第8話旅程
「腕輪…光ってる!」
シュレーは、早口に言った。
「同じパーティが戦い出したら光る。ケイゴにもメグにも伝わるようになってるんだ。」と、剣を振り上げた。「襲って来るぞ!二人もすぐ合流するはずだ!」
舞は下がって心の中で詠唱した。すぐに魔法陣が足元に現われる…杖によって、こんなにスピードが違うんだ!シュレーがたった一人で小山のようなグーラに立ち向かっている方へ向けて、舞は杖を向けた。
「フォトン!」
連続して三個の火の玉が飛んで行って当たる。グーラが一斉にこちらを向いた。それをすぐにシュレーが斬り込んで押さえるのを見て、舞はすぐに詠唱をして、また杖を向ける。どうして一回に三個なのよ!
シュレーは三体を次々に斬り付けては同時に相手をしている。シュレーは驚くような身のこなしで相手からの攻撃をかわしていた。しかし、舞がこちらで術を向けるたびに、グーラはこちらへ来ようとした。こんなの、二人じゃ無理…私だよ?!私とシュレーなんて!
「オーラ!」
後ろから声がしたかと思うと、動きが鈍っていたシュレーに虹のような光が降り注いだ。舞は振り返った。
「メグ!」
「今のは、軽い回復術よ。」とメグは構えた。「私も攻撃得意じゃないけど頑張るから、舞も頑張って!」
舞は炎技ばかりが出るのだが、メグは水だった。得意な方向は、自ずと決まって来るらしい。
「火炎溝!」
舞が思わず、自分が出来る中で一番大きな技を出すと、炎が立ち昇って三体を取り囲み、大きくダメージを与えたようだった。しかし、その攻撃で三体は一気にこちらへ向けて移動した。メグが慌ててシールドを張った。
「どうしてこっち来るのよ?!」メグが言うと、グーラの一体がそのシールドをまるで飴細工を食べるかのようにむしゃむしゃと食べた。「ええ?!なんで食べるの、口から血が出てるのに!」
普通のグーラはこんなことはしない。口の中どころか、手も触れた所は全て傷付くからだ。戸惑うメグに、グーラは向き直った。
「待て!くっそう、まだ倒れないか!」
シュレーは、一体を後ろから倒して叫んだ。すると、圭悟の声が飛んだ。
「メグ、舞!下がってろ!シュレー、魔法を使うな!こいつらの目当ては、命の気だ!」
圭悟に押されて、メグと舞は後ろへ放り出された。変わって圭悟が剣を手に残った二体に斬り込んで行く。
「やっと来たか。お前はそっち頼む。オレはそっちだ!」
圭悟は頷いて、手早く手を動かして回り込んだ。シュレーと舞から既にかなりの傷を負わされていた二体のグーラは、その場に大きな音を立てて倒れて行った…。
息を切らせながら、シュレーが圭悟を見た。
「遅い。体力が無くなるかと思った。」
圭悟は、倒れたグーラを見て言った。
「街の入口近くの旅籠で居たんだ。そこで店主といろいろ話していて、そこに来ていた他のパーティの奴らとも話して状況を聞いた。シュレーは聞いたか?命の気のこと。」
シュレーは頷いた。
「ちらっとな。あと、ここにグーラが度々来るってことぐらいか。」
次々に保安官達が集まって来る。圭悟は息を付いた。
「後は任せよう。どうせ今日はシオメルに足止めだ。開いてる旅籠を探そう。今ので、少し金になったろう。」
大きな荷車が運ばれて来て、一体一体運ぶ用意を始めているのを見て、舞はため息を付いた。怖い…こんなのが、ごろごろ居るなんて。これで、一体いくらって感じでお金になるのかしら。
ちらと腕輪を見ると、点滅して明るくなったかと思うと、光が収まった。今ので、倒したことが記録されたのね。
保安官の一人が寄って来た。
「これ、いくらか持って行きます?それともこっちで買い取っていいですかね。」
慣れた様子でそう聞くのに、シュレーが答えた。
「ああ、買い取ってくれ。」
シュレーが腕輪を差し出すと、保安官は何かの、レジで見るようなピッとする機械のようなものをそれに当てた。光輝いたと思うと、光が収まった。同じことが、皆の腕輪にも何もしないのに起こっている。舞は言った。
「皆同時に光るの?」
圭悟は頷いた。
「パーティの金は一緒だ。つまり同じ財布から出してる訳だな。その杖を買ったのも、知ってたよ。こっちも光るから。」
舞は、少し後ろめたくて下を向いた。
「その…私みたいなのに、結構高価そうなのを買ってもらってしまって…。」
圭悟は驚いたような顔をして笑った。
「いや、安い安い。だってそれ、ディアムだろう?見るまで分からなかったけど。ディアムで10000金切るなんて安いよ。」
舞はおずおずと訊いた。
「単位が分からなくって。どれぐらいになるんですか?円に換算すると。」
圭悟は頷いた。
「大体十倍したらいいと思うよ。つまり100金で1000円ってことかな。市場でリンゴ一個買ったら10金だった。」
じゃあこれ、まけてもらっても75000円じゃないの!高ーい!
