首を縦に振ってればいいんだ」
勇者「分かるよな?」
魔王「…」
魔王「僕個人が苦しむだけなら、それでも構わない」
魔王「ですが!」
勇者「…」イラ
勇者「だーかーら!? 魔族が良いやつの振りするなっつってんだよ!」
勇者「汚くて浅ましくておぞましいのが、てめーら魔族の本分だろうが!」
勇者「素直に魔族らしい選択をすれば、良いだけの話じゃねーか!」
勇者「そうだろ!?」
魔王「…」
魔王「勇者さん」
勇者「あ?」
魔王「貴女は魔族を誤解している」
勇者「あああ!?」
魔王「魔が付く種族だからって」
魔王「別に皆が皆、悪い事をする種族じゃないんですよ?」キッ
勇者「う」
勇者(な、なんだこいつ)
勇者(さっきまでビビってた癖に…)
魔王「貴女が魔族に対して、何故そこまで嫌悪感を抱くのかは、僕にはよく分かりません」
魔王「ですが、だからと言って命を…魔族が簡単に死んで良いなんて、簡単に思わないでください!」
勇者「…!」
勇者(お前が…魔族が…)
勇者(それを…言うか?)ギリ
勇者「うるせえ…」
勇者は魔王の眉間に当てた聖剣の切っ先に力を込める。
魔王「!」
勇者「魔族が…命の尊さを語るな…」グググ
魔王「く…」
勇者「良いからお前は戦魔将軍を殺せと命令しろ」
勇者「それ以外何も要らない」
勇者(さあ言え)
勇者(魔族は魔族らしく外道に徹しろ)
魔王「僕は…」
勇者(もしも断ったら、角を切る…)
勇者(さらに断ったらもう片方も…切る!)
勇者(絶対に切る…!)
魔王「僕は…戦魔将軍を…説得します」
勇者「っっっ!!!」
勇者は聖剣を大きく振りかぶる。
神官妹「勇者!」
魔王「く!」ぎゅ(目をつぶる)
魔王「…」
魔王(…? 斬撃が来ない?)
魔王「…」チラ
勇者「く…」
魔王「勇者さんの動きが止まって…?」
魔王「いや…何かが勇者さんの体に巻き付いて」
勇者「てめえ…この程度の束縛魔法で、本気でアタシを止められると思ってるのか…?」グググ
参謀「いいえ…思ってませんよ…く!」
魔王(そ、そっか参謀さんが助けてくれたのか…)
参謀「貴女を完全に縛れるとは、思いませんが」
参謀「少しだけ時間を稼げれば十分」
勇者「ああ!?」
参謀「神官妹さん、ここは少なくとも武を排除した会談の場」
参謀「我等魔族は敗戦したとは言え」
参謀「これは…く! 少々行きすぎなのでは?」
神官妹「は、はい、失礼しました」
神官妹「勇者、貴女の気持ちは分かるけど」
神官妹「この会談の場に出席するのに、割りきると言ったでしょう!?」
勇者「…」
神官妹「貴女がこれ以上個人的な感情を持ち出すなら、退席してもらいますよ!?」
勇者「!」
勇者「べ、別に気にしてねーし」
勇者「ちっ! 分かったよ」
勇者「もう何もしねーよ」
勇者「何もしねーから、さっさとこれを外しやがれ、キザホモ魔族」
参謀「ふ…ご理解頂き感謝します」スッ(魔法を解く)
勇者「ふん…」ドカ(乱暴に椅子に座る)
魔王「…」
魔王(勇者さんは…なんであそこまで魔族を憎むのだろう…)
魔王(魔族なんて人間に嫌われてもしょうがないかも知れないけど)
魔王(勇者さんのあの憎み方は…異常だよ)
魔王(過去に魔族と何かあったのだろうか?)
神官妹「…では魔王様はどうするのですか?」
魔王「はい?」
神官妹「いや…はいではなくて、討伐許可は頂けないのですか?」
魔王「あ、はい討伐して…」
魔王「いやいやいや…だから説得しますってば!」
神官妹「…ち」
魔王(ドサクサに紛れて、何この人言質を取ろうと誘導するのー!?)
神官妹「ですが実際問題貴方に死なれると、こちらは困るんですよ」
魔王「だから死にましぇぇぇん! です」
魔王「キラーン!」
神官妹「エンシェントクラスのネタはもういいです」
魔王「古代レベルのネタにされた!?」
神官妹「真面目な話、こちらは貴方が死なないから説得させてくれ言われても」
神官妹「そんな保証はありませんし」
神官妹「はいそうですか、と言えないのです」
神官妹「これは貴方の命を考えての提案なのですよ?」
神官妹「なのでお願いしますから、討伐をこちらに頼んでください」
魔王「嫌です」
神官妹「く…このガキ」
参謀「神官妹さん」
神官妹「はい? 何ですか?」
参謀「魔王様は前魔王様に対しても」
参謀「お怒りを受けても、その事に対する罰を受けても」
参謀「最後まで反戦を訴えていた」
参謀「筋金入りの反戦主義なので、そのような事を言われても絶対に首は縦に振りませんよ?」
神官妹「はあ? だったらこれ以上どうすれば良いと言うのです!」
神官妹「貴方も魔王様は死なせたくないでしょう?」
神官妹「貴方も説得してくださいよ」
参謀「私は魔王様の望む未来に尽力するだけですから…」
神官妹「だからそう言う事じゃ無くて…!」
勇者(ふん…神官妹だって、イライラして来てるじゃねーか)
勇者(だから最初から体に教え込んでやれば良かったんだよ)
勇者(あの世間知らずにな…)
大臣「まあまあ…良いじゃないか神官妹」
神官妹「え?」
魔王「!」
大臣「説得…やりたいと言うならやらせて見れば良いじゃないか」
神官妹「ですが…」
大臣「まあ少しやらせて、殺されそうになったら、勇者が助けに入る」
大臣「それで良いかな? 魔王様」
魔王「は、はい! ありがとうございます大臣様!」
大臣「神官妹も勇者もそれなら構わんだろ?」
神官妹「大臣様がそう言うのであれば…」
勇者「好きにすれば…」プイッ
大臣「ただし…」
大臣「勇者が介入する事態になったら、最初の予定通り」
大臣「戦魔将軍及びそれに付き従う者は全員死んでもらう」
魔王「!」
勇者「…!」
大臣「よろしいかな?」
魔王「で、でもそれは…」
大臣「こちらもこれでかなり譲歩したのだよ?」
魔王「そ、それはその…」
魔王「わ、分かりました…」シュン
勇者(結局元の木阿弥になってやんの)
勇者 (…ザマーミロ)ニヤリ
魔王(殺されそうになったら終わり…)
魔王(それだけの猶予で)
魔王(弱い僕に…説得なんて出きるのだろうか…)
続く
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