第5話 現実
(第5話:現実)
シェインの用意してくれた飲み物で一息つく一行。
そんな落ち着いた空気の中、エクスが少女に優しく話しかける。
「一応確認なんだけど、あの部屋は君の部屋なんだよね?
あと、あの機械は本当に見たことなかったの?」
少女が困惑した表情で答える。
「あそこは私の部屋だもん。
最初からあそこが私の部屋で、ずっと外に出られなかったの。
だから、間違いないの。
それに、あんな怖いお化けになる機械なんて知らない。」
そう語る少女の目には、うっすら涙が流れていた。
「この子も知らないと言っているので、きっと本当なんでしょう。」
少女の涙に少し同情したのか、シェインが慰めるように少女の頭をなでながら話しかけた。
「でも、あの機械がカオステラーって事になるなら、この想区は元に戻ったって事で良いんじゃないか?
あとは、お嬢がいつものあれをやってくれれば問題解決って事になるんだろ?」
タオが不思議そうにレイナを見ている。
レイナも、タオの問いに納得したようだったが、
「それもそうね。
でも、いったい何が原因でカオステラーが現れたのかしら?
そもそも、ここって何の想区なのかしら?」
確かに疑問は残る。
だからなのか、タオの話である意味納得した一行ではあったが、皆頭の上の?マークが消えなかった。
「そういえば、あの井戸と塔は関係ないのかな?」
エクスが思い出そうと、今日あった出来事を振り返ろうとすると、
「あーーーーーーー。
聞こえなーーーーーーい。」
またもレイナが子供のように耳を塞いでいる。
そんなレイナを面白がってはいたが、さすがに面倒に感じたシェインが、
「姉御・・・それ、もういいです。」
「・・・・・・はい。
ごめんなんさい。」
あまりのシェインの冷たい態度に、レイナは半分泣きそうになりながら小さくショボンとイスの上で肩を落とし丸くなった。
一行が、なにか腑に落ちないといった感じで考え込んでいると、少女が飲み終わったコップを調理場の方へ持っていく姿が見えた。
そんな少女にシェインが、
「私がやりますので、その辺に置いといてください。」
少女に向けて話しかけたが、聞こえていなかったのか、少女はそのまま調理場の奥へ消えていった。
少女が調理場の奥へ行って5分しないくらいたった頃、
「あれ?
あの子、どこにいったの?」
レイナは、少女がどこかに消えてしまった事に気づいた。
辺りを見回しているレイナにシェインが
「ファムなら、コップを持って調理場の奥に・・・しては遅いというか、何をしているんでしょうね・・・?」
すぐ目の前にある調理場から戻ってこないというのはおかしい。
レイナが様子を見に調理場の奥に入っていった。
すると、そこには見慣れない女性が後片付けのような事をしていた。
今まで誰もいないはずだった城内。
今回、何度か来ることになった食堂。
その食堂にある調理場の奥。
ここには、シェインが何度も出入りし、時折エクスも手伝いとして出入りしていた。
人がいれば、もちろん気づくはず・・・・
もしかしたら、城の外から裏口を通り今戻ってきたばかりなのかも・・・
もしくは、少女を誘拐し、どこかへ隠してしまった犯人?・・・
何はともあれ、この想区に来て大人の人間は初めてだったので、なにか改めてこの想区について事情が聞けるかも知れない。
色々考えたレイナは、思い切ってその女性に話しかけた。
「あの~・・・・
さっき、小さな女の子がこっちに来ませんでしたか?」
レイナの問いかけに、その女性は反応がない。
だが、女性は忙しいのか、ブツブツ何かを言いながら戸棚付近から動かない。
何をしているのだろうと思ったレイナは、もう一度、その女性に話しかけた。
「あの~・・・・・
どうかしたんですか?」
レイナの問いかけにやっと気づいたのか、その女性が、
「・・・・足りないの・・・・」
と、小さな声で返答した。
女性からの返答の声はあまりにも小さく、聞き取りにくい為、レイナがもう一度話しかけた。
「どうしたんですか?」
すると、その女性は、
「お皿が一枚足りないんです・・・・・
お皿知りませんか?・・・」
ゆっくり顔を上げた女性の顔は、見るに堪えない程崩れ、よく見れば全身血だらけだった。
そんな、血だらけの女性を見たレイナは、
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
もうーーーーやだーーーーーーーーーー!!!!!!