「ひえ~私にこんな杖…。」
舞が握るのも怖くなっていると、牧場の小屋の中から初老の二人が出て来て、話し掛けた。
「あの…メグ?」メグは振り返った。「今日はシオメルに居るの?よかったら、うちに泊まって行かない?旅籠、最近は満室が多いでしょう。部屋が二つ余ってるから、よかったら。」
メグはパッと嬉しそうな顔をしたが、ばつが悪そうに言った。
「でも…悪いから…。」
レムが進み出て言った。
「何を言ってるんだよ。オレの足を治してくれたのに。遠慮なんかすることないよ。さ、皆中へどうぞ。」
皆は顔を見合わせた。そして、圭悟が言った。
「では、お言葉に甘えて。」
「やったな、メグ。旅籠代が浮いた。お手柄だ。」
歩いて行きながら、シュレーが小声でメグに言ったのを、舞は聞き逃さなかった。
マイユのおいしい料理を食べてホッと一息ついた一同は、食後のお茶を飲んでいた。シュレーが、スマホの大きいヤツみたいなものを出して、テーブルの上に置いた。
「旅程を決めよう。マイが地理感覚全くないから、地図を出すぞ。」
目の前には、地図が表示されてあった。
(よかった、日本語だよ。でも、なんでだろう。)
舞は思ったが、深く追及してはいけないとそれを覗き込んだ。
「今はここ、シオメルだ。」シュレーが地図を指した。「オレ達は首都バルクへ行きたいんだ。本当はこのグール街道を通って行くつもりだったが、さっきのグーラでも分かるように何故か魔法技に寄って来るようだな。だとしたら、レイキが居ないこのパーティではとても無理だ。」
圭悟が頷いた。
「二人で斬り進むなんて体力的に持たないよ。回復技でも、とにかく命の気を使ってると寄って来るらしい。それで、どんどん寄って来て全滅するパーティが後を絶たないんだそうだ。怪我も出来ないような危険は冒せないからな。河を下って途中運河に沿って首都へ向かうのが一番だろう。」
シュレーが腕を組んだ。
「何よりそれが早いのは最初から分かってたことだ。金がかかるんだよ。」
皆がうーんと考え込んだ。メグは言った。
「ハン・バングまでは船で行って、その後運河沿いに歩いたらどう?」
「それなら鉄道の方がいい。」圭悟が言った。「ハン・バングとバルクは特急が出てたし。」
「歩いたら一週間は掛かるんだぞ。」シュレーがメグを見て言った。「折角船に乗るのに、時間が掛かってもったいない。」
舞は、三人の話をただ茫然と地図を見ながら聞いていた。そうか、首都の近くには鉄道があるのか。それにしても、ほんとにこんな国が存在してるんだ…。心ここにあらずな舞に、メグが言った。
「ねえ、舞も思うでしょ?船で最初から最後まで行けたら、楽よね。」
舞はハッとしてメグを見た。
「ええっと…私、まだ良く分からないから。船って高いの?」
圭悟が頷いた。
「ここから首都まで乗り継ぎ無しの便だと一人2500金はする。何しろ十日間の船旅だからな。運河に入る所、ハン・バングで乗り換えたらちょっと安くなるから2000金。ただローカルで荷と一緒だから遅いんだ。途中あっちこっちに停まる。着くのは歩いてグール街道を行くのと変わらない。15日間ぐらい掛かる。」
聞いていた、レムとマイユが顔を見合わせた。
「首都までは行かないんだが。」レムが言い始めて、マイユが頷いた。「ルクルクの肉をシアへ向けて運ぶ船が明日の早朝出るんだ。ハン・バングにも一時間ほど停泊するはずだから、それに乗って行ってそこで降ろしてもらったらどうだ?」
シュレーが、期待に満ちた顔でレムを見た。
「それが本当なら、有り難い。ハン・バングからならどうにでも出来るしな。」
しかし、レムは時計を見た。
「もう11時だろう。明日、4時に船が出るんだ。」
皆は顔を見合わせた。睡眠時間が足りない。
「とにかく、もう寝よう!」圭悟が立ち上がった。「絶対それに乗せてもらわないと、こんなチャンスないんだから!」
シュレーも立ち上がった。
「3時に起きろよ!ここから少し歩かなきゃならないんだから。」
舞は慌てて立ち上がった。自分は絶対朝には弱い。
「メグ、起こしてね!私、朝弱いから!」
「え~私も起こしてもらおうと思ったのに~!」
苦笑するレムとマイユに見送られ、四人は寝室へと駆け込んで行った。
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