第4話こっちの世界
楢橋は、とにかく早く説明して理解してもらおうと眉を寄せて考えて、話し始めた。
「ここは、オレ達がたまたま拾った玉を手にした時から来るようになった場所で、君がいつも生きてる場所とは全く違う世界なんだ。」楢橋は言った。「オレ達だって、最初はどうしたらいいのか分からなかったんだが、ここに来てもう、五年ぐらいになるからね。慣れて来て良く分かるようになった。」
舞は、理解しようと必死だった。
「…異世界かなんかに落ち込んでいるような?」
楢橋は頷いた。
「そう。分かっているのは、まるでゲームの世界のように、ここには魔物が住んでいて、それに頻繁に遭遇するってことと、この世界は未知のことが多くて、世界中でいろいろ不思議なことが起こってるってことだ。オレ達はここで物を買うにも何をするにも金が要るんだが、ここの金は仕事をすることで得られてね…魔物を倒すとか、誰かの困っていることを助けてやるとか。オレ達は専属の情報屋からいろいろ情報をもらって行動するんだが、どうもその情報屋が持って来る情報によって、デカい仕事が舞い込むことがあるみたいでね。そのデカい仕事ってのが、世界を正す仕事…まあ、ゲームでいうところの、メインのストーリーみたいなもんか?そんなことなんだよな。だが、今の所、そんなものに当たったことがない。どこか別のパーティーが一つデカい仕事を成し遂げたら、ニュースになるからオレ達にも分かるんだけど。オレ達はこの世界では差し詰め、サブキャラでも無い感じなんだろうよ。」
メグが言った。
「つまりはね、ここでは生きてくためには情報屋のくれる情報から仕事をして、お金を稼がなきゃならないのよ。それこそコツコツと。でも、大きな仕事をしたら、それだけたくさんお金もあるから魔物だって倒しに行かなくてもいいし、楽出来るのよね。」
舞は眉を寄せた。
「生きてくって…最悪戻ったら食べて行けますよね?」
それには、楢橋が首を振った。
「戻れないんだよ。」険しい顔をしている。「何か知らないけど、何かを成し遂げないと戻れない。だから、こっちで野垂れ死ぬのが嫌なら、戦うよりないんだ。オレは最長一年戻れなかったぞ。さすがにもう、帰れないと思ったね。」
舞は顔を青くした。それって…私も?
「もしかして、私もですか?」
メグが頷いた。
「残念ながら、そうみたい。アクシデントみたいなものだけど、仕方ないわよ。一度来てしまったら、何かのはずみでまた来てしまうから。どういう訳か、私達同一のパーティーは必ず一緒に来るんだけどね。」
舞はベットの下に足をついて座った。
「困ります!明日は仕事なのに!お父さんやお母さんだって心配する…!」
楢橋は苦笑した。
「ああ、それは心配ないよ。君がこっちへ来てしまった時間に戻るだけだ。オレもやっと慣れたが、一年こっちに居た後にあっちへ戻っても、その時点での昨日の仕事が思い出せないんだよな…それが参った。だから、オレだって出来たら早く帰りたいんだよ。遊ぶのに数日ぐらいだったらいいけど、何年もってなるとあっちでの生活に支障が出て来るからさ。」
メグが頷いた。
「そうそう、私もそうなの。だから、一緒に今度の仕事を情報屋に聞こう?もうこの旅籠の下へ来てるはずなんだ。ここが私達の拠点なんだよ。旅してる最中でなかったら、いつも、ここのこの旅籠の部屋から始まるから。」
楢橋も頷いた。
「さ、行こう。ディクっていう情報屋がオレ達の専属なんだ。オレはどうもあいつが悪いって思うんだよなあ。デカい仕事の話持って来た試しがないっての。ボランティアみたいな仕事ばっかり持ってきやがって。」
立ち上がって、歩いて行きながら言う。メグが苦笑した。
「まあまあ、一度決めてしまったら情報屋を変えられないのがこの世界の決まりだから。じゃ、行こう?舞って呼んでいい?」
舞は頷いた。そして立ち上がってビックリした…服が、クリーム色のミニのフレアースカートの、ワンピースになっている。しかも、上はまるでセーラー服のような大きな薄い黄色の襟が付いていて、靴は短い茶のブーツ。ご丁寧に、腰の後ろには大きな長いリボンがついていた。まさかと頭を触ると、そこにはまた幅の広いヘアバンドが付いていた。
「これ、あなたのみたいよ。」
ベッドの淵にもたせ掛けてあった、長い槍のような物をメグが渡してくれた。銀色の持ち手に、先には三日月の形の金色の大きな飾りらしきものが付いている。舞はまたため息を付いた…本当に、私はここで戦うのかな。これ持って。
