第26話前回のメイン・ストーリーの結果
それからの数日は、とても穏やかで楽しいものだった。
舞は、シュレーに乗馬や槍の手ほどきを受け、そしていろいろな魔法の呪文を習った。シュレー曰く、使用頻度の多いなるべく呪文の短いものを選んだということだったが、舞の頭は大混乱だった。なので、ホテルにあった手帳に小さく書いていって、時間のある時に見るようにしていた。
魔法には、炎と氷、水、風、地と、治癒を司る白魔法と、毒などを浴びせる黒魔法を呼ばれるものがあると教わった。今は魔物を呼んでしまうので実際に魔法を使って見る訳には行かなかったが、舞にはどれも無理な気がした。それでも、一応最低限の呪文は知っておかなければと毎日奮闘した。
玲樹がどうしても行くと聞かなかったので、皆離れてはいけないというシュレーの意見に従った結果、カジノにも行った。舞達の現実社会で見たことのあるルーレットやカード、スロットなどがあって、あちらとこちらで変わりはないようだった。玲樹は勝ったり負けたりの半々だったが、舞と圭悟は少し勝ちが多く、メグは負けが多く、シュレーに至っては連戦連勝だった。玲樹が憎々しげに言った。
「なんでぇ、何でも出来やがるな。何だか腹が立って来たんだが。」
ホテルへの帰り道、玲樹が言うのにシュレーがしらっとして言った。
「オレは確率の問題のルーレットとかスロットはやらないからな。負けたくないなら、カードをやるべきだ。相手の手の内なんて、顔を見てれば自ずと分かる。あれで勝てないことはない。」
圭悟が笑った。
「だからポーカーばっかしてたのか。確かにシュレーは表情が分かりにくいんだよな。それに元からポーカーフェイスだし。その上シュレーの洞察力なら、勝つのは問題ないか。」
玲樹は天を仰いだ。
「もーどうでもいい。どうせオレ達ではお前に勝てないさ。」
部屋に戻ると、ナディアが戸の前で待っていて振り返った。圭悟が、慌てて歩み寄る。
「殿下。どうなさったのですか?」
ナディアは頷いた。
「お兄様からご連絡があったと、先ほどフロントから連絡がありましたの。明日の朝、こちらへ新たな指示が来るとのことですわ。」
あれから一週間。新たな指示とは…?
「新たな指示とは、どういうことでしょう?殿下を、バルクへお連れしたらいいだけではないのでしょうか。」
圭悟が言うのに、ナディアは首を傾げた。
「我には分かりませんわ。とにかく、お兄様からそのように…。」
皆は顔を見合わせた。何か、別の仕事を申し付けられるのだろうか。
圭悟が、険しい顔をしている。シュレーはそれに気付き、言った。
「あまりにも大きな仕事が我らに来るので、少し戸惑っておるのですよ。いつも魔物退治やら、人助けやらで生計を立てておったものですから。王からの命を、何度も受けるのかと驚いておるだけです。」
ナディアは、シュレーを見た。
「お兄様が何を考えていらっしゃるのかは、我にも分かりませぬ。明日、我もお話を聞かせていただくつもりでおりますの。」
シュレーは頷いた。
「では、そのように。また、明日の朝。」
ナディアは頷いた。舞もメグも、圭悟の様子を気にしながら部屋へと入って、その日はもう休むことにしたのだった。
次の日は、朝からなぜかホテル全体がピリピリとしたムードだった。
朝食を取るために下のレストランへ降りて行った一向は、たくさんのホテル従業員に驚いた。しかし、シュレー曰く、あれは従業員ではないとのことだった。どういうことだろうと思いながらも、シュレーが何も言わないので皆普通に食事を済ませてレストランから出て来ると、従業員の格好の一人に止められた。
「申し訳ありません。少しお待ちください。」
「部屋に帰るだけなんだけどな。」
玲樹が言うが、相手は立ち塞がって譲らない。仕方なくそこに立っていると、入り口から頭に顔の隠れる覆面のようなものを被った誰かが数人の体格のいい男と共に入って来た。それを見た舞は、思わず叫んだ。
「あ、ダンキスさんとラキさん!」
二人は、こちらを見た。すると、中央の覆面の男が、こちらを見てその覆面を取った。
「ああ、ご苦労だったな。シュレー、ケイゴ、レイキ、メグ、マイ。」
美しい金髪に端正な顔立ち、それは、リーディスだった。
「陛下!」
皆が驚いて叫ぶ。リーディスは手を振った。
「騒ぐでない。忍びで来た。」と、エレベーターの方へ首を振った。「共に参れ。話しがある。」
皆は顔を見合わせると、リーディスについて階下へと上がって行った。
リーディスの部屋は、最上階を全て使ったスイートルームだった。そこへ連れて行かれた五人は、言われるままに腰掛けた。ダンキスとラキも、リーディスの両脇に分かれて座った。そこへ、ナディアが駆け込んで来た。
「お兄様!我もお話を聞かせていただきたく、参りました。」
リーディスは頷いた。
「ナディア。主もご苦労であったの。そこへ座るが良い。」リーディスは言って、皆を見回した。「皆、まずはご苦労であったな。命を落とした者もおったが、我がもう少し早くあちらへ迎えをやっておれば救えたやもしれぬと悔やんでおる。しばらくはルクシエムの工場は使えまい。冬季の間に何とかし、春季から復興工事を始めたいと思うておるが、無理やもしれぬの。」
圭悟は黙って聞いている。シュレーは言った。
