帰り道

 ゆっくりと、俺の前を相棒が歩く。

 相棒の背中が言っている。自分は、不機嫌である! と。

 いや、悪かったよ。お前がいるのに温もりが欲しいみたいに思ったのは悪かった。

 でもな相棒? 分かるだろ? 

 やっぱほら! 女ってのはさ……つまりー……そのー……。

 ……おっぱいじゃん?

 相棒に後ろ足で土をかけられた。

 度々思う事があるんだが、相棒……俺の心読んでる?

 ……。


「どうなんだ!? 相棒! 」


 怖くなって思わず叫んだ。

 立ち止まる相棒。

 そして、おとずれる一瞬と言う名の長い沈黙。

 額から汗が一筋滴り、喉が大きく鳴った。

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 沈……長すぎやしませんかね? 沈黙。


「あ、相棒? どした? え? そんなに怒ってんの? 悪い! 悪かったって! 機嫌なおして……。」


 茂みが音をたてた。

 警戒し、周囲を探る。

 これは……囲まれ……てんのか? 

 五……六人あたり……か。でもなんだ? これは……気配が、小さい? 子ども? だからと言って油断はしねぇ。

 腰のナイフ抜く。


「……何か用か? 面白れぇジャンクならもらってやるよ。」


 返事はない。

 おい、いい加減にしろよ。

 さっきから沈黙沈黙沈黙沈黙……。

 間がもたねぇだろうが!

 ほら見ろよ! 相棒も鼻息荒くして前足で地面蹴って臨戦体勢とってるだろ! 目ぇ開く前にごめんなさいしろよ!


「マテ! マテ! コウサン! コウサン! 。」


 相棒にビビったのか、ぞろぞろと小さいのが出てくる。

 片言で口々に喚くこいつらは……。


「なんだ、ゴブリンかよ。」


 こんなとこまで来やがって。 なんだ? 盗賊でもやってんのか? でも相手が悪かったな。まあ見逃してやるから、さっさと帰りな。衛兵に追っかけられてもしらねぇぞ?


「ゴミ! オマエ! ゴミ! 」


 真ん中にいるリーダー格の胸倉掴んで持ち上げる。

 誰がゴミだ! この野郎! 


「チ……チガウ……オレ、オマエ、ナカマ……。」


 一緒にするな。

 でもまあ、敵意は無い……みたいだな。取り巻きも足元でわちゃわちゃうるせえし。特別だぞ? 放してやる。


「で? 何? 」


 わちゃわちゃわちゃわちゃ……。

 ゴメン。俺の聞き方が悪かった。


「うるせぇ! ……真ん中のお前が話せ。」

「ゴ、ゴミ。アル。オマエ。ゴミ。スキキイタ。アゲル。」


 なんだよお前ら。いい奴らじゃねえか。

 しゃーねーなー! もらってやるよー! どこにあんだ? なあ? なあ? なあ!?

 

「オレタチノ、スミカ。イル。」


 そーかそーか。

 お前らの巣にいるんだな? よし、早速案内……ん? いる? 


「おい待て。いるってなんだよ。ヘドロから生まれた魔法生物とかじゃあねえだろうな? そーゆーのはなー、ゴミとは言わねえんだよ。 わかるか? 」


 キョトンとしやがって。こりゃあ通じてねえな?

 

「あのなあ……。」

「チガウ! イル! オレタチノボス! アンサラー! ナッタ! 」


 ……今、つったか?


「悪いんだが……俺には無理だ。転生者アンサラーなんて、とてもじゃないが手に……。」 

「ムラ、オソウ! メイレイ! オレタチ! イヤ! ミンナ! ナカマ! 」 


 村……襲う!? 


「デモ! メイレイ! キカナイ! オレタチ! コロサレル! 」

「どう言う事だ!? 村ってはの村か!? 分かるように話せ! 」


 いきなり何言い出すんだこいつら! 転生者アンサラーだあ!? 村を襲うだあ!?

 馬鹿な事言ってんなよ!? とにかく、村のみんなに知らせねえと……。

 いや、ちょっと待てよ。


「……嘘ついてねえだろうな? 」


 こいつらゴブリンは、馬鹿のくせにずる賢いからな。

 はい、そうですかと信じる訳には……。


「ウソ! チガウ! オレタチ! ココキタ! イノチガケ! 」


 ……。


「タスケテ! ……タスケテ……。」

「っち! 信じてやるよ! 村のみんなに事情説明したら、王都に行って来るからちょっと待ってろ。」


 お嬢さんに紹介状書いてもらわなきゃいけねえなあ。

 ちょっと顔合わせづれえけど、お屋敷に戻って……。


「ソレ! ダメ! 」

「駄目? 何言ってんだ。そうしねえと……。」

「ムラ! オソウ! キョウ! ヨル! 」

「なっ!? 」


 ……正直、村の連中がどうなろうと、俺には知ったこっちゃない。

 長い間、村八分だった訳だし? 恨んでねえと言ったら嘘になる。

 でもなあ……。

 今から逃げりゃあ、全員無傷で助かるだろう。

 でもなあ……。

 お嬢さんは、逃げてくんねえんだろうなあ。

 ノブレス何とかとか言って、一人でもみんなの財産守ろうとするんだろうなあ。

 両手でバチンと頬を叩き、大きく息を吐き出す。


「腹あ括った……! お前らも協力しろ……! 」

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異世界も程々に 停止中 @bisyamon10

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