恐怖の記憶

風見☆渚

第1話 発見

(第一話:発見)

想区を移動している調律の巫女一行。

途中で立ち寄った村は、ヴィランの気配があるものの、人の気配が全くない、どこか不思議な雰囲気のある村だった。

見覚えのあるようなないような、そんな村に不穏な気配を感じたレイナ。


「ここって・・・前に来たことないかしら?」


首をかしげて自信なさそうに言うレイナに、シェインも首をかしげながら返事を返した。


「姉御?私たちは来たことないと思いますが、昔私たちと出会う前に来たとかそういうことですか?」

「それじゃぁ俺たちにはわからねえな。

でも、言われて見れば、なんとなく来たことあるようなそんな気もしなくはないが、どこにでもあるごくごく普通の感じだからそう感じたんじゃないか?」


タオが、周りを見渡しながらレイナの不安をはらうように話しかけた。


「とりあえず、ここにもカオステラーの気配を感じるから、辺りを探索してみましょう。」


レイナに言われるまま、とりあえず村を探索することにした。

探索していると、エクスが村の外れにポツンとある枯れ井戸を発見。


「みんな、あそこに井戸があるけど、なんとなく見覚えがないかな?」


その井戸は、少し大きいが、昔話ではよく見かける普通の井戸だ。

違和感はあったものの、皆同じように懐かしさを感じているようだった。


「懐かしいな~。昔、桃太郎の実家にも同じような井戸があったっけ。

よく婆さんが、水をくみに行って重たそうだったから手伝ったりしてたなぁ~」

「鬼ヶ島にももう少し小さかったと思いますが、こんな井戸がありました。」


タオとシェインは昔を懐かしむように井戸に近づいていった。

それを見ていたエクスも、


「そういえば、シンデレラとフェアリーゴッドマザーが出会ったのも、こんな井戸の近くだったかな。あの時、僕は彼女の泣いている姿を見ている事しか出来なかったっけ・・・」


エクスは、苦い思い出ではあったが、ずいぶん前の事に懐かしさを感じていた。

しかし、そんな懐かしさをかみしめて井戸に近づいていく皆とは、全く違う反応を示している人物が一人・・・

レイナは、怯えた様子で、一歩、また一歩と後ろに下がっていった。


「みんな!!その井戸に近づいちゃダメよ!!!

絶対覗いたりなんかしちゃダメなんだから!!!」


頭を押さえ一同が引くほどの怯えように、エクスがなだめるようにレイナに話しかけた。


「どうしたのレイナ?

こんな井戸どこにでもあるじゃないか。そんなに怖いモノじゃないよ?

前みたいに、風車がカオステラーだったとかあったけど、この井戸は特にそんな様子もないし・・・」


しかし、レイナは聞く耳を持たなかった。

その、あまりにも怯えた様子を不思議に感じたタオが、


「お嬢。なんかあったのか?」


と尋ねると、


「昔、一緒に旅してたファムに、井戸にはたくさんの呪いがかかってて、近づくと井戸に引きづりこまれるって聞いた事があるからから・・・」

「姉御・・・それ信じてるんですか?」


少し呆れたようにシェインがレイナに言い寄った。


「そういえば、元凶になってるファムはどこ行った?」


タオが、辺りを見渡すが、どこにも姿がなかった。

同じように辺りを見渡しながら、エクスが思い出したように、


「そういえば、ここの想区についてから見かけてないね。

もしかしたら、近くでレイナが怯えている様子を見て楽しんでいるのかも。」


エクスの言葉に、一同納得し、


「確かにあり得る・・・」


全員同時に、同じ事を思った。

ファムのレイナいじりは日常的に目の当たりにしている一行だからこその同調だろう。


「姉御?たとえば、どんな話を聞いたのですか?」


シェインが、なにか面白いネタでもないかとワクワクしながらレイナに問いかけると、


「城の主人の大事なお皿を割ってしまった侍女が井戸に突き落とされて、死んでしまうのだけど、その侍女は井戸の中でずっとお皿を数えているの。ただ、なんど数えても最後に1枚足りないって・・・知らない人が、お皿が足りないんですか?って井戸に近づくと、お皿をちょうだいって言いながら井戸に引きずり込むのよ!!」


その話に、多少恐怖のような驚きはあったが、現実問題そんな事はないと思っているシェインが、


「それはそれは怖い話ですね。他にもあるんですか?」


と、さらに興味本位でレイナに聞いてみると、


「あと、恨み辛みをもって落とされてそのまま死んだ少女が夜な夜な、助けて~助けて~って井戸から助けを求めてるとか・・・」


レイナの話は、あまりにもざっくりでただレイナを怖がらせたいだけだと感じ、


「姉御・・・それはきっとファムが楽しんで言っているだけだと思いますよ。」


と、なだめるシェインは言ったが、背にある井戸の方から聞き慣れない少女の声で、


「助けて~・・・助けて~・・・」


と聞こえてきた。

シェインは、もしかしてと恐怖に感じ振り返る事が出来なかったが、ここで振り返らないと、自分の中にあるワクワクが押さえ切れないと、


「こんな感じで聞こえてくるわけが・・・」


勢いよく振り返ろうとした、その瞬間!


「きゃーーーーーーーーーー!!!

出たーーーーーーーーーーー!!!」


レイナが大声で叫んで錯乱してしまった。

レイナを除き全員で、声のする方向である井戸に目をやると、そこにはヴィランが、


「クルル~・・・クルル~・・・」


その光景に、冷静さのかけらもなくなったレイナが発狂し、


「おまえかーーーーーーー!!!」


その現れたヴィランに向けて、自分を色々な意味で見失ったレイナが襲いかかる!!

井戸近くで発生したヴィランだが、レイナの勢いに押されて、あっという間に全滅してしまった。


「でも、ヴィランがいるって事は、この想区もカオステラーの発生や、なにか原因があるのかもしれないね。」


エクスが改めて状況を整理しようとしていると、シェインがまじめな顔でゆっくり語り出した。


「ところで・・・・ヴィランって、人間の言葉話せましたっけ・・・?」


シェインの言葉に、全員の体温がさーっと引き謎の寒気に襲われているとき、またしても井戸の方から、


「助けて~・・・・助けて~・・・・」


と、少女の声が聞こえてきた。

まさかと思い、井戸に目を向ける一行だったが・・・


「あれ?誰もいない・・・よ」


エウスの発した言葉に、我を忘れたレイナが、


「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

出たーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

こんどこそ出たーーーーーーーーーーー!!!!!!」


大声を上げたレイナは、発狂しながら全速力でどこかへ消えていった。

その光景は、瞬きをするよりも早く、あっという間だった。

最初は面白半分だったシェインも、この状況は予想出来ていなかった様子で体が固まったように動けなくなっていた。

とりあえず、あのお嬢様がこの状況で逃げ回られると本気でどこまで迷ってしまうか予想が出来なくなると考えたタオがエクスに、


「すまないが、レイナを追いかけてもらっていいか?

筋金入りの迷子気質のお嬢が無事俺たちと合流出来るとは思えないからな。」

「わかった。頑張って追いかけるよ。あとでここに戻ると思うけど・・・可能な限り連れ戻すよ。」


そういって、主人公の少年は急いでレイナを追いかけた。

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