第22話バーク遺跡
シュレーが、突然に立ち止まった。突然のことだったので、うつらうつらしていた舞は驚いて目を開ける。
腕輪が、光らなくなった。
「…消えた。」シュレーは、慌てて腕輪を開いた。これが光らなくなった時は、戦闘が終わった時か、戦っている者が倒れた時だ。「…ケイゴ…。」
玲樹も急いで腕輪を見た。
「まだ圭悟の表示があるってことは、死んでないという事だ。」玲樹は言った。「どうなった?全部倒したのか?」
シュレーは首を振った。
「わからん。」すると、圭悟の光が移動を始めたのが分かる。シュレーはため息を付いた。「歩いてるな。どうなったのか分からんが、とにかく終わったということだろう。オレ達は無理せず軍との待ち合わせ場所へ直接行こう。もう向こうは用済みだ。えーっと、あっちだ。」
シュレーは、腕輪をその向きに向けて方向を確認して言った。玲樹は怪訝そうな顔をした。
「圭悟一人で?きっと群れに遭遇したんだろうに、どうやって抜けたんだろうな。あいつ一人でやったとしたら、オレも負けちゃいられねぇな。」
シュレーは苦笑した。
「圭悟だって腕を上げてるさ。さ、急ごう。平野へ入れば吹雪もましになるだろう。」
舞が、シュレーの背中から言った。
「ね、私自分で歩くわよ?シュレーも疲れたでしょう。」
シュレーは自分の背後をちらりと見て言った。
「確かに重いが、別にどうってことはない。舞が歩くと、それに合わせるから余計に疲れるような気がするし、このまま行こう。」
確かに重いがって。舞は思ったが、足手まといになるは嫌なので黙っていた。シュレーがそちらへ足を向けた途端、吹雪の中から急に大きなスキンヘッドの男がぬっと出て来た。舞は、それを横目に見て思わず叫んだ。
「キャー!!」
ジタバタと足を動かす。シュレーはそれを押さえた。
「落ち着け。味方だ。」と、その大男に向き合った。「ダンキス。久しぶりだな。」
相手は満面の笑みでシュレーの手を握った。
「シュレー!」そして、嬉しそうに握った手を振った。「お主のパーティだと聞いて、王はラキだけに命じられたのだが無理を言ってついて来てしもうたわ。元気そうだの。それはなんだ?」
シュレーは、舞の足を押さえたまま言った。
「ああ、仲間だ。名はマイ。急いでいたから、この方が速いだろうと思ってな。」と、玲樹を見た。「こっちはレイキ。こっちも同じパーティの仲間だ。」
ダンキスは、微笑んだまま玲樹の手を握ってぶんぶんと振った。
「おお、シュレーと旅をしておるのか。よろしくな。オレはライアディータ軍第二師団長ダンキスだ。シュレーとは戦友でな。第一師団長のラキが、お主らの仲間を護衛しておる。」と、シュレーを見た。「ラグーの群れに囲まれておったのでな。助け出して、先にバーク遺跡へ向かっている。オレはお主らを迎えに来たのだ。」
シュレーは頷いた。
「そうか。じゃあ、バーク遺跡へ行けばいいんだな。」
ダンキスは頷いた。
「この吹雪も、あと少しで抜ける。で、そのお嬢ちゃんはどうする?オレが担ぐか?」
舞はぶんぶんと首を振った。こんな大きな男の人に担がれるなんて、怖いじゃないの!シュレーだってかなり背が高いから怖かったけど、やっと慣れたのに!
しかし、シュレーは頷いた。
「ああ、助かる。お前は力があるからな。頼む。」
「ええー?!」
舞は叫んだが、ダンキスは、事もなげに片腕でシュレーからポンと舞を受け取ると、軽々持ち上げて背のフードのような所へ舞を放り込んだ。
「本当はバズーガなんかを入れて運ぶための物なんだが、嬢ちゃんは小さいからぴったりだな。そこに入って掴まってな。」
舞は、必死にそこのベルトのようなものに掴まった。小さいって、標準サイズよ!あなたが大きすぎるのよ!
