#08
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『ああ、あ、し、し…死んでる…?信田さん、信田さーん!?』
『あ、あんなに血が出てるぅぅ…!絶対死んでるよぉぉ…』
『け、警察、警察呼ばなきゃ!』
「大家め、行ったか…、七香!七香ーーー!!」
「………」
「トイレから出てこい七香ーー!」
「………」
「てめえ、ドッペルもオレも殺して一人バックレようったって…!」
「………」
「そうはさせる…か…!ゴボッ、ゲホゲボっ」
「………」
「ゲフ、本物のナイフだったとは…」
「………」
「ビックリナイフなんて始めから無かったんだな…?う…」
「いいや、ビックリナイフはここにあるさ」
「…なッ……!???」
「これのことだろう?」
「ど、どうな、グフ、どうなっている…?」
「簡単なことだよ、全部、君が死ぬ為の計画だよ」
「おまえ、おまえは、お、おれのドッペ…」
「僕と七香さんは付き合いが長くてね、数年前から計画していたんだ」
「おまえは、おれ、おれの、ド」
「結構長い間、待っていたんだ。そして君は現れ、七香と知り合うように画策し、付き合うようになった」
「オレの…ドッペル…」
「これから七香さんには試練がある。君は間違いなく自殺した訳だが警察は間違いなく七香さんを容疑者として取り調べるだろう…彼女が無罪を立証してから、僕らの計画は完遂することになる」
「…ドッペ…」
「ああ、そうか、最後に僕が君のドッペルゲンガーじゃないことを証明しないといけないね」
「…ドッペ…ル…ゲンガー…、め…」
「たしかに七香さんの言う通り、そんな存在はないとすれば『悪魔の証明』としてドッペルゲンガー自体の存在は事実上証明不可能だ。
『悪魔の証明』を知らないかい?つまり『ない』ことを証明するのは、ほぼ無理だということさ。
幽霊、幻、空想の産物…どんなに偉大な者がどれほど『ない』と主張しようと、証明はできない。
しかし。『ない』と言うことは『ある』から言えるんじゃないだろうか?そうは考えられないかい?
初めから無いものなんて無いんじゃないだろうか?
『有』があるから『無』ができるんじゃないだろうか?
『有る』モノがなくなるから『無くなる』んじゃないか?
人が死ぬから『なくなる』んじゃないか。
人間だって『無』からは生まれやしない。
遺伝子、ゲノム、DNA。個人の核さえ親元から製造されている。
肉体や栄養も母親の胎内で授かったモノだ。
背が伸びるってことは細胞が増えてるってことだ。
細胞が増えてるってことは細胞が核分裂したってコトだ。
細胞の核分裂は成長の証し。栄養やエネルギーの摂取によるもの。
それは勿論、外部から取り入れている。
絶滅した生物はクローン培養という術以外に誕生するということは有り得ない。
無から何が誕生するというんだ?
『無い』から『有る』ってどういう理屈だ?
宇宙がどうやってどうゆう理屈で『無』から生まれるんだ?
原子も空気も空間も時間も結果も原因もなにもかも、何も無いとこから何が生まれるんだ?
『無』というとこには、そう、結果も原因も無いんじゃないのか?
つまり『無い』証明をするという議論は野暮なんだよ。
『あった』んだから。
『あった』からこそ『なくなった』んだから。
そうすると宇宙に始まりなど無かったんだ。
理解出来ないかな?この崇高な思想は。
しかし世の科学者達は『オッカムの剃刀』を使いたがる。
最も単純な理論が最も確かであるという、よけいなモノを削ぎ落とした悲しい原理だよ。
だからこの世は『無』から生まれたなどと、理論の経済性を考慮したがる……
…おっと、横道にそれてしまったね。
えっと、『悪魔の証明』だったかな?
『ない』証明はできないのか?
しかし、ない、と言うことはあるからこそ言えると。
議題はなんだったかな?
あ、そうそう。ドッペルゲンガーの存在を証明しろとのことだった。
だから、僕は違うよ。
僕はドッペルゲンガーなんかじゃあない。
でも、『ない』と言ったら証明が難しくなると思うだろ?
ところがどっこい、そんなことはない。
ドッペルゲンガーの存在は有ったんだ。」
「君がドッペルゲンガーだったんだ。」
END
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