第25話 ~ そして、リズ・シルノフ・アジリエートの場合 ~
眼前に広がる炎の壁。それは奇しくも、先の狩人との戦いの再現だった。
「はっ!」
魔力の流れを捉え、『弱い部分』をアスライトの剣で切り裂く。直撃すれば人間などすぐさま炭化するであろう灼熱の炎。しかしそれは私の眼前で二手に別れ、髪一本すら焼かずに左右へ逸れて行く。
魔術斬り。
この技能がある限り、私に元素魔術は通用しない。
それはニアも解っていたはずだ。それでもあえて魔術を使ってきたというのなら、それには直接攻撃以外の理由があるはず。瞬時に周囲に視線をめぐらす。ニアが何故魔術を使用したのか、その理由は明白だった。
魔術の炎は私には届かない。けれど私の周囲を囲い、その視界を塞いでいた。つまり、ニアの狙いはあの狩人の少女と同じ。炎を目隠しにした、死角からの奇襲。
いや、今回のそれは奇襲としては甘い。私は既に、ニアが私の死角を突いて襲ってくると知っている。それにニアには、あの少女ほどの速度は無い。少女は耐火布を盾にして炎の壁を抜けて来たが、ニアにはそれも無く、炎を抜けるためにはそれを魔術斬りで切り裂く余分な時間も必要だ。確かに、間合いに踏み込んでからの斬戟の速度は神速を誇るが、踏み込んで来た瞬間を捉えれば迎撃は間に合ってしまうだろう。
唯一ニアのアドバンテージがあるとすれば、彼女が仕掛けてくるのが真後ろとは限らない事。先の戦いでは少女が、寸分の違いも無く真後ろから奇襲を仕掛けてきたからこそ迎撃できた。だが人間の死角は背後だけではない。左右か、はたまた真上からという事もありえる。
「――。」
私は自らの死角に意識を張り巡らす。
――その思考の全て罠だと気づかぬままに。
そして、次の瞬間。ボッ、と炎が割れるのを見た。
そう、見えたのだ。
何故ならニアは死角ではなく、あろうことか真正面から突っ込んで来たのだから。
「――!?」
ニアは魔術斬りさえ用いず、手に、顔に、火傷を負い、その金髪を燃え上がらせながら、私が切り裂き薄くなった炎の中を突っ切ってくる。
見えていながら私はそれに反応する事が出来なかった。私は見えない位置からの奇襲を警戒していた。それが、あの狩人の少女との戦いが無意識下に刷り込まれていたためだと気付かなかった。故に、真正面こそが、私の意識の死角になっていた。ニアは、それらを全て分かった上で勝負に出たのだと悟る。
「あああああああああ!」
「――。」
スローモーションのように、しかし間に合わない速度でニアの剣が一直線に伸びてくる。私は、間に合わないとしりつつも反射的に剣を構え、しかし――。
私は、剣が体を貫く音を聞いた。
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