舞は心の中で叫んだが、シュレーの肩に掛けられて担がれているよりも安定感があって落ち着いているので、おとなしくそこで運ばれることにしたのだった。
しばらく行くと、吹雪が段々と収まって行き、嘘のように晴れやかになった。
まだ空気は冷たいが、明らかにライ原野から離れてミーク平野に入ったようだった。するとすぐ、遠く大きな石が点々と規則的に並びながらも崩れているような様が見えて来た。舞はそれを見て言った。
「わあ…なんだかテレビで見たギリシャとかの遺跡みたい。」
それを聞いたダンキスが歩きながら言った。
「テレビ?なんだか知らぬが、あれはバーク遺跡だ。その昔、首都はこの辺りにあったと聞いている。あれは、その都の神殿だった場所で、唯一まだ形が少し残っておるのよ。」
舞は、まだ実感がなかった。まるで、旅行にでも来ているような…そんな気がする。
シュレーが言った。
「確かに、陛下から聞いた。大昔、あの神殿からも命の気が世界へ供給されていたのだとな。今のシオメルのような農場は、メク山脈の近くにあったらしい。こじんまりと治めていたのだと言っていた。」
ダンキスは頷いた。
「そうよ。オレも幼い頃歴史で習ったぞ。あの神殿に仕える巫女は、ナディア殿下のように大地から直接命の気を吸い上げて供給出来る能力を持っておったのだとな。しかし突如として神殿からの命の気の供給が止まり、国はデルタミクシアからしか供給を受けられなくなった…どうも、巫女達の力に陰りが出たようだ。詳しくは知らぬ。命の気を巡って戦争が起こり、ライアディータは勢力範囲を広げて行ったのだ。力を持った巫女は、王妃にしてその力を手の内に留めようとしたが、それから誰も力を持って生まれなかった。しかし、最近になって、王の妹君ナディア殿下が突然その力を持ってお生まれになったのだ。前王は、争いの元になってはならぬと公にはされなかったがの。」
シュレーは、考え込むような顔をした。
「…ここ最近の、この命の気の変動が気になるな。」
ダンキスは、深刻な顔をして頷いた。
「ああ。実は地を二分してリーマサンデと命の気を分け合う形になった時から、少し異変は現れていたのだ。平和になっただの、電気が便利だのと皆が喜んでいたので、陛下も何もおっしゃらずに水面下で調べていらしたがな。」
シュレーは驚いたようにダンキスを見た。
「なんだって?あれで、世界は綺麗に収まったんじゃないのか。」
ダンキスは、首を振った。
「いいや。むしろあれが始まりだったんじゃないか。オレには、これ以上言えぬがな。」
シュレーは黙った。つまり、前回のメインストーリーが間違った結果をこの世界にもたらしていたということなのか…。
遺跡に近付き、そこへ足を踏み入れると、中から背の高い垢抜けた男が歩いて来た。舞は、それを見て顔を赤らめた…すごい。ここはイケメン・オン・パレードだ。
ダンキスに背から降ろしてもらい、舞はシュレーと玲樹と並んでその男を待った。
「シュレー。久しぶりだな。会えて嬉しいよ。」
やはりその男も、シュレーの手を握った。シュレーは答えた。
「ラキ。仲間を助けてくれたらしいな。礼を言う。」
ラキは微笑んだ。
「何を言っている。こんなことは朝飯前だろう。そっちも、お前のパーティか?」
シュレーは頷いて、二人を振り返った。
「ああ。そっちがレイキ、こっちがマイだ。」すると、今の今まで静かだったチュマが、シュレーのコートの胸元からひょこと顔を出した。シュレーはバツが悪そうな顔をした。「で、こいつがチュマだ。」
ラキが目を丸くしている。舞は慌ててシュレーからチュマを受け取った。
「あの、食糧じゃありません。私が飼ってるんです。」
