髭はこけおどし 見栄(ミエ)見えである
女性については何も思うところはないのだが男の髭が常々どうにも気に入らない。口の上だけもあれば下だけもある。上下両方もある。
といっても現実に見た人数よりテレビで見た人数の方がじつは多いのだろうが。
こんなことをいえばおしゃれ心のない者のナンセンスな意見と思われるのは必定なのだが、今回、一度だけ恐る恐る述べさせてもらう。
まず、若い男たちの髭のことを先に。
昔は上下両方の場合はぼうぼうに生やしている者だけだったものが、近頃は剃って何日か経過したくらいの按配に伸ばしているのをよく見る。どちらにせよ以前なら、無精髭と看做され、身だしなみのない奴と馬鹿にされていたはずだ。女性から見向きもされない、やけくそ気味の男のすることだった。
ところが、どうも今はそうではないらしい。
テレビに出るタレントやら俳優やらスポーツ選手やらにとくに無精髭が目立つ。
どうも意図して、それぞれ剃ってから2~3日目くらいとか一週間くらいというような長さに仕立てているようにしか思えない。いつ見ても同じ長さのところを見ると。
ということは、いま剃ってのち、と言ったが髭の下地のところは剃ることはないのだ。
だが、剃るのを省くのが手間を省くことになるはずはない。一様に同じくらいの長さに切りそろえるのは、かなり手間がかかることだろう。
私が一日も欠かさず電気カミソリで剃っているのは身だしなみを整えることにマメな質だからではない。一日怠ると次の日に難儀をすることになるからだ。
頭の髪も以前より短くするようにしているのは洗うとき楽だと気がついたからだ。シャンプーも節約になる。
なんであれが流行るようになったか、など分かる訳はないが、とにかくあの髭は、若い女性の支持を得ていることは疑いない。流行っているからやってみたところ、不快な印象どころか、大部分の女性にモテやすいという手ごたえがあるからこそ続けているのだろう。
私はツルツルに剃り上げているのがいいとばかりつい最近まで思い込んでいたが、うかつだった。
ちなみに正面から見て顔に髭がないからといっても他の手を使っている場合がある。横から見れば、後ろ髪をなにかで縛ってポニーテールにしている輩がいる。あれも髭と同じサインと見做すべきなのだ。
とはいってもまだ事態の把握に、つまりあれが若い女性にまちがいなく受けているという、はっきりと確信は持てないのだが、はっきりした暁には私もなんらかの手を打つ必要があろう。
といったところで私には若い女性に受けるか受けないかを確認する機会があるやらどうやら分からないのが口惜しい。
しかしまあ、若いひとには本気で言っているわけではない。モテるための工夫は若い頃私もした。私はファッションにはほとんど興味はなかった。面倒くさかった。自分のいでたちに興味がないのであるからひとのそれにもむろん関心はなかった。だが、いくら面倒でもモテたくはあるので、ひとのなりを参考にしたものだ。
さて、若いひとのことはこのくらいにして。
私が、むかしから気になるのは、あれこれ肩書を付けた、よくテレビに顔を出す中高年の大概「せんせい」と呼ばれている連中だ。
タレント、俳優のひとたち、それに、こだわりの味のラーメン屋の店主などの髭は一向にかまわないのだが、文化人、とくに芸術方面の「せんせい」の髭が気に障る。
それを一括りに言うとおよそつぎのようなことになろうか。
「自分は凡庸などこにでもいる一般大衆とはちがうのだぞ。この分野については一家言持つ、つまり専門家なんだぞ。しかもクリエイティブな作品を発表し、こうやって、ときどきテレビでラジカルな発言をするタイプの人間だ。でも偉そうな態度はしないので、わかりづらいだろうから、さりげなく髭でサインを出しておく。その辺、頼むぞ。つまり自分に接する態度に気を付けてくれということだ。」
こんなところで間違いあるまい。こう言いたいのである、あの髭は。
さて、本人は、その上でなお、若い女性に好感を持ってもらえれば儲けものだが、という野心も密かに持っているにちがいないが、残念ながらそれはなかろう。
まあ、「一般大衆」には多少なりともあの髭は、こけおどしにはなっているのだから「せんせい」はそのまま生やしておられればよろしかろう。
もうひとつ忘れずに付け加えておくべき、注意を要するヘヤースタイルがある。
それはボーズ頭である。これが一番始末が悪い。(ほんものの坊さんは一応省く)
「すこし禿げてきたので、さっぱりさせました。もう色気も持ってませんし。」などと頭をなぜて、無害、安全をアピールして女性にまずは安心感を与えようという魂胆にちがいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます