第8話 メソッド

ダイエットのメソッドについて記す前に、

私は読者に対して許しを請わねばならない。

第何話かで「嫌がらせ」云々記しているが、

その元になる「嫌がらせ」云々は記していなかったからである。

要するに書いたと思って書いたが、実際には書いていなかった。

そういう哲学的メビウスの輪がこの話の中で起きてしまったのである。

しかしこれはじつに興味深い現象だ。

生命における量子トンネル効果と呼んでも差し支えないと思う。

なぜならいつものくどくどしい前置きや言い回しや論脈など関係なしに、

編集的基本など易々と飛び越えて、

「嫌がらせ」という表現は登場することになった。

それほどこのポテンシャル、エネルギーが大きかったということだからだ。

これこそSNS時代の文学の神髄と呼んでもよい。

(編集者に叱責されることはない。読者に笑われるだけだ)


さて、気を取り戻してダイエット・メソッドについて。

私のそれはじつにシンプルである。

まずは食わないことを選択した。

従前から「食わなきゃ痩せるし」と嘯いていた手前もあって、

あるいは「このまま食わずに餓死してもいいんじゃね?」的自暴自棄も手伝った。

まぁ、経済的にそうせざるを得なかった。選択はなかった。

食うや食わず、ではなく、ほとんど食わずや食わず、である。


ちなみに私の部屋はガスの契約をしていない。

止まったからではなく、引っ越した時に契約しなかった。

要らないと思ったから。

自炊するわけでもないし、流しからお湯が出なくても困らない。

風呂はない。

ともかくもそんなわけで自炊することは、ほぼ、不可能だ。

炊飯器と電気湯沸かしはあるので、

最低限のものは作ろうと思えば作れないことはない。

手羽元使ってスープやチキンライス的なものを作ったりもしたが、

まぁ、面倒くさい。一人だと不経済な場合が多い。


そんな環境下で、入金がなかったその頃には、

自炊するための食材を手に入れる原資も底をつき、

ましてや自炊などという、

食欲本能を満たす前に頭脳的活動に基づく計画的抑制行動を伴う、

精神的に高度な活動に心を向ける余裕など到底なかったことを、

読者は理解しておく必要がある。

よく貧困者の食事を「贅沢だ!」などと批判するものがあるが、

あれはある意味で的を射ていない。

なぜなら彼らの多くは日常の心理において、

計画的かつ生産的に節制するような状態にないのであるから。


先に炎上した女子高生の件についてはよくわからいことも多いが、

「貧困」の実態・実質については、そういうものがコアであろうと私は感じている。


おっと、話が「ダイエット」から「貧困」に逸れてしまった。アブナイアブナイ。


食べなかった、とはどの程度かというと、

2日に1回とか3日に1回といった感じで、

マックのチキンクリスピー(100円)あるいはナゲット(クーポンで100円)を、

アイスコーヒー(クーポンならMサイズで100円)とともに注文し、

それでもって夜中の2時間~3時間粘るのだ。

スマホが必須アイテムであることは言うまでもない。

これで週に500円とかそんなイメージだ。


私が偉大であったのはそこに留まらなかったところにある。

こうした生活だとえてして昼間は部屋でじっとしていたり、図書館に行ったりしがちである。

じっさいそのような人を図書館では見かけることも多い。

だが、私はそうしなかった。

昼間もなるべく活動するようにした。

具体的には歩いて片道5kmほど(つまり往復10km)にある街に通った。

そこでは別に何ができるわけでもないのだが、

たまに会って話す知人がおり、見かねてお茶代を奢ってくれたりした。

(その知人には本当に感謝している)

私はそこでもなるべく食べないように我慢した。特に炭水化物。

食べる時もキャベツのサラダとか。

飲み物はアイスコーヒーか炭酸水といった糖質を含まないもの。

水分はわりと摂取した。(気休めながら空腹抑制にはなる)


これを2週間ほど続けたところで6kgくらい体重は落ちた。

じつに呆気なかった。痩せるのなんてカンタンだよ。

体脂肪率は23%くらいだったと思う。

つまり落ちた体重の半分が筋肉(や骨などの体組成組織)で、

半分が脂肪だったのではないかという計算がざっくりできる。


ここまでざっと読み返すと「ない・ない」ずくしのセブンティーン(古いね)、

すいぶんとネガティブな内容だが、

自分の心情的には一回捻ってアトラクションのようで結構楽しかった。

前にも書いたが、ダイエットそのものよりも、

いつ振り込まれるとも知れない入金を、

着てはもらえぬセーターを寒さ堪えて編むような気持で待ち続けること。

そちらのほうがずっとずっとしんどかった。


第9話に続く……?

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