帰りたいよーーーーーーーーーー!!!!!」
泣き叫びながら、さっきまでの疲れを忘れ、みんながいる食堂に走って戻った。
何事かとレイナの変貌ぶりに驚いき、調理場の奥を覗いたシェインだったが、目の前に現れた女性の血だらけの容姿に驚き発狂した。
「きゃーーーーー!!!!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」
混乱するレイナとシェインがタオとエクスの元に駆け寄ってくる。
タオとエクスは、二人の背で血だらけの女性がみるみる大きく膨れ上がりヴィランになっていくさまが見えていた。
「あれ、ヴィランだよ!」
エクスの声に反応したレイナが、
「ヴィランのくせに、私を怖がらせるなんていい度胸じゃない!
今すぐやっつけてやるんだから!!!」
またしても、泣き叫びながら突撃していった。
今回は、シェインも声にならない程の怯えようだったが、相手がヴィランとわかると、涙を拭い、イラついた顔でヴィランに襲いかかっていった。
「もーーーー!!!
なんなんですか!!!!!」
女二人の闘志に、男二人も押されるように戦った。
謎の女性が突然ヴィランに変貌したが、そのヴィランが倒されると、突如辺り一面白い煙に覆わ一行を包んでいった。
いつもなら、想区を移動する時に見る光景だったが、なぜか一行の皆がそのまま深い眠りについた。
気がつくと、
「おーーーい!
おーーーーーいってば!」
いつものファムが、草原に立つ大きな木の下で皆を起こそうと呼びかけている。
「ここは気持ちいいかもしれないけど、こんなとこで寝てたらさすがに風邪ひいちゃうよ。」
皆を呼び起こすファムは、やはり見覚えのあるいつものファムだった。
寝ぼけた様子でエクスが、
「あれ?ファムが大きくなってる?」
「私は私。
ずっとこのままだよ?」
ファムが不思議そうに、エクスの顔を覗き込む。
見慣れた光景に気持ちが緩んできたのかエクスが、
「さっきまで、とっても怖い夢を見ていた気がする・・・」
と言うと、レイナもそれに反応したが、
「そう・・・やたらと怖い夢を・・・・」
寝ぼけているせいか、周りをぼけーっと見渡している。
「怖い夢ってこんな感じ?」
レイナは寝起きでふわふわしていたが、ファムの顔をみた瞬間、白目を向いてそのまま倒れた。
ふざけて驚かそうとしたファムが、全面血だらけな女性の顔のマスクを被りレイナの顔を除いたからだ。
それは、日常的なファムの悪ふざけだったが、
「ファム・・・その辺にしてあげてください。」
シェインがファムのマスクをはぎ取った。
実際、シェインも怖い夢のせいか、ファムの被っていたマスクに背筋が凍る思いだったが、冗談でいつものファムだとわかっていた為、ある程度冷静に対処出来ていた。
「俺は気分悪いからもう一度寝るか。」
と言ったタオは、すでに二度寝モードに入り、あっという間に寝息を立てている。
日常の光景に安心しているエクスだったが、
(みんな同じ夢だったのかな・・・・
あの塔と井戸はいったいなんだったんだろう・・・・)
皆に言わず、一人考え込んでいる。
一人悩んだ顔をしているエクスに突然、
「人間は、知らなくてもいいことだってあるんだよ!」
といって、ファムが血だらけの顔をした女性のマスクを被せてきた。
恐怖の記憶 風見☆渚 @kazami_nagisa
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