#02

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「ところで先程言った死亡推定時刻だが。」

「17:32でしたっけ。」

「キミがいうにはその10分前に信田家を出た?」

「はい。」

「そうか、それがキミのアリバイとなるのか」

「だから何?」

「そのアリバイを崩させてもらう。なんの信憑性も無いアリバイだがな。」

「は?」

「証言がとれた。そのアパートの大家からな。」

「あの大家が?何か知ってると?」

「殺人現場となったあの玄葉荘を所有管理している応屋玄葉52歳。

彼は17時から19時までの間、ほぼ毎日玄葉荘の周りを掃除しているそうだ。」

「アパートの周りを掃除しているだけでアタシのアリバイを崩せるっていうんですか?

そもそもあの大家大っ嫌いなのよ。いちいちつっかかってきて。」

「突っかかる?」

「スクーターの停め方から何から何まで。こないだは敷地内でエンジンをかけるな、なんて。

一瞬の事じゃない。」

「その日キミはスクーター置いて帰ったんだね?」

「ええ。急を要していたんで。」

「なんで?急を要するならスクーターで帰宅するだろ。」

「なんで?」

「まあいい。それに応屋は17時から18時の間ずっと玄関口を掃除していたそうだ。」

「だから?」

「『だから?』要するにその犯行時刻、部屋から出る者がいれば応屋が顔合わせているって

ことだよ。」

「スクーターで帰ってれば確かにそうね。」

「おいおい。怪しくなってきたな。要するに応屋はキミが外出するところを見てないと

いう事だ。だからキミがその時刻に家に戻ったというのは嘘だということにはならんかね?」

「嘘は言ってません。アタシ帰りましたもの。」

「じゃあ応屋が嘘をついてるというのか?」

「あの大家が嘘をつく必要があるのかしら?」

「じゃないと説明がつかない。」

「だから見てないんです。大家はアタシが帰るところ。」

「意味が分からないな…。キミが帰る瞬間をたまたま応屋が見てなかったという事か?」

「たまたま……いや、そういうわけじゃなく。」

「どういうことかな。キミはコソコソと見つからないように帰りましたってわけかい?

応屋が大嫌いだからって」

「いいえ。大家とまた顔合わせて小言いわれるのはウンザリ。

けどコソコソなんてしてません。堂々と帰りました。」

「……」

「聞いてます?」

「聞いてるから混乱しているんだ。応屋は言った。

その一時間はドアの開く音さえもしなかったと。」

「やっぱりあの大家、覗き趣味が…。」

「やはり嘘か。」

「嘘なんて言ってません。」

「……」

「つーか、その間誰も濃人の部屋に訪れてないんなら濃人は誰に殺されたんです?」

「その質問そのまんまキミに返そう。」

「……待ってよ、どういうことなの?」

「キミ以外に彼を殺せる人間はいなかったという事だ。」

「いや、だからアタシは自宅にいたんですって。」

「またそれか。」

「……」

「じゃあどちらも嘘をついていない事を条件に推理してやろうか。

要するにキミは信田の部屋の玄関を出ずに自宅に戻った。

…うん、やはり『どこでもドア』が無い限り信じられる話ではないな。」

「やっぱり。結局信じてくれない。」

「信じられると思うのか?いい加減こんな子供のような言い訳するのはやめないか。

キミ、いくつだ。」

「21です。」

「21歳なら分かるな、ドラえもんは漫画の話だって事くらい。」

「面白いですよね。」

「『どこでもドア』があってほしいという願望は何歳までオーケーだ?」

「夢はいくつまで持ってもいいととアタシは思いますよ。」

「ちがう!そういう空想話を現実に持ち込むなと言ってるんだ。

そろそろ本当のことを言ったらどうなんだ。」

「……」

「言えないのか、それともキミは空想を現実にする力があるというのか?」

「言っても信じちゃくれないよ。」

「だから、何を。」

「言っても無駄だから。」

「疲れたけど付き合うよ。何を信じろって言うんだ?」

「信じてくれないなら言っても無駄だって。」

「聞いてみなければ無駄かどうかも分からない。」

「いいんです、絶対無駄に終わる。頭がおかしいんだとか…そういう目でかかってくるもの。」

「……」

「……」


「じゃあ黙って聞いてやる。その信じて欲しいってのは何だ。」

「アタシ、使えるんです。」

「…何を?」

「アタシ、テレポーテーションが使えるんです。」

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