本日のお仕事

 心が痛まないと言えば嘘になる。

 異世界人アニンヴァイティっつったって、姿かたちは俺たちとおんなじなわけだし。

 ただ問題なのは、こっちの世界に来てしばらくすると、あいつら、狂っちまうんだ。


 お偉い学者様が言うには、こちらに来た際に、以前の世界では不必要だったはずの神経回路のようなモノが解放され、何かしらの爆発的な力を得た事により、脳が処理出来ずに、己の圧倒的な力に酔いしれていく……らしい。

 さっぱり分かんねーんだけど、解放酔いって言われてる。


 聞いた話だが、かなりやばかったらしいぜ?

 邪教徒の連中にのせられて、自分を勇者だと思い込んだ異世界人アニンヴァイティが、魔人族の王様殺したんだと。

 王の中の王なんて言われてるようなすげー良い王様だったのに、聞く耳もたず、剣でバッサリ。


 おかげで、魔人と人の関係がこじれるこじれる……。

 まあでも、平和が売りの我らの世界。

 代表者同士の話し合いで折り合いつけたわけですよ。

 自称勇者の首でチャラって事で。


 そのために自称勇者に賞金かけたは良いんだけど、自称とは言え力は本物なわけで、剣聖やら武神やら大魔導士、なーんて呼ばれてるような奴らが挑んでも、ことごとく返り討ち。

 おまけに解放酔いも始まったみたいでさあ大変! 

 慌てた人の王様は、軍隊を投入! その数、一万! 

 半分が死んだそうだ。


 異世界人アニンヴァイティは見つけたら即拘束! そして俺みたいな業者に任せる! これ鉄則!

 

「おーい! ゴミのあんちゃん! 」


 ……どいつもこいつも俺の事をゴミの○○って呼びやがって……まあ良い。


「おーっす! おっちゃん! もうかりまっか? 」

「ぼちぼちでんな! 」


 ガハハ! と笑うまでが俺らのお約束。


「相棒の餌ならこの前もらったばっかだけど? それとも、面白いゴミでもあんの? 」

「違う違う! 村のど真ん中に出たんだよ! 」

「埋蔵金? 」

「んなわけねーだろ! ボケナス! 」


 冗談じゃねーかよ……。ボケナスはねーだろ……。


「こりゃ一大事いちでぇじだって大急ぎであんちゃん呼びに来たってのにしょうもねー事言いやがって! 」


 嘘つけ! その手に持ってるスキットルは何だ!? 顔真っ赤にして真昼間っから飲んだくれてんじゃねーか! 酒臭ーんだよ! ハゲ! 


「……言う割にゃあ随分余裕そうだけどなぁ? えぇ? 」

「余裕なわけあるか! おまえさんに処理してもらわにゃ困る! 」


 お? 分かってるじゃねーかおっちゃん。ハゲだけど。

 俺ぁプロだかんね! そんじょそこらのインチキ業者とはわけが違うよ!


「お役所に依頼したら、俺たちの一か月分の稼ぎがパァだかんな! 早ぉ頼むわ! 」


 このクソハゲ。


「……で、でも良く捕まえたなぁ? 来たばっかとは言え、単純な腕力でも相当なもんだろうに。」

「なぁに、俺たちのお嬢様にかかっちゃあ、あっという間よ! 」


 なんだ、お嬢さんが来てたのか……って事はつまり……。

 

「おっちゃん、お嬢さん、俺に何か言ってた? 」

「ああ! そうそう! 出来たら持って来いってよ。」


 やっぱりかぁ……。

 良いんだけど悪いんだよなー。

 どうすっかなー……聞かなかった事にしよっかなー……。

 なーんて、そうこうしているうちに目的地についたわけだが、これは……。


「出せぇ! ここから出せぇ! 」


 うわー……めっちゃ暴れていらっしゃる……結界壊れそうじゃん……。

 酔いが始まってんのか? 早いな。

 回りが早い奴ぁとんでもねーって証拠だ。

 こりゃあおちおちしてらんねぇな。


「相棒! 」


 俺が相棒に声をかけると、ガラスの割れるような音と共に結界が砕かれる。

 が、ちょーっと遅かったな! 正直冷やっとしたじゃねーか! 

 相棒の見開かれた魔眼が、異世界人アニンヴァイティの視線を捕らえた。

 哀れ、異世界人アニンヴァイティは石になってしまいましたとさ。お仕事完了!

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