三枚のお札



ハコちゃん、5歳!

元気いっぱい女の子!


るんるんるん。


ハコちゃんはお遣いを頼まれました。

生まれてはじめてのお遣い。

上手にできるかな?

ハコちゃんはホントは葉子(ようこ)って名前。

けどみんながハコちゃんハコちゃんっていうからハコちゃんもそれでいいやって思いました。

ーあたし、ハコちゃん!

5歳です!

もう元気いっぱいに挨拶できます。

おっとハコちゃんお遣いお遣い。

ハコちゃん再び歩きだしました。

ちゃんとママに頼まれたモノを持って帰れるかな?

ハコちゃんは卒塔婆というお札をお寺に取りに行きます。

なんでも誰かのお墓参りの時にいるんだって。

「お札三枚」

これを持って帰るのがハコちゃんの使命。

ちゃんと忘れないようにしないとね。

ママはすごく心配してますよ。

ちゃんとできるかな?


あっ。

この家は。

ハコちゃん、とある一軒家の前で足を止めてしまいました。

前にママとここを通った時、かわいい犬がいたところです。

見たいな。

わんちゃん見たいな。

すると門の奥の犬小屋からかわいいわんちゃんが飛び出してきました。

「ウー!わんわん!」

うわー!

今日のわんちゃんはどうやら機嫌が悪いようです。

「わん!ウー、ガルル…」

怖くなったのでハコちゃんは先を急ぎました。

ーあれ?えーと…

おや?ハコちゃん忘れちゃったのかな?

ーお寺!

そう。よく思い出しました。

でもちょっと心配です。

お寺はまだもう少し先ですから。



ハコちゃんは再び歩きだしました。

しかしまた足を止めてしまいました。

どうしたのでしょう?

そこは怖い怖いオバサンのお家。

いつも家の前にオバサンが立って、道ゆく人をにらんでいるのです。

いやだなあ。

ここ、通りたくないなあ。ほら、今日もまた立っています。

あれ?

オバサンがこちらに気付いてびっくりしてるみたいですよ。

どうしたのかな?

ハコちゃんは気になって前に進んでみました。

「ひっ、ひぃぃ」

オバサンは浅黒い顔を白くさせてどこかへ逃げちゃいました。

変なの。

気をとりなおして行きましょう。

ーえーっと。

覚えてるかな?

ーお寺!

そうです、何を貰うの?

ーえっとえっと…

忘れちゃったかな?

ーお札!

よくできました!

さあさあ行きましょう。

お寺はもうすぐです。

でもやっぱり心配です。

お寺の前には線路があって電車がびゅんびゅん行き交います。



踏み切りの音が聞こえてきました。

ハコちゃんはなんだかこの音を聞くと悲しい気持ちになります。


かんかんかん。


何故でしょうか。

よくわかりません。


かんかんかん


踏み切りのそばにきれいな花やお菓子がそなえられてました。

ーわあ。

おっと、ダメですよハコちゃん。

お供えモノをとっちゃ。

ちゃんとお遣いして帰らないと。

何を持って帰るんだっけ?ーんーと、んーと。

あらあら忘れちゃダメですよ。

ーお札!

よくできました!

さあ、お寺はもう目の前です。

あとはこの踏み切りを渡っ…


あっ!

危ない!ハコちゃん電車!



もう。

ハコちゃん、せっかちだからターって駆け出すのでびっくりしました。

ハコちゃんは踏み切りの向こうでニコニコしてました。

でもやっと渡れた。

私は嬉しいですよ、ハコちゃん。

ーわーいお寺!

さあさ、参りましょう。



ーお札くださあい。

ホウキを持ったお坊さんがいました。

ぺたん、とその場にへたりこんでいます。

ーお札くださいな!

あわあわあわ、とお坊さんは腰砕けなカッコウで

「住職、住職~!」

と叫んでいます。

どうしたんでしょう?

すると奥からお寺の和尚さんらしき人が出てきました。

「うひゃあ!」

二人が地面にはいつくばるようなカッコウでこちらを見ています。

「なんまいだなんまいだなんまいだなんまいだなんまいだ」


ハコちゃんはしきりに言いました。

ーお札くださいな!


「なんまいだなんまいだなんまいだなんまいだなんまいだ」


おや?

ハコちゃんが不思議そうな顔してこっちを見ています。

どうしたのハコちゃん?

もしかして忘れちゃった?

指を三本立てて、あたしはハコちゃんに教えてあげました。

「なんまいだなんまいだなんまいだなんまいだなんまいだ」


ハコちゃんは元気いっぱいに言いました。


ー三枚だ!


よく言えました!

ママは嬉しいよ。

よくお遣いできました。

じゃあね。

ママはもう行くからね。

ここまで運んでくれてありがとね。

これからも元気でね。



終り

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