第4話 インフェルノ
「それでは皆さんご起立いただけますか」
やっぱりだ。やっぱり尿路結石だ。
おもむろに立ち上がる会員たち。
なぜ立つ必要があるかといえば……。
腹部に鈍痛が発生した。鈍痛は時間とともに鋭く剣呑になりさらに熱を帯びて腰全体を内側から責めさいなんだ。
「あふぁ」
情けない声を漏らしてその場につくなってしまう。
そう尿路結石は脱力系の痛みなのだ。
激痛により全身から力が抜け這いずることさえままならない。この脱力感を実感するには寝ているよりは立つか椅子に座っている方がよかった。
つくづくアルゴフィリアの業は深い。
この尿路結石の痛みは以前体験したものとは違っていた。ペインクラブのライブラリからコピーしたコレクションは背中、つまり腎臓から痛みが始まっていた。
尿路結石には3ヵ所詰まりやすい場所があり、これは下の方と思われた。
と、唐突に右目にまた灼熱の錐がもみこまれた。
群発頭痛だ!
なんとこの苦痛データの提供者は三大激痛のうち二つを併発してしまったのだ。
尿路結石が脱力系なら群発頭痛はみなぎる系だ。相反する二つの大激痛が体の中でせめぎあった。
「うおおわ!」
「んぐぐくぅ」
絶叫と呻吟が交互に口からあふれ出す。
生き地獄とはこのことだった。
しかし恐ろしいことにこれでボリューム1なのだ。これを素で体験した患者は発狂してしまったのではあるまいか?私は心の底からおもんばかった。
会員たちはなんとか楽になろうと右に左に転げ回る。
私は石のようにうずくまった。
悶絶すること15分あまり地獄の三丁目が煉獄の炎をまとって待ち構えていた。
胸がいきなり爆発した。
そう爆発としか表現できない苛烈な痛みの大噴火、爆裂だった。
激甚な衝撃波が全身に響き渡り手足の先まで一瞬にして痺れきった。
心臓がバラバラにちぎれ飛んだような錯覚に陥る。
強烈な痛みに時間は止まり世界は凍りついた。
そしてすべての痛みが遠ざかっていった。
「こ、ここでデータ提供者はし、失神しました」
会長が息も絶えだえに解説する。
「三つ目の胸の激痛は大動脈解離です」
会員たちが「おおう」とどよめいた。
心臓から伸びる大動脈の内部が剥がれたのだ。激痛のトリプルコンボであった。
おそろしく貴重な経験をさせてもらった。
「なおこの患者さんは一命をとりとめ尿路結石は快癒、群発頭痛も快方にむかっています」
拍手大喝采であった。
「それではしばし休憩ののち本日のメインプログラムを始めます」
メイン?メインだと?まだこの上があるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます