#03

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「ほら、信じてない。」

「……」

「だから言いたくなかったのに。」

「……」

「調書に書ける訳が無いってね。」

「……」

「ね?無駄だったでしょう?」

「要するにキミは、」

「要するに、って口ぐせ?」

「…キミは、その信田宅からテレポートして自宅に戻った。

それで応屋の目には触れていない、そうゆう事か。」

「ショウユウ事。」

「ソーッスか…………ゴホン。それ置きなさい…。

オイ、この食器下げてくれ。…そうかあ…テレポートできるのか…」

「……」

「……」

「困ってるでしょ。」

「そうだね、少しでも信憑性があれば、と思ったのだが。」

「信じられないってね。ハイ、言われると思ってましたよ。」

「いや、まだ信じてやる可能性がなくはない。」

「…え。」

「実演してくれるか。」

「テレポートを?」

「そう。」

「今?」

「そう。」

「ここで?」

「そう。」

「それは無理。」

「何で。」

「三大欲求を満たしているから。」

「どういう意味だ。」

「食欲はカツ丼食べたら満たされました。性…あっちの方は彼とよろしくしてましたし…

睡眠欲は濃人が死んじゃってから二晩泣き続けてたら案外ぐっすり眠れたもので。」

「それがテレポートと関係があるのか。」

「欲の方向へ瞬間移動するのです。心から所望するモノの場所へ。

最たるものがその三大欲求。他、細分化すると物欲や金銭欲、独占欲に…」

「あーあーあー、な、成る程。要するに願った場所に移動が出来るって訳だ。」

「その時は切にマイ便器を所望しました。」

「…で、今は満ち足りているからテレポートは出来ないという訳だ。」

「ほにゃららな訳だ、ってのも口ぐせって訳だ。」

「他に欲求は。」

「濃人が死んでから全て消え去りましたよ。

そんなヴィトンの財布が欲しいなんて言ってる場合じゃないでしょ、今は。

まあ今はあっけらかんとしてると思われてるでしょうが。」

「失敬…満ち足りてるとは失礼した。」

「でも一つ、心から所望してるモノがありますよ。」

「何だ、言ってみろ。」

「刑事さん、それで軽くやってみろ。って言うんでしょう?」

「そりゃあな。」

「仮にその所望するモノがこの署外だとしても、その場所に警備を張る事もしない。

容疑者が脱走する可能性があるのに。」

「恐らくそうだ。」

「信じてないからね。」

「信じる信じないじゃない。とりあえずやってみてくれと言ってるんだ」

「本当にそうなったらどう対処すんのよ。」

「そりゃ勿論、追わせてもらおうか。そして現代物理科学でもなんでも貢献してくれ。

はははは。」

「でも残念。」

「は。」

「アタシが今心から所望してるのは…無実。」

「何度も聞いている。」

「そしたらアタシはここから逃げる事は出来ない。むしろ…」

「むしろ、ココってか。」

「そう、ココ。無実を手に入れるのはこの場所なのだから。」

「成る程、そりゃテレポートが今出来ないってのは納得だがなんの解決にもならん。

実演するところを見ない限りはキミのテレポート・アリバイは成立しないのだから。」

「だから信じてもらえないわけよ、無理は承知だったわ。」

「テレポート・アリバイは話の筋としては通っている。

…が、その能力を証明してくれない限り、依然キミは容疑者のままだ。」

「ねえ、モルダーかスカリーを呼んでちょうだい。

アタシ的にはモルダー捜査官だけでいいけど。」

「キミがそのテレポートを出来る事を知ってる人はいるのか?又は目撃者とか。」

「いるわ。」

「えっ。」

「…正確には『いた』わ。」

「…何故か焦ったよ。気の毒だが信田は死んでしまった。

彼はもう口を開かないのだから証人にはならない。

…まあ仮にキミの他の友人が知っていたとしても口裏合わせしている可能性も否めない

だろうし。つまるところは実演してもらわないと。」

「……」

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