第18話 行動開始

 ……結局。あの後、リズを見つける事は出来なかった。

 近くの路地を探すのはもちろん、付近一帯で聞き込みまでしたが、目撃証言一つ上がらない。そもそも周囲に人が少ない。偽リズに発見されるのを避けるために、人通りの少ない場所を選んだのが逆に災いしてしまったのだ。森と違って街中は足跡等の痕跡も残らない。時間が経ってしまった今となっては、自力でリズを追跡するのは難しいだろう。

 ボクは一度捜索を切り上げて宿屋に戻ってきていた。リズの捜索はジュゼさんとラスティさんにもお願いしている。もしかしたら二人が何か情報を得たかもしれないと思ったのだ。

 部屋で暫く待っていると、ジュゼさんとラスティさんが揃ってやって来た。しかし、その表情を見てボクは、リズがまだ見つかっていない事を悟る。


「どうでした……?」


 念のため、そう聞く。案の定、二人から返ってきたのはため息だった。


「だーめだ。見つかんねえ。目撃証言はちらほらあるんだがな。」


 そう言ってラスティさんはベッドにドカッっと座り込む。それに従うようにしてジュゼさんも隣に座った。二人とも街中を走り回ってくれたのだろう。疲労の色が見える。


「今はあの殺人犯の捜索と合わせて、リズさんも探して貰うよう他の冒険者に依頼を出してるわ。範囲も今まではこの周辺を重点的に探してたけど、それを町全体に広げるようにお願いしてる。」


 ジュゼさんが言う。

 ちなみに、偽リズの捜索の方も今まで有用な情報は入ってきていない。これまでに得られた情報は、それらしい人を見かけた、とか、あの辺りが怪しい、とかその程度の曖昧なものだけだ。


「でもまさか、リズさん自身が逃げ出すなんてね……。」


 ジュゼさんが呟いた。その呟きは、この場に居る三人全員に共通したものだろう。偽リズの襲撃からリズを守っていたはずなのに、守っていたはずのリズ自ら逃げ出してしまったのだ。想定外にも程がある。

 そもそも、何故リズはボク達から逃げ出したのだろう。分からない。分かるはずが無い。どう考えても合理的な理由は思いつかない。でも、予想くらいは出来る。

 きっと、リズはあの偽リズに会いに行ったのだ。あの夜、偽リズは言った。「あくまでリズ・シルノフ・アジリエートを名乗るのなら、戦わなくてはいけない。」と。その言葉の真意は理解できずとも、リズはその言葉に従ったと考えるのが自然だ。

 ……リズが偽リズと二人きりで会う事だけは、絶対に阻止しなければならない。少なくともトーファ様が戻ってくるまでは二人を合わせてはならない。ただでさえ、会っただけでリズは倒れたのだ。今でさえ廃人になると言われているのに、これ以上の負担がかかればいったいどうなる事か。

 それに加え、偽リズは「戦わなくてはいけない」と言った。それは即ち、二人が出会えば殺し合いになるという事だ。万全の状態ならまだしも、今の状態のリズをアレ相手に戦わせるわけにはいけない。

 なら、そのためにボクは今何をするべきか――。その答えは、一つだけ。

 それは、最悪の手段。でも、この数日間、ずっと考えていた事だ。……まさか、本当に実行に移す事になろうとは思わなかったが。

 ボクは決意して立ち上がる。


「ラスティさん、お願いがあるんですが、ちょっと良いでしょうか。」


「あ?何だ?」


 うなだれていたラスティさんは、ボクの言葉に顔を上げた。


「リズの捜索、ボクに考えがあります。それでなんですけど……街中の捜索は引き続き続けてもらうとして……先日の鼠狼の討伐について、「森の鼠狼は全て討伐済み」という噂を流してもらえませんか?」


「は?それはどういう――」


 リズの捜索と鼠狼。本来であればまったく関係の無い話。訳が分からないのも仕方ないだろう。なに、そう難しい作戦ではない。ボクはラスティさんとジュゼさんに、ボクの作戦について説明し始めた――。

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