第2話 遭遇

(第二話:遭遇)

固まって動けなくなっているシェインに向けて、タオが呆れた様子で話しかけた。


「おい・・・いつまでそうしてるんだ?」

「だって、声が・・・助けてって・・・

いやいや、そもそも誰もいない所からあり得ないでしょ!!」


すっかり怯えてしまったシェインは自分にツッコミを入れてしまうほど動揺していた。

そんなシェインとは正反対に、タオは楽しいことを見つけた子供のようにどことなくわくわくした様子でいる。


「そんな、幽霊なんているわけないだろ。

それよりも、声の正体を暴くぞ!」


シェインは強制的に腕を引くタオの手を振りほどくことが出来ず、強引に井戸の近くへ引っ張られた。

二人は、恐る恐る井戸に近づき、辺りをぐるっと見渡した。

するとそこには、井戸の片隅でひっそりと小さな女の子が肩を揺らしながら、しくしく泣いている。


「だ、だからい、言ったじゃねーか。ゆ、幽霊なんているわけな、ないって。」


自分では自信満々に言っているつもりのタオだが、声がうわずき、うっすら膝がわらっている事にシェインは気づいていた。


「あ~・・・そーでーすねー・・・」


冷たくタオの自信をするーっと流し、シェインは泣いて小さくうずくまっている少女に声をかけた。


「どうしたんですか?こんな所で?」


シェインの問いかけに、泣きながら怯えた様子の少女は、


「さっき、たくさんのお化けが襲ってきて、とっても怖かったの・・・」


どうやら、この少女はさっきレイナが鬼の形相でなぎ倒したヴィラン達に襲われそうになっていたようだ。


「お化けなら、俺たちタオファミリーが全部倒してやったからもう安心して大丈夫だぜ。」

「本当に?」


少女は、タオの語りかけにもまだ怯えた様子だった。

しかし、顔をあげ辺りを見渡し、お化けがいないことを確認すると、安心したようで、


「お兄ちゃん達、強いの?」


少女の不安そうな顔が、だんだんと安心に変わっていくように見えた。

しかし、まだ少し怯えた様子の少女にシェインが、


「私たちは、あんなお化けをたくさんやっつけてきたのです。

だから、もしまた現れても、お姉さん達が一瞬でやっつけてやりますよ!」


シェインの自信満々の姿に、少女はすっかり安心しきっているようすだった。

とりあえず、想区に来て最初の人間。

他にも人間がいるかもしれない。


「お嬢ちゃん?お名前は?」


タオの何気ない質問に少女は、


「私?私の名前はファム。」

「?!?・・・・?」


その答えを聞いたタオとシェインは、驚きを隠しきれなかった。

この想区に来て姿が見えなくなっていたファムが小さくなって現れるとは、予想外過ぎる出来事だった。

いや、そもそも、この少女があのファムなのかどうかという確認がとれない。

もし、知っているあのファム本人だったら、冗談でもヴィラン達に追いかけられて、尚且つ泣いて怯える事はないだろうと思われる。

もしかして、さっきのレイナの話のように、みんなを驚かせようとわざとこんな格好をしているのではないか。そう二人は考え、改めてもう一度、今度はシェインが聞いてみる。


「お嬢さん?お名前は本当にファム?」


度々の同じ問いかけではあったが、その少女は、


「私はファムだよ。」


屈託のない笑みを浮かべ、また自分をファムと名乗った。

頭の上の?が消えない二人の前に、疲れ果てたエクスがレイナを連れ戻してきた。

エクスはなぜか傷だらけだったが、タオとシェインはあまり追求しなかった。

きっとレイナを連れ戻す事に必死になってくれていたのだろう・・・


「ハァハァ・・・やっと戻ってこれたよ・・・」

「やーーーーーだーーーーーーー!!!

お化け怖いよーーーーーー!!!」


泣きじゃくって当たり散らしている迷惑そのもののような雰囲気のレイナだったが、タオ・シェインの二人と一緒にいる見覚えのない少女の姿を見て、体裁を整えるように、


「・・ん、ぅん・・」


わざとらしい咳払いをした。

一呼吸おいて落ち着いたのか、レイナが見覚えのない少女に話しかける。


「お嬢ちゃん?お名前は?」


レイナの問いかけに、すでにこれで3回目となる質問だったせいか、少女は少し苛立ちながら、


「だから!私はファムって言ってるでしょ!!」

「は?・・・・へ?」


レイナはさっきのお化け騒動の事もあり、状況が読めず混乱している。


「姉御・・・この子の名前はどうやらファムらしいです。

ここからややこしくすると、面倒なので、そのまま混乱しててください。」


このままだと面倒な気がしたのか、混乱しているレイナをシェインは冷たくあしらった。


「ところで、お嬢さんはどこから来たの?」


エクスが少女に話しかけると、


「あっちの大きなお城がおうちなの。

お化けがたくさん出てきたから逃げてきたの。」

「あーーーーーー。

聞こえなーーーーーい。」


少女の話に、耳をふさぎ小さくなってるレイナをほおっておいて、エクスが話を進めていく。


「じゃぁ、お兄ちゃん達がお化けを全部やっつけてあげるよ。」

「本当に?!」


さっきまで落ち込んでいた様子だった少女の目が輝いている。

少女の話を聞くところによると、どうやらお城に突然ヴィラン達が大量発生し、ここまで逃げてきたという。

きっとその城の中に、カオステラーがいるのだろうと確信をもった一行は、城へ向かうことにした。

城に向かう途中、ファムと名乗る少女にレイナが今までの仕返しと言わんばかりにちょっかいを出そうとしているが、


「姉御・・・大人げないですよ・・・」


冷たくあしらうシェインの言葉に、


「・・・・・・はい。

すみません・・・・」


レイナは小さくしょぼんと肩を落とした。

そんなどうでもいいことをしているうちに、一行は村はずれの大きな城に到着。

門が開いているが、やはり様子がおかしい。

少女の話では、ヴィラン達がたくさんいるとのことだが、


「ここはウジウジしててもしょうがないから、正面突破よ!」

「・・・・・・」


さっきまで、怯えたり怒られたりで小さくなっていたレイナが急に前に出てきた。

いったいどこからツッコんでいいものやらと冷たい視線を送る一行ではあったが、レイナに直接はかける言葉が見当たらなかった。

レイナを先頭に門をくろうとした時、兵士のヴィランが襲いかかってきた。


「私はね!今、すっごく機嫌が悪いの!

だから、やっつけさせてもらうわよ!!」


こころなしか、ヴィラン達がレイナの迫力に圧倒されているように見えた。

勢いの止まらないレイナを中心に門番のヴィランを一掃し、城の中へと入っていく一行。

しかし、城の中は人っ子一人いないもぬけの殻だった。


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