「陛下、この気の異常はなんであるのでしょう。このようなことは、オレも経験がありません。」
リーディスは黙ったが、頷いた。
「主らには話そうと思うて我自ら参ったのだ。シュレー、恐らく気付いておるだろう…これは、前回の大きな変動から起こっておることよ。」
大きな変動とは、自分達が巷で言う所のメインストーリーのことだろう。舞は、固唾を飲んでリーディスを見た。
「薄々は気付いておりましたが…。」
シュレーは、控えめに言った。リーディスは頷いた。
「あの、一つのパーティが行なったことは、リーマサンデとライアディータが共に命の気を分け合い、技術を分け合い、栄えるようにとの願いの元に、デルタミクシアからの気がこちらへばかり向いておったのを、リーマサンデで開発された機械にライアディータの術の力を補って両方へ拡散させるというものだった。リーマサンデでは魔法が一部地域にしか存在できず、病を治すのも技術だけに頼らねばならないから助かる命も助からないことがあるとのこと。我も、なので反対はしなかった。デルタミクシアからの命の気は豊富で、途絶えることはないと思うておったからの。」
舞は黙って聞いていた。その機械のうちの一つを、きっと前回皆で運んだんだ…。それが、そんな大したものとは知らされずに…。
皆が何も言わないので、リーディスは続けた。
「そして、その点々と設置されたいくつかの機械と術の力で、デルタミクシアからの命の気は、二つの国へ平等に振り分けられるようになった。今まであまり発達していなかった機械技術も、ライアディータに一気に入って来て暮らしは豊かになり、魔法が使えない者にとっても便利な世になった。表向き、あの行動は正しかったのだと皆が思うた…きっと、今でもまだ思うておるだろう。しかし、我らは違った。」
リーディスは、傍らのラキを見た。ラキは、軽く頭を下げてから口を開いた。
「私とダンキスは、すぐに陛下の命を受けてデルタミクシアの状況を詳しく調べに参った。大きな変動の後であるのだから、何があってもおかしくはない、というのが、陛下のご意見だった。」
ダンキスが皆を見た。
「オレの部族、ダッカがグーラを飼い慣らしておるのでな。二体借り受けてミクシアからデルタミクシアへ一気に飛んだのだ。上空から見たデルタミクシアは、命の気を放出しているものの、どこかおかしかった…そう、確かに放出しているのに、空気に拡散して消えて行くような…しかし、時にしっかりと流れて行く時もある。つまりは、継続的にこちらへ流れて来ておった流れが乱されて、おかしな動きになってしまっておったのだ。」
ラキは、続けた。
「もっと見ようと思ったが、グーラがどうしても降りてくれず断念した。仕方なく麓から上って行こうかと思ったが、陛下が戻れとおっしゃったので、戻ったのだ。」
リーディスは、話し出した。
「変動の直後でそれぞ。それからも、こちらへ流れて来る命の気は不安定ながらもなんとか生活を保っていられる程度の物だった。しかし最近になって、命の気が枯渇し始めたのを知った。魔物は、命の気を求めて魔法技に惹き付けられて人里へ下りて来るまでになってしまったのだ。我は、不安定なのが続いた時にすぐリーマサンデの王、リシマに機械の取り外しを求めていたのだ。しかし、あちらからの返事がなく、痺れを切らして何台かの機械を壊すよう、個別のパーティに指示を出し、実行させた。その時に数台を壊したにも関わらず、このようなことになっておるのだ。」
ラキが言った。
「…恐らく、一度機械で乱されてしまった命の気の流れは、簡単に元へ戻ることはないだろう。あの変動で壊されてしまったデルタミクシアからの安定した命の気の供給を、元へ戻さねばならぬ。」
圭悟は、そこで口を開いた。
「お待ちください。」皆が、圭悟を見た。圭悟は言った。「まさか、そのような大きな仕事を、私達に?」
リーディスは眉を上げたが、頷いた。
「そうだ。リシマが何も言って来ない以上、戦争を避けるためには我が公に軍を動かす訳には行かぬ。主らのような個別のパーティに動いてもらうよりないのだ。」
「我らも、手を貸す。」ラキが言った。「密かに動くことには慣れているからな。全てをお前達にとおっしゃっておるのではないのだ。まずは、命の気が枯渇した理由か、もしくは元の命の気の流れを知ることが大事なので、それを調べて欲しいのだ。」
圭悟は、目を伏せた。これは、間違いなくメインストーリーに触れている。陛下は個別のパーティに依頼している…誰がメインを歩いているにしろ、自分達はそれに関わる仕事を任されようとしているのだ。前回、捨て駒にされてしまった時と同じ、脇道のパーティとして…。
「少し、お時間を。」意外にも、そう言ったのは、シュレーだった。「我々に考える時間を頂けませんか。」
リーディスは、じっと圭悟の顔を見ていたが、シュレーを見て、言った。
「分かった。明日の朝、また聞こうぞ。事態は緊急を要しておる…答えが出たら、明日を待たずに我に知らせよ。」
シュレーは、頷いた。玲樹も、メグも気遣わしげに圭悟を見ている。
圭悟は、まだ黙ったままだった。
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