幕間4 ~リズ・シルノフ・アジリエートの場合~

 夢を見ている。

 それは、とても懐かしい夢。

 一人の少女が、剣を振っていた。その剣技は凡百のそれ。特筆するべきものは無く、どれだけ贔屓目で見たとしても、それは余りにも実みのりの無い修練だった。

 皆が彼女の剣になど見向きもしなかった。それどころか、彼女は人々から嫌悪され、嗤われ、蔑まされた。

 平凡だとは言え、しかし、彼女がそこまで虐げられる理由は私には分からなかった。きっと本当の意味での理由なんて、どこにも無かったのだ。理由があったとすれば、彼女は初めからそういうモノだったのだろう。

 彼女は、いつも私の姿を見つめていた。見つめ、私が何をするのか、何を考えているのかを常に観察していた。彼女は私の様に成ろうと、その全てをそのための努力に向けていた。

 ……そう。私の様に。

 私は常に、人々の輪の中に居た。人々は皆、私を褒め称え、拍手喝采した。人々は私を見て、天才だと言った。

 ああ、確かに。私は天才だったのだと思う。

 私に習得出来ないものは無い。たとえそれが――誰かの弛まぬ努力によって織り上げられたものであったとしても例外ではない。そんな努力の価値など理解せずとも、私はあらゆる技術を取得してみせる。

 ……だから。

 だからそんな私が。

 彼女に目を向けたのは当然の事だった。

 人々は私の事を天才と賞賛した。賞賛するだけだった。けれど、彼女だけは私を賞賛しなかった。彼女はただただ私を観察し、模倣し続けた。

 そう、彼女だけが。私の事を天才ではない、努力次第で誰にでも辿り付ける程度の唯の人間と見ていたのだ。

 ああ――だから私は、今でも。彼女に手を伸ばした事を後悔している。

 あの時、私が手を伸ばさなければ。

 彼女が私に成り代わろうとする事も、無かったのだ。

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