仕方なくそれを握り締めると、楢橋が言った。
「じゃあ舞。オレの事は圭悟って呼んでくれ。多分だけど、格好から見て前衛か中衛だろう。オレは前衛が得意だから、一緒に教えるよ。」
舞は顔を赤らめて頷いた。なんてラッキー…圭悟さんて呼べるなんて。夢でもいいの、ほんとにいい夢だわこれ。
しかし、それが甘い考えである事は、舞はそれから思い知って行ったのだった。
部屋を出て、廊下を抜けると、下へ向かう折れた階段があった。
下では、カウンターの席や丸いテーブルの席があり、皆自分達と同じような格好で飲み食いしている。
舞はホッとした…自分達がおかしい訳じゃないんだ。
圭悟が先に立ってどんどんと木の階段を降りて行くのに、メグと舞はついて行った。回りを見ると、誰も舞に気を止める様子はなかった。人のように服を着て二足歩行しているのに、間違いなくカワウソだという者も居れば、熊やら豚を思わせる者もいる。だが、大半は自分達と同じ姿形だった。実際に見ると、二足歩行で同じぐらいの大きさの動物が話すって、怖い。
舞が緊張気味にしていると、奥のテーブルにラッコが座っていた。そう、どう見てもラッコだった。ラッコと、ヒョウが向い合せに座っているのは、とても奇妙だった。
「ケイゴ!あれ、レイキは?」
ラッコの言葉に、圭悟は首を振った。
「ちょっとアクシデントがあってね。こっちは新しい仲間だ。舞という。舞、これがディクだ。オレ達の情報屋だよ。こっちは、仲間の一人のシュレー。」
舞は、緊張気味にラッコとヒョウに頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
三人はそこのテーブルに腰掛けた。
「…レイキが抜けたら、厳しいじゃないか。あいつは後から来るのか?」
どう見てもヒョウのシュレーが言う。圭悟が首を振った。
「それが、玲樹の奴はあの玉を落としやがって、舞がたまたま拾ったからこっちへ来てしまったんだ。だから、一度向こうへ帰れないと駄目だろうな。」
ディクが頭を振った。そして、声を潜めて言った。
「今度の仕事は大きな仕事の臭いがするぞ。何しろ、世の再生とやらが終わったばかりで大きな仕事がついぞなかっただろう?今度のは、次の一番大きなヤツだとオレは見るね。」
シュレーが呆れたように言った。
「お前、前にも同じように言ったではないか。今は情報が錯そうしている…何しろ、お前達が言う所の次のメインストーリーとやらがまだ始まっていないからな。平穏な日々が続き過ぎている。そろそろだと、皆色めき立っているのだ。どこの情報屋も、我こそはと必死だろう。それに、お前が持って来たのは人探しじゃなかったか?」
ディクは胸を張った。
「何を言うんだ。今度は本当にオレの野生の勘が働いてるんだぞ。だから、レイキ無しで戦力に欠けた状態だとヤバイと思う。マイを早く登録しちまおう。見た所、換金用のブレスレットもしてないじゃないか。」
言われて、舞は皆の腕を見た。皆、形はまちまちだが、それぞれ腕に綺麗なリストバンドのようにぴっちりした金属の輪を付けていた。
「換金用のブレスレット?」
舞が不思議そうに言うと、ディクが頷いた。
「そう。魔物を倒したら、それが覚えててこっちへ帰ってから役所の機械に翳すと金に変わるのさ。支払もみんなそれを機械に翳すだけ。便利だろう?」
つまり、自分は今、文無しなのか。舞は急に心細くなった。
「そうだな。どの道どんな仕事を受けるにしろ、玲樹が居ないんじゃ困るしな…舞を登録しよう。そしたら、あの玉を舞の分ももらえるだろう?」
ディクは頷いた。
「そうだ。この子が増えたのだって、もしかしたら人数が要るからかもしれないぞ?ほんとに今度の仕事はヤバイんだって。」
圭悟は顔をしかめた。
「それはそれで嫌なんだけどな。大けがするようなことがあったら、また治るまで帰れないじゃないか。オレ達で手におえるようなものなんだろうな?」
シュレーが口を挟んだ。
「ケイゴ、お前らしくない。いっそこっちで暮らそうかと言ってたんじゃなかったのか。オレは、お前の能力はそんなものではないと思うがな。」
ケイゴは、肩を竦めた。
「ま、やるだけやるさ。」
一同は、ディクについて、舞の登録のためにその旅籠を出て街へと出て行った。
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