続、本日のお仕事

 力任せに結界を叩き割り俺たちに飛びかかるが、寸でのところでピタリと止まる。

 相棒の目に魅入られ、異世界人アニンヴァイティは指先から徐々に石へと変わっていく。

 普通の奴なら、あっという間にカチンコチンなんだけど、こいつらの抵抗力たるや……。

 だけどそれが仇になってるみたいで、痛いのか苦しいのか、すげー表情で叫ぶんだよ。

 なんつーの? 断末魔ってヤツ?

 で、結果出来上がるのが、俺の一番の収入源! この趣味の悪い石像ってわけ。


 荷車に乗っけてっと……相棒、嫌なのは分かるけど、そう露骨に嫌な顔すんなよ。

 毎回お嬢さんのお屋敷まで、こんな重いもん運ばせんのは悪いと思ってるよ? でもなぁ? わかるだろぉ?

 荒く鼻息を一吹きすると、相棒は歩み出した。




「ご苦労さま。」


 そう言って差し出された袋を受け取る。

 早速袋を開いて、中のモノを確かめる。一枚、二枚、三枚……。

 あんまり言いたかないんですがね? でも俺も相棒食わせていかなきゃいけないわけでしてね? ホントがっつくようで悪いんですけど……。


「いつもより少なくないですか? 」


 金貨がいつもより少ない! なぜだ!? いつもは十二・三枚は堅いはず……。

 しかし今回は九枚! 一桁! 死活問題だ!


「手間賃。」

「……手間賃?」

「そう、手間賃。結界張ってあげたでしょう? あれ、高かったのよ? ふふ。」


 そ、そりゃあないぜお嬢さん!

 たしかにお嬢さんの手を煩わせたかもしれないが、それとこれとは話が違うじゃないか!

 

「それにね? みんなが言うの。お嬢様はゴミ屋に甘いって。」

「ご、ゴミ屋……じゃなくて、みんなって言うのはつまり……。」

「そう、村のみんな。蜂蜜より甘いんですって。ふふ、おかしい。」


 あいつら陰では俺のことゴミ屋なんて呼んでやがんのか!? ってのは一先ずおいといて、おかしいんならもーちょっと笑ったらいかがですか? 

 作りもん見てーな美人さんなんだけど、どっかおっかないんだよな。特に趣味とか。


「今回の石像はあまり良い出来ではないようだし、妥当ではないかしら? 」


 異世界人アニンヴァイティは、ただ殺せば良いと言う訳ではない。

 たとえば剣で首を撥ねて殺したとしよう。すると異世界人アニンヴァイティの魂が肉体から離れるのだが、こちらのモノではない魂は、天に召されることなく現世をさまよう。

 そうならないように、器である肉体ごと封じるってわけ。

 相棒のように魔眼で石にしたり、眠らせたり氷漬けにしたり……。

 いくつか方法があるんだけど、このお嬢さんには関係ないのだ。


「あまり……良い表情ではないもの。もっと苦しそうでないと。」


 お嬢さんは、結果的に相棒が作り出す石像がお気に入り。苦痛に顔を歪める石像を眺めては、恍惚の表情を浮かべる。

 静のサディズムとでも言えばいいのだろうか? 相変わらず良いご趣味で。

 しかし、昔の小さく可愛らしかったお嬢さんは、どこで間違ってしまったんだ? お兄さんは悲しいぞ! 金貨も少なくて悲しいぞ! 


「それに、帝都まで行ってわざわざガラクタを買わなければ、充分に生活できるはずでしょう? 」


 聞こえなーい。聞こえなーい。そんな正論聞こえなーい!


「お嬢さん、お言葉ですが、ガラクタじゃなくてジャンクです! 」

「それは何が違うのかしら? 」

「……何も違いはありません! 」

「ふふ、ジンはいつも面白いことを言うのね。」


 久しぶりに名前を呼ばれた気がする。

 自分の名前を呼ばれただけなのに、なぜか気恥ずかしい。


「じゃ、じゃあ! 俺はこれで! 」


 なんとも言えない恥ずかしさから逃げるようにお屋敷を出る。

 そんな俺を、お嬢さんが呼び止める。


「ジン! 」


 失礼だとは思ったが、俺は振り返らず応える。


「な、なんでしょう? 」


 顔を見られたくなかったからだ。


「無駄遣い……しちゃダメよ? ふふ。」

「よ! 余計なお世話ですよ! 」


 相棒を引きずるように、早歩きでお嬢さんから遠ざかる。

 名前を呼ばれただけでドキッとしちまうなんて、惚れっぽいにも程があるよな。

 何てーの? 温もり? みたいなモンに飢えてるところもあるし、気を付けねーと、悪い女に騙されちまうかもしれねーな……。

 なーんて言葉とは裏腹に、俺の顔はだらしなくにやけていた。


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