性器の場所

こういう疑問を誰からも聞いたこともないし、本で読んだこともないのだけれど、常々不思議に思っていることがある。

 交尾、性交のその体勢の難しさ。なんで体勢が難しいのかというと人間を含め、獣も鳥も爬虫類も虫にいたるまで、まず例外なく同じく一番合わせづらい部位に性器があるからに他ならないだろう。

 たとえば鼻の先に男女とも、それがあれば作業はずいぶん楽だろう。

 だが、合わせづらいその位置にある理由は簡単に想像できる。大事な器官だから奥まった場所に収めたと。しかし大事にしては雌雄とも泌尿器も兼ねているのは解せない。大事な器官が不潔に晒されるではないか。

 まあ、その点の考察は後まわしにするとして、奥まった場所に位置する理由は、そうなのだろう。

 そう説明されると、大抵の人はたぶん「ああ、なるほど」と納得する。ここまでの納得は結構なのだが、理由、目的はその通りではあろうがそこから、ある疑問が沸かないだろうか?私はその疑問にいつも悩ませられる。

 他の例を挙げる。

キリンの首が長いのは遠くまで警戒するため。

手長猿の手が長いのは木に摑まり易くするため。タコが体色を周囲の色に似せるのは敵の目を眩ますため。蜂や蝶の嘴が長いのは花の蜜を吸い易くするため。

 例は尽きない。というよりもあらゆる生き物の身体の成り立ち、特徴の理由は容易に見出すことができる。

 さて私がいつも悩むのは、首が長ければ都合がいい、手が長ければ便利、安全対策で体表を保護色にしようと望めば、なんでそれが叶うのか?

 不思議に思わずにはいられない。

 そのことは、つまり進化がどうしたら起こり得るのか、という疑問と同一であろう。

 今、目の前でのんきに眠っている、うちの猫と人間の私の祖先は辿り遡れば何か一つの動物に収斂されるはずである。

 その証故は実に簡単な事実で得られる。

 顔という部位に目が二つ並び、その下に鼻またその下が口、という構成。これだけの事実だけでも猫と人間は仲間内であり、祖先は同じと断じることができよう。祖先といっても近過去ではなく遥か遥か遠い過去に於いてのことである。

 私のこの論拠に、「そんな安易な事象が証拠とは笑止。」という声が聞こえそうである。

 だが考えてみてほしい。

 顔の造作の例はちょっと比喩的な表現だが、身体の全体の構造もほぼ同じではないか。ほぼ、などという消極的な言いかたはやめて、全く同じ構造であると言い切っても構わないだろう。消化器は口に始まり肛門に至る。各臓器も同じく有り、同じ機能を果す。

 その証拠といってはなんだが、病院の手術場の器械のあれこれも特に動物病院用なるものはない。人間用と同じものを使う。当たり前である。同じ構造なのだから。

 さてお終いに、性器の位置取りについての考察だが進化の過程において、両性にとって一番合わせづらい場所にあることに利便性があるだろうか。進化は要不要の選択の果てに獲得したそれぞれの特徴を示している。

 だが、性器があの位置にあることに利便性があるとはとても思えない。つまり人間の願望によって得た結果ではないはずである。つまり、これは人間の意志は関与していない。では何の(誰の)意思が働いたのだろう。

 なんと表現したものか迷うのだが、人間・動物の意志、願望を無視して、違う観点よりこの場所が最適と判断を下し、それを実現してしまう能力を持った誰かの采配ではないのか。

 つまり利便性を優先して両性とも、いとも簡単に交合できる場所、たとえば額とか鼻の先とかに性器があったとしたらどうだろう。あるいは手の平にあったとしたら。握手ついでに接合できるという簡便さが実現できる。

 しかし全知全能の何者かの高度な判断により、生殖という重大な目的を持つ行為がそう安易に行なわれてはならないという理由であの場所にしたと思えてならない。

 私としたら、この説にかなりの自信があるのだが・・・。

 さて、いよいよ最後に残った、かの疑問、生き物にとって、それほど大事な行為を行なう器官なのに同時に同じその器官が泌尿器も兼ねているという事実は一体どう解釈すればいいのか。

 それの答えは皆目見当がつかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る