舞は、また自分のコートの胸元にチュマを突っ込みながら言う。ラキは戸惑いがちに頷いた。
「ああ…飼いプーか。初めて見たものでな。驚いた。」
シュレーはため息を付いた。
「オレが飼っているのではないぞ?」
ラキは、踵を返しながら言った。
「わかっているわ。いくら長く離れておったとはいえ、お前がそこまで変わったとは思えん。」と、遺跡の地下へ向かう石の階段を示した。「中へ。皆居る。」
シュレーは頷いてそれに従って歩いて行く。舞も玲樹も、それに倣って地下へと降りて行った。その階段の途中で、舞はシュレーにそっと言った。
「ラキさんって、すごく綺麗な顔をしているわね。びっくりした。」
シュレーは苦笑した。
「ラキは、オレと同じ傭兵だったんだよ。今は正式にライアディータ国民になって、ああやって師団長をやってるがな…多くは語らないが、きっと周辺の国といざこざが絶えなかった頃の、生き残りじゃないかと思う。ここには、そんな境遇の者がたくさん居るから、皆過去は聞かないんだ。」
舞は、ラキの綺麗な顔を見つめた。そうか、苦労して来た人なのね…。
遺跡の地下は、まず広い部屋のような場所があり、そこから四方にたくさんの入り口がついていた。その広い部屋に、メグやナディア、それに圭悟も、ルクシエムの職員達や兵と共に居た。舞が、声を上げた。
「メグ!」
メグは、舞に駆け寄って来た。
「舞!ああ、無事だったのね。よかった!物凄い煙だったから、もう駄目かと…。」
舞は微笑んだ。
「大丈夫。シュレーと玲樹が居たんだもの。ほら、チュマも無事よ。」
「ぷ。」
チュマは、舞の胸元から顔を出した。メグはその頭を撫でた。
「チュマもね。いい子。」
圭悟がそれを見てホッとしたような顔をしている。シュレーが圭悟に歩み寄った。
「圭悟、大変だったな。軍が気が付いてくれて良かった。オレ達の位置からは間に合わなかったからな。」
圭悟は頷いた。
「今回はもう駄目だと思ったよ。現実社会が目の前にちらついてな。」
メグが身震いした。
「まあ、駄目よ!圭悟がそうなったら、こっちは大変なことになるんだから…。」
舞は、今一分からなかった。だが、今聞くのは無理そうだった。ラキが、話し始めたからだ。
「今日はここに一泊して、明日朝早くからラクルスへ向かう。手前まで送るように命じられているから、ラクルスまでは行けない。」
シュレーは頷いた。
「軍が動いたと知れない方がいいんだな。」
ラキが頷き返した。
「そうだ。ラクルスから職員達を船に乗せたら、お前達はラクルスのステルビンホテルで滞在して陛下からの指示を待て。」
メグが息を飲んだ。それがなぜか舞には分からなかった。ラキが続ける。
「食事の用意をさせる。シュレーは知っているだろうが、知らない者の為に言う。この部屋のどの入り口からも、絶対に入ってはならない。つまり、この部屋以外、遺跡の中へ入ってはならない。」
メグが言った。
「どの入口からもですか?」
ラキは頷いた。
「どの入口からもだ。なぜなら、ここは迷路のようになっていて、ここに迷い込んで戻った者はかつて居ない。この神殿にその昔仕えていた巫女以外に、この神殿の最奥の女神ナディアの間には行き着けない。仮に行き着けたとしても、戻っては来れない。そういうことだ。」
メグは身を震わせて頷いた。迷宮になっているんだ…。そうやって、神を守る神殿もあるのだと聞いたことがある。
ラキは、言い終えるとシュレーを伴って何かを話しながら上へ上がって